掲載日:2018年05月18日 試乗インプレ・レビュー
取材協力・写真提供/KTM JAPAN
取材・文/松井 勉 写真/増井貴光 構成/バイクブロス・マガジンズ
YouTubeでKTM を検索してオフィシャルの動画を見ると、まず電流が走るような音とともに「READY TO RACE」の文字が現れる。その後、オンオフ問わずエクストリームな走りが来る。上級者向けの難しいバイク、というイメージを持つ人がいても不思議ではない。
ただ、実際にKTMの市販車に乗ってみると、ピークは高いが、裾野も広い。乗りやすく造り込まれていることがすぐに解る。ライダーのパフォーマンスを引き出し、発揮し続けるためにはとにかく乗りやすいことが一番、ということを経験的に熟知しているからだ。
たとえば、長い知見を磨いてきたオフロードでは、滑りやすい路面にどんな足周り設定、どんなパワー特性のエンジンが最適なのか? ということ。モトクロスというスプリントレースだけではなく、数日間続く場合もあるエンデューロレースでは、ライダーがコンマ1秒のために疲弊していては勝負にならない。また、転倒などによるトラブルにも素早く対処できるよう、整備性の良さなど、とにかくライダーのパフォーマンス維持のために、細かくデザインされているのが特長だ。そこに市販車もワークスマシンも差異がないのがKTM流のオフロードバイクだ。
その流儀はもちろんロードバイクにも脈々と流れていて、DUKEにはDUKEに求められる性能が、日常のワークスマシンのごとく作り込みがされているのだ。
だからこそ、790 DUKEはより多くのライダーに乗ってもらうべくKTMは世に送り出した。単気筒よりもフレキシビリティに溢れた2気筒エンジン、V型よりもフレームへの搭載位置や前輪荷重を載せるのに優位となる並列ツインという形式もそこからの着想だ。もちろん、V型エンジンよりも構成パーツを減らせる分、価格もおさえることができる。
KTMのこだわりは全身に及ぶ。たとえば790にはトラスフレームよりも軽くできるブリッジタイプのフレームが採用された。もちろん、エンジンの搭載位置を優位な場所しつつ、ハンドル切れ角の確保など様々な要件を総合判断しての選択だと思う。その素材はクロームモリブデン鋼。エンジンをつり下げて搭載するのは、そのエンジンもフレームの一部として使う。下周りをコンパクトなエンジンとするために、制震バランサーもユニークな配置にした。クランクケースに1本、DOHCのカムシャフトに駆動されるよう、エンジン上部、燃焼室上に1本としたのだ。
また、アルミダイキャスト製のリアサブフレームは、フレームがそのまま外観となるようにデザインされている。いわゆるサイドカバーのように見える部分がサブフレームそのもの。しかもエアクリーナーボックスへの吸気口をもうけるなど、しっかり機能性ももたされている。これも機能パーツを活かすことで余分なパーツを減らし、軽くするデザインの一例だ。
KTMはWPサスペンションというブランドを保有している。高性能なサスペンションの代名詞でもあり、そのスジではお馴染みのブランドだ。790 DUKEにはもちろんこのWPサスペンションが標準装備されている。
フロントにはサスペンションストロークが140mmある倒立フォークを、リアにはストローク量が150mmあるシングルショックユニットを装備。
荷物の搭載やタンデム時に荷重増加を補正するため、リアにはイニシャルプリロードアジャスターのみが装備されるシンプルなサスペンションだが、走らせて解ったのはこのサスペンションが市街地から高速道路、そして峠道まで多くの場面で高い性能を出していること。だからこそ減衰圧調整機構をあえて与えずともカバーされる領域が広いのだろう。
KTMのブレーキといえば、これまでブレンボ製が搭載されることが多かった。この790 DUKEではスペインのブランド、J Juan(ジェイ・ファン)製をチョイスしている。フロントにφ300mmのディスクプレートを2枚、それを締め付けるブレーキは対向4ピストンのキャリパーをラジアルマウントしている。レバー類など、マスターシリンダーも含めJ Juan製だった。リアブレーキシステムはφ240mmのディスクプレートに片押し1ピストンのキャリパーを装備。
タイヤは、フロント120/70ZR17、リア180/55ZR17のスポーツツーリング向けのラジアルタイヤを履く。そのタイヤは「MAXXIS」というブランドで、KTMとはオフロードでのアライアンスが長い。そのMAXXISと790 DUKE用のタイヤを共同開発することで、新たな展開に踏み出すことになった。
すでに海外試乗会で一般道を走らせた体験からすると、このバイクはよりストリート向けに徹底的に磨かれたということが解る。
まずエンジンだ。並列ツインエンジンといえば、ふたつのシリンダーを往復するピストンを交互に動かす180度クランクや、同時に動かす360度クランクが主流だ。
最近では360度クランクから90度だけひねりを加え、270度とすることで、まるで90度の挟み角を持つVツインエンジンと同じ爆発感覚を得るエンジンが人気を集めている。
790 DUKEのエンジンは、ふたつのピストンを75度だけ位相角を持たせた仕様となっている。これはKTMのVツインエンジンのシリンダー挟み角と同じ数字で、エンジンの爆発間隔もそれと同じにしているのだ。
だから、エンジンの音、パワーフィーリングはKTMで体験したVツインにとても近い。排気量や特性の違いにより微妙な個性は異なるが、目を閉じて音を聞けば、間違い無くKTMのエンジンであることが解る。
軽快な印象の吹け上がり、スムーズな回転フィール。新しいエンジンは鋭い音を立てるが、乗り手には従順に対応する。クラッチもスムーズに繋がるし、フィーリングはバッチリだ。低い速度でもガツガツした荒っぽいとところが無く、市街地をスムーズに走らせる。
乗り心地も良かった。市街地のアスファルトやデコボコをスムーズにサスペンションは吸収する。手強さ感がないから、10分も走れば790 DUKEと仲間意識が芽生えてくる。曲がり角や交差点での走りも意志通り。曲がり過ぎも曲がらな過ぎることもない。ここがうまくチューニングされている。
また、足着き性の良さもとっつきやすさに繋がっている。シート前端が細くなっているため、足がストンと地面に下せるのだ。
高速道路で移動したとき、ヨーロッパの高めの移動速度でも、タイトなハンドルバーと、やや後退したステップにより、風に対する踏ん張りが利く印象だ。そこでも乗り心地はソフトで快適。また、高速道路にある長いカーブでの旋回性も素直で、思ったとおりに走ってくれる。車線変更などの時も安定感あるしっとりとした動きだ。恐くない。長い距離の移動も苦にならないタイプだ。カラーモニターで表示される速度なども、直感的に確認しやすいものだった。
高速道路を降りて走り込んだのは里山から峠を越えるワインディングだった。ブレーキング、カーブ、加速、というリズムが続く。ここを790 DUKEはスイスイ走った。路面を捕らえるタイヤのグリップ感、荒れた舗装をしっかり吸収するサスペンション。エンジン低いギアで加速をしても、スムーズなトルクとパワーの出方をするので、とても扱いやすい。
そこはさすが800cc。回転を上げれば速度ののりは早いし、短時間で追い越しをする場面でもスパっと完了することができた。街中での扱いやすいイメージのまま、ペースを上げても扱える。これは嬉しい。乗り込めば乗り込むほど楽しいバイクだ。
J Juanというブレーキシステムも、適度な減速感をブレーキレバーやブレーキペダルから操作したとおり、ライダーが望む性能を見せてくれた。ブレーキング時、サスペンションがタイヤに荷重をしっかりと載せてくれるのも好印象。車体全体で乗り易さのために作り込まれているのはここでも同じ。
790 DUKEのキャラクターは、むしろ一般道で光るタイプだ。それを承知でサーキットに挑んでみた。サーキットを攻め込むと市街地で良好な乗り味を示したサスペンションがボトム気味になるので、リアのイニシャルプリロードを数段掛けてみた。これだけでも旋回性が高まりコーナリングをより楽しめるようになった。ちなみに身長183cm、体重80kg、レザースーツなど装備一式を入れたライダーの重量は87kg程度にはなるハズだから、乗り方や体重のあるライダーは参考にして下さい。
筑波コース1000でこの日、そのほかのDUKEファミリーを一気乗りするなかで走らせたのだが、サーキットの限界域では、標準装備のMAXXISタイヤはフルバンク時まで旋回性が高まるタイプではなく、ややアンダーステアだった。しかしこれも狙いのひとつなのかもしれないな、と思ったのは、開発陣のこんな言葉だ。
「790 DUKEにはビギナー、エキスパートを含め多くのライダーに乗って欲しい。しかもデイリーに乗れる2気筒のDUKEとしてバランスをとっています。毎日乗っても(フトコロ事情的に)負担にならないよう、タイヤも価格を抑えたブランドとアライアンスを組みました。じつはこのタイヤ開発こそが、このバイクのビッグプロジェクトでもあったのです」と。
タイヤの性能は確かにコスト次第。グリップもソフトなコンパウンドを使えば性能は上がる。しかしそのぶん当然ライフは短くなる。そんなバランス取りの中、作り込まれたタイヤなのだろう。
確かに「READY TO RACE」というスローガンからすれば、もっと鋭い旋回性を発揮するタイヤもアリだ。そのために剛性の高いタイヤを履けば、市街地での乗り心地にゴツゴツ感が出たり、走りはじめのタイヤが冷えた状態、雨、低温時のグリップ感など、ドライグリップに寄せれば寄せるほど、ライダーが不安を感じる場面が出てくるもの。
そんな点で市街地、一般道、高速道路を走って楽しめるパッケージだったことは確認しているので「これでも充分だ」と判断します。だって、毎日が楽しい方が良いし、サーキットを攻めるのであれば、その時だけサーキット指向なタイヤに変えるチョイスもできるのだから。
結論としては、このバイクはあえて尖ったキャラクターに集約させずにまとめた、DUKEファミリーのなかでも1、2を争う乗り易さを持つ1台だ。
スムーズなエンジンは市街地からサーキットまで抜群の乗り易さだったし、だからこそ、サーキットでも簡単に全開に出来た。簡単だけど、速度上昇はとても早い。だから走っている満足感が高い。その結果、とても楽しかった。このフローはどのKTMとも共通するもの。
冒頭で国産バイクとの価格比較をしたが、世界でも人気のストリートバイク達をライバルに充分に練り込まれた走り、エンジン、そして所有感を持っているのが790 DUKEだろう。そんな視線でこのバイクを品定めしてみると、また違った印象になるはずだ。
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