掲載日:2024年07月12日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
SUZUKI V-STROM 1050
リッタークラスのVツインスポーツであるTL1000系のエンジンを載せたアドベンチャーツアラーとして、初代となるVストローム1000が世に出たのは2002年。その後モデルチェンジを受けた車体をもとに2014年に国内仕様が発売され、2020年にはキャストホイールのVストローム1050、スポークホイールで電子制御など上級装備をまとったVストローム1050XTという名に生まれ変わり、モデルチェンジが行われた。その際、電子制御スロットルやライディングモードセレクト、LEDヘッドライトなどが導入された。また、スタイリングは角型ヘッドライトにクチバシという、かつてラリーワークスマシンのレプリカとして人気となった、DR-BIGの愛称を持つDR750Sのデザインを現代風にアレンジしたものとなった。
2023年にはマイナーチェンジが行われ、Vストローム1050にはアップ/ダウン対応のクイックシフターやS.I.R.S(スズキインテリジェントライドシステム)の機能充実、5インチ大画面カラーTFT液晶メーターの採用など、使い勝手を向上させた。また、それに合わせてオフロードに振ったモデルはVストローム1050DEとなり、フロントに21インチホイールを採用、トラクションコントロールに未舗装路対応のGモードを設定するなど、よりキャラクター分けが明確となった。今回試乗したスタンダードなVストローム1050はフロント19インチタイヤにキャストホイールというオンロード寄りの設計で、2024年モデルの基本構成は2023年モデルと同様で、カラーリングのみ変更となっている。
このVストローム1050は「DE」の登場の方が話題となり、どちらかというと注目の薄いモデルだった印象だが、実は2023年モデルになって非常に大きな進化を遂げている。S.I.R.S.の機能充実、とさらりと書いたのがそれだ。S.I.R.S.とはスズキの電子制御システムの総称で、路面の変化やライダーの好みに合わせて最適な設定を提供し、ライダーが求めるニーズに合わせたパフォーマンス特性を最適化するもの。それまではVストローム1050XTにしか搭載されていなかったモーショントラックブレーキシステム(いわゆるコーナリングABS)や、坂道発進時に後退を防ぐヒルホールドコントロールシステム、2人乗りや荷物の積載など荷重状態によってブレーキ圧を補正してくれるロードディペンデントコントロールシステム、下り坂でブレーキングした際に勾配に応じてABSの動作を最適化してくれるスロープディペンデントコントロールシステムなど、多くの機能が追加されたのだ。さらにはクルーズコントロールも標準装備され、いわば「電子制御全部入り」状態となった。フロントスクリーンについても工具なしで調整が可能となり、ツーリングなどでの利便性・快適性が飛躍的に向上している。
Vストローム1050でまず目を引くのは、やはりその車体デザインだ。角目ヘッドライトにクチバシという、DR-BIGの愛称を持つDR750Sをオマージュしたスタイリングは、懐かしい雰囲気を持ちながらも、現代風にしっかりとアレンジされている。どちらかと言えば流線形や曲線的なデザインが多いアドベンチャーモデルの中にあって、直線と角張ったイメージを持つこの車体はアグレッシブで力強く、逆に目立つし新鮮でもある。
跨ると、マッシブなイメージのボディの割にはそれほど大きさを感じず、ビッグアドベンチャー独特の威圧感も少ない。ライディングモードをもっともスポーティな「A」にセットして走り出すと、ビッグツイン独特のトルクフルで力強い加速に、マシンが弾かれたように飛び出していく。しかもそれがやたらスムーズなのだ。昔のTL1000系エンジンはドカンとパワーが出る荒々しいイメージがあったが、このマシンでは振動も少なく、とことんジェントルだが速い、というキャラクターになっている。混雑する一般道において2速、3速を多用してもギクシャク感が少なく、扱いやすい印象だ。
高速道路に乗り入れると、力強さと安定感が高次元でバランスしているのがわかる。例えば走行車線から流れが速めの追い越し車線に移りたいときなど、兄弟車種のVストローム650ならちょっと迷うような場面でも、パワフルなエンジンのおかげでスッと合流でき、後続車に迷惑をかけることなく流れに乗れる。しかも風が強かったり、多少路面が荒れていても乱れることなく、狙ったポジションにスッとマシンを持っていけるという、抜群の安定感と安心感がある。加えてさらに感心したのが、シートの座面の快適さだ。硬すぎず柔らかすぎず、座るとお尻を包み込むようにフィットするため、長時間乗っていてもお尻が痛くならない。クルーズコントロールと組み合わせると、疲れずにどこまでも走って行ける……そんな期待を抱かせてくれる出来の良さだ。
郊外のワインディングロードでは、かなりキビキビとした走りを見せてくれて、これがまた楽しい。身長170cmの筆者が乗るとポジションはほんの少しだけ前傾で、自然とコーナーに入って行ける。大柄なボディとフロント19インチタイヤなのでさすがにタイトなコーナーが連続するような状況だと気をつかうが、中~高速コーナーでは気持ちよく倒しこんで曲がって行ける。前後のサスペンションが良く動き、良く粘るので、かなりスポーティなライディングが可能だ。
さらにほんのお試しのつもりでフラットダートにも乗り入れてみたのだが、車体バランスがいいためか、オンロード志向とはいえアドベンチャーモデルだけあって、少々のギャップなどものともせずに、普通に走れてしまう。というよりむしろ舗装路よりダートを走った時の方が車体が軽く感じられ、腕に覚えのあるライダーならトラクションコントロールの介入をオフにするか弱めれば、リアをスライドさせて遊ぶなんて芸当もできてしまうだろう。
Vストローム1050なら、大きなキャンプ道具を積んで一気に遠くまで移動し、テントを設営したあとに空荷でワインディングを楽しんだり、林道の奥にある温泉を楽しんだり、なんてツーリングが疲れず快適に実現できる。それを可能にしてくれているのが、例えば坂道発進で後退を防ぐヒルホールドコントロールや、発進時にエンジン回転の落ち込みを防ぐローRPMアシストなど、目立たずとも陰からライダーをそっとアシストしてくれる電子デバイスの数々だ。ライダーが意識しないところでもテクノロジーの力で見守りつつ快適な走行ができるVストローム1050は、あらゆるシーンに対応できるオールマイティなツアラーだと言えるだろう。
無骨なイメージのフロントマスクは、かつてDR-BIGの愛称で呼ばれたDR750Sを現代風にアレンジしたもの。灯火類はすべてLEDで、写真はハザードを点灯させている。
5インチカラーTFT液晶の多機能マルチインフォメーションディスプレイは、さまざまな情報を分かりやすく表示。直射日光下でも見やすく、トラクションコントロールやライディングモードの状態も一目でわかる。
左側ハンドルスイッチにはディスプレイ表示や各種設定を切り替えるモードボタンや、クルーズコントロールのセット/増減速スイッチなどを配している。
右側ハンドルスイッチはスターター/キルスイッチとハザード、トラクションコントロールのオン/オフスイッチが配されている。
スクリーン内側にはスマホやナビ、アクションカムなどの設置に便利なアクセサリーバーを備えている。
左ミラー根元付近のハンドル部に、ヘルメットホルダーを装備。メインキーでそのままロック部分を開閉するタイプだ。
ウインドスクリーンは工具を使わず上下50mmの範囲で11段階の調整が可能。調節する際は中央にある銀のレバーを引き起こしてスクリーンを動かす仕組みだ。
メーターディスプレイの左下脇には、USBタイプAのアクセサリーソケットを装備。出力は2Aとなっている。
ナックルガードを標準で装備する。剛性感のあるがっちりとしたつくりで、巻き込み風など空力を考えているのか、複雑な造形となっている。
1,036ccの水冷DOHC4バルブ Vツインエンジンは最高出力106PSを発生。エキパイをガードする形でスリムなアンダーカウルも装備している。
リアサスは工具不要で調整できるダイヤル式のプリロードアジャスターを採用。伸び側減衰力調整機構も装備している。フロントサスも伸側圧側両方のダンピングアジャスターとプリロードアジャスターを備える。
シートは前後分割式。お尻を包み込むような絶妙のクッション性を持っており、とにかく座り心地がいい。剛性感のあるリアキャリアは標準装備で、グラブバーも兼ねている。
リアシートの裏には、フロントシートの高さを約20mm上げるためのアダプターが備えられている。ETC車載器は備えておらず、ぜひとも標準装備にしてもらいたい。
シート下にはシガーソケットタイプのアクセサリー電源を装備。シンプルだが車載工具も用意されている。
フロントブレーキは対向4ピストンのトキコ製ラジアルマウントモノブロックキャリパーと、310mm径のフローティングマウント式ダブルディスクを採用。タイヤサイズは110/80R19 M/C 59Vだ。
リアブレーキのディスク径は260mm。タイヤサイズは150/70R17 M/C 69V、銘柄はブリジストンのBATTLAX ADVENTURE A41を履く。
直線的なデザインのリアビューからは、質実剛健なイメージが伝わる。テール/ブレーキランプはLEDの灯数も多く被視認性は高い。
ライダーは身長170cmで足は短め。Vストローム1050のシート高は850mmで、片足だとギリギリ母指球まで地面に着くが、両足だとつま先がツンツン状態だ。
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