キング・オブ・アドベンチャー、KTM 1290 SUPER ADVENTURE Rで高速&林道ツーリングに挑む!

掲載日/2023年2月21日
取材協力/KTM JAPAN
写真/稲垣正倫、RALLY ZONE
文/伊井覚
構成/バイクブロス・マガジンズ
高速道路の快適性と林道での走破力を合わせ持つKTM 1290 SUPER ADVENTURE R(2022モデル、オプション装着車)で林道ツーリングに挑戦。「こんな大きいバイクで林道を走れるのか」と不安だったが、驚きの結果に。実際に走ったからこそ感じることができたその性能を紐解いていく。

ダカール・ラリー19勝に裏付けられた
KTMのアドベンチャー性能

僕は20代の頃、林道ツーリングにハマっていて、東京から250ccのオフロードバイクに乗って四国にある日本最長の林道「剣山スーパー林道」までツーリングに行ったことがある。往復およそ2500km、日程は4日間。荷物もほとんど乗らないためキャンプ道具一式を背負って腰の痛みに耐えながら挑んだ。当時は若く体力もあったし、無理もできた。しかし40代になった今、もう一度同じことをやるならアドベンチャーバイクが良い。その中でも高速道路も快適でオフロード走行に適したKTMのモデルならば最高だろう。今回はそんなKTMのアドベンチャーモデルの中でも最大排気量の1290 SUPER ADVENTURE Rを借りて、高速道路を利用した林道ツーリングを敢行した!

昨今ブームになっているこのアドベンチャーバイクというカテゴリーは、高速道路の快適性と林道での走破力を合わせ持っていて、長距離ツーリングと林道ツーリングを同時に楽しみたいライダーにとってかけがえのないモデルとなっている。しかし250ccクラスのオフロードバイクに比べると、その大きさや重さから敷居が高く感じられてしまうのも事実だ。特に排気量1000ccを超えるモデルは200kgを超える重量があり、小柄なライダーだと取り回しや引き起こしにも一苦労してしまう。それでも各メーカーが鎬を削って軽量化や扱いやすさを追い求めた結果、現在では多くのライダーが気軽に林道ツーリングを楽しむことができるモデルに仕上がってきている。

実はそんなアドベンチャーモデルの起源はダカール・ラリーにある。僕が生まれる1年前、1979年に始まったこのラリーは、砂漠や山岳地帯といった未舗装路を1日に何百kmも走り、それが約2週間続く。世界情勢に合わせてその舞台をヨーロッパ〜南アフリカ、南米大陸、中東と移しながら現在まで続けられている。今でこそ排気量が制限され450ccのモデルでレースが行われているが、1990年代にはエンジンの大型化が進み、750cc〜900ccのモデルが主流であった。そのダカール・ラリーで歴代最多の優勝回数を誇っており、2023年大会で19勝目を数えたのが、オーストリアのメーカー、KTMだ。

KTMでは2022年モデルで250cc、390cc、890cc、1290ccの4つの排気量のアドベンチャーモデルをラインナップしており、ライダーのスキルや体格に合わせて好きなモデルを選ぶことができるようになっている。さらに890ccと1290ccでは、よりオフロード寄りのモデルとして車名の最後に「R」が付く890 ADVENTURE Rと1290 SUPER ADVENTURE Rが設定されており、しっかりオフロードも走破できる性能をもったアドベンチャーモデルに仕上がっているのだ。

エンジン特性と電子制御が
サイズと重量を忘れさせてくれる

実際にバイクを目の前にすると、まずそのサイズに驚かされる。同じKTMのミドルサイズ・アドベンチャー、890 ADVENTURE Rよりも一回り大きい。しかも今回試乗した個体にはKTM パワーパーツのハイシート(¥26,907)が装着されており、シート高に換算すると27mm増になっているという。僕は身長173cmあって、ほとんどのバイクでは足つきに困ることはないのだが、これはさすがに両足を地面に着こうとすると爪先がツンツン。それでもお尻を左右どちらかにずらせば片足をベタ着きできたので、信号待ちでも不安を感じることはなかった。


排気量の大きいバイクは発進時のパワーが大きく、ストレスを感じてしまうことがある。それも乗っているうちに慣れてしまうのだが、何度も繰り返しているうちにじわじわと疲労が蓄積していく。ところが近年では低速がマイルドで扱いやすいエンジンの味付けが人気で、この1290 SUPER ADVENTURE Rも例に漏れず、まるで250ccかのようにスムーズなスタートができた。さらにこれは電子制御スロットルに共通して言えることだが、スロットルの「遊び」とも言える部分があって、それが絶妙に出力特性をマイルドに感じさせてくれる。ライドモードによってもスロットルレスポンスを変更することができ、ストリートモードよりも優しいレスポンスを求めるならレインやオフロードに設定してあげれば、よりストレスなく発進が可能になるだろう。

また、街乗りの段階で驚いたのは、どんなに低速で走ってもエンストする気配が全くないことだ。重量があってシート高が高いバイクで最も怖いのがエンストによる立ちゴケなのだが、おかげでその不安は一切感じなかった。また、1つのギヤでカバーできる速度域がかなり幅広い。林道に行くために足首の動きが制限されるオフロードブーツを履いているためシフトチェンジの操作にコツが必要で少しストレスなのだが、都内の道ならほぼ1〜2速、ごくたまに3速に入るくらいで事足りてしまうので、非常にストレスフリーであった。

乾燥重量は221kg。1000cc超えのバイクとしてはかなり軽量で、一度走り出してしまえば重さはほとんど気にならなかった。取り回しの際も腰をしっかりシートに密着させて動かし、油断さえしなければ特に不安を感じない。

高速道路はバイクというよりオープンカー
恐るべき快適性でいくらでも走れる

高速道路に乗ると、全てがガラリと変わった。一番大きいのが、信号がないこと。「何を当たり前のことを」と思うかもしれないが、1290 SUPER ADVENTURE Rに乗ってみればわかる。信号がないことが、こんなに素晴らしいなんて。おかげで1301ccのありがたみをしっかり堪能できる。高回転まで回せばもちろん恐ろしいほどの加速を味わうことができるのだが、このエンジンの一番の魅力は4〜6速に入れて、2500〜3500回転を使って100km/hで走ることができる点だと感じた。6速なら、2500回転で100km/hでの巡航が可能なのだ。そのためエンジンから伝わってくる振動も少なく、快適なクルージングを味わうことができる。ライディングモードとしてはスポーツモードか、オプション設定のラリーモードを使うと、追い越しなどの加速時にも低回転域でのリニアなスロットルレスポンスを感じることができ、楽しめるだろう。


オンロード寄りの兄弟モデル1290 SUPER ADVENTURE Sにはもっと大きいウィンドシールドが装備されているが、オフロードも想定しているRのそれはサイズも控えめだ。それでも高速道路ではその整流効果を実感することができる。冬季のツーリングでは身体に当たる風を防いでくれることで寒さ対策にもなるし、風圧を分散させてくれるため、疲労軽減効果も大きい。手動で高さの調整ができるのも嬉しい。

さらに高速道路での走行を快適にしてくれるのが、クルーズコントロールだ。左手のスイッチボックスを使って操作可能で、一度速度を決定すれば、スロットルを閉じてもその速度をキープしてくれる。さらに途中で前の車に追いつきそうになってしまっても左手スイッチボックスに±ボタンがあって、1km/hずつ微調整できるので、右手をしっかり休ませることができるし、ブレーキ操作などで簡単に解除することもできるので安全だ。この恩恵は非常に大きくて、長距離ツーリングでの疲労を格段に軽減することができる。ひいてはこれが、ツーリング後半にありがちな集中力低下による事故を未然に防ぐことにも繋がってくるのだ。せっかく遠くの林道に到着しても行きの高速道路で疲れ果ててしまっていては、もったいない。

トラクション・コントロールが生み出す安心感

高速道路を降りて県道を進み、林道入り口の看板を通り過ぎると次第に道幅が狭くなってくる。舗装はされているものの、ところどころに枝や落ち葉、小さい石などが散乱していて、慣れないと苦労する路面だ。それらをタイヤで踏んでしまうとフロントを取られたり、リアが滑ったりするため、できれば器用に避けながら走りたい。軽いバイクならばヒラヒラと自在に走行ラインをコントロールして上手く避けられても、1290ではそうはいかないのではないかと思っていた。無理してラインを変えようとして転倒しては目も当てられない。

しかし、その不安は取り越し苦労だった。ライディングモードをオフロードにしていれば、無理して避けなくても大丈夫と気づいたのだ。スロットルレスポンスは通常よりさらにマイルドになり、狭く鋭角なコーナーでもコントロールしやすい。さらにリーンアングル・センサー付きトラクション・コントロールが働いて、枝や小石に乗っかってリアタイヤが滑った時でも、電子制御でタイヤのスライドを抑制してくれるため、ライダーはただマシンを信じてアクセルを開けていればいいのだ。このトラコンの介入がかなり頻繁かつ的確で、最初は恐る恐るだったが、次第にペースを上げられるようになってきた。そうとわかればもう怖くない。バイクはアクセルさえ開けられれば安定するものなのだから。

やがて舗装路が途切れ、本格的なダート林道に入っても、それは変わらなかった。林道の前半は上り坂がメインで、ストレートとコーナーが連続し、段々と標高を上げていった。ストレートでは本当に何も考えずに走れる。スタンディングだけしていれば、あとはサスペンションとトラコンに任せてアクセルを開けていくだけでグイグイと登っていけた。しかしコーナーはそうはいかない。本来ならバイクをしっかり寝かせてリアタイヤを豪快に滑らせて向きを変えて曲がっていきたいところだが、221kgの車体を寝かせるのにはもう少し慣れが必要だ。車体はほんの少しだけ傾け、なるべく大きな弧を描いてゆっくりと曲がっていくのだが、そんな時に嬉しいのが市街地でも感じたエンストしにくい低速の特性と、スロットル開け口のマイルドなレスポンスだった。

さらにオプション装備のクイックシフターも安定したライディングにとても貢献してくれた。正直に白状すると、僕は今までクイックシフターがついているバイクに乗ってもテスト以外では使わず、クラッチを切ってシフトチェンジをしていた。これはクイックシフターなどという便利な機能がついていないバイクに慣れ親しんで育ってきたが故の悲しき習慣によるものなのだが、1290 SUPER ADVENTURE Rでは本当にありがたい機能だった。クラッチを切るということは一瞬ではあるけれど、エンジンから生み出される動力がカットされる、つまり、クラッチを切っている瞬間、バイクはとても不安定な状態になっているのだ。大排気量のアドベンチャーバイクで林道を走る際には、この一瞬の不安定が転倒に繋がりかねない。さらにシフトチェンジを行うのは足首が動かしづらいオフロードブーツだから、尚更だ。

そしてこれはオンロード・オフロードに限らない話だと思うのだが、バイクは登りよりも降りの方が怖い。重量のあるアドベンチャーバイクなら尚更だ。だから後半に降り坂が多発するようになってからはかなり慎重に走っていたのだが、意外や意外。フロントタイヤの接地・安定感が抜群に良いのだ。しっかりフロントタイヤにトラクションがかかっていて、滑り出しそうな感覚が全くない。これならいける、と少しずつアクセルも開けられるようになってきた。ブレーキもABSがしっかり機能してくれているので、恐れずにかけることができる。バイクが重いため自然とフロントタイヤに荷重がかかってくれて、タイヤの接地面積が十分に確保できるからではないかと思われる。


加えて言うなら、前後のWPサスペンションにもかなり助けられた。実を言うと僕がKTMのバイクで最も高く評価しているのが、このWPサスペンションで、以前そのトップカテゴリーであるWP PROサスペンションを装着した890 ADVENTURE Rに試乗した時はジャンプすら軽々と飛べたことに感動すら覚えたことを記しておきたい。その基本性能の高さはそれこそダカール・ラリーやAMA スーパークロスでも証明されており、221kgの車体をしっかり支えてくれている。

さらにフロントフォークのトップキャップ、リアショックのタンクに装備されているアジャスターを回すことで、フロントサスペンションのセッティングを調整することができるため、スピードを出す高速道路では少し締め込んで硬めに、よりトラクションが欲しい林道では少し緩めて柔らかめにするなどの対策が可能なのだ。ちょっと臆してしまうような段差も気にせずに突っ込めば、サスペンションがなんとかしてくれる。オフロードバイクの性能はエンジンよりもサスペンションで決まることが多い。さらにステアリングダンパーによって安定感が増していることも付け加えておこう。

そんなわけで1290 SUPER ADVENTURE Rでの林道ツーリングは良い意味で想像を裏切られる結果で終わった。走行中の転倒などは当初から心配していなかったが、立ちゴケや取り回し中の不安もほとんど感じず、帰ってきた今では「次はもっとリラックスしてダート走行を楽しめるのではないか」とすら感じている。いつかはこのバイクで四国の「剣山スーパー林道」へ行ってみたいものである。

1290 SUPER ADVENTURE Rのタイヤはオフロードスタイルのブロックタイヤを標準装備しているが、舗装路でも全く問題なく走行できる。前後ブレーキの制動力も安心できるものだし、ABSの効き方も好感触だった。さらに広い幅を持つタイヤがバイクの重さでしっかり潰れて接地してくれるので、ブロックによるゴロゴロ感や違和感を覚えることは皆無だった。

排気量に比例して大きいサイズのサイレンサーが装着されているが、オフロード走行に支障のないように跳ね上げられている。ヒートガードも大型のものが装着されており、思いっきりお尻を後ろに引くようなライディングフォームを取ってもウエアが熱で溶けたりしないようになっている。

ステップには疲労軽減を目的としたラバーが装着されている。林道走行時にブーツ裏のグリップがもっと欲しければ、その場でラバーを外すことで対処可能だ。さらにKTMパワーパーツのワイド&ロングステップに換装することもできる。

軽量で高剛性のフレームには転倒時にカウルや燃料タンク、エンジンを守ってくれるガードが取り付けられている。なお、旧モデルからフレームの全長が短くなっており、コーナリング性能の向上に寄与している。

ホイールサイズは前21インチ、後18インチで、本格的なオフロードバイクと同じ。アドベンチャーバイク用に開発されたオフロード寄りタイヤ、ブリヂストンのAX41を装備。フロントブレーキは320mm、リアブレーキは267mmと大径でキャリパーはブレンボ製。

補助ランプはオプションで後付け(¥74,213)。山中の林道で霧が発生した際などに安心なだけでなく、見た目も本格的になる。手動でON/OFFが可能だ。

ガード面積の大きいクローズドタイプのハンドガードが標準装備されている。林道では道の脇から飛び出している木の枝や、前を走る車やバイクの後輪が跳ね飛ばす小石などを防いでくれる。もちろん高速道路でも手に当たる冷たい風をシャットアウトしてくれる強い味方だ。今回の試乗車はオプションのオレンジ色のハンドガード(¥8,791)に交換されていた。

ハンドル・メーター周りは広く、ゆったりとしたライディングフォームで見やすく作られている。標準装備のTFTモニターの上にはオプションでGPSブラケット(¥10,143)とスマートフォンアダプター(¥5,402)を台座にしてスマートフォンユニバーサルケース(¥4,453)の装着も可能だ。ハンドルバーは根本が太くなっているテーパー形状で、剛性を高めつつグリップを握る手に伝わる振動を軽減してくれている。

7インチの大型TFTモニターにはたくさんの情報が集約されている。速度、ギヤ、回転数、気温、時刻、走行距離、ガソリン残量、航続可能距離、警告灯など。なお、オプションのグリップヒーター(¥26,907)は3段階から選択できる。効果は抜群で、2月の早朝でもミドルレベルで快適に走ることができた。

ライディングモードは標準でストリート、スポーツ、レイン、オフロードの4つが搭載されており、オプションでラリーモードが用意されている。街乗り、ワインディング、雨天時、ダートなどシーンに合わせて最適なエンジン出力やスロットルレスポンス、トラクションコントロールなどに設定してくれる。

大きい荷物を安定して積載することができる大型のリアキャリアが標準装備されている。2人乗りの時にパッセンジャーが掴むタンデムバーとして、またセンタースタンドをかける際に持ち上げるためのグラブバーとしても役に立つ。

燃料タンクは23Lで、航続距離は400kmを超える。今回借りた車輌にはニーグリップの際に膝が滑らないように滑り止め加工が施されているフューエルタンクプロテクションステッカー(¥5,402)が装着されていた。

センタースタンドが標準装備されている。林道の途中の荒れた地面や傾斜のある場所でも停車することができるのは嬉しい。

シガーソケットにオプションのUSBアダプター(¥2,557)を装備すると、ナビゲーションに使うスマートフォンなどを充電しながら走ることが可能だ。

※今回の試乗車にはラリーパック、クイックシフター+、モータースリップレギュレーション、ヒルホールドコントロール、アダプティブブレーキライトをパッケージしたTECH PACK(¥141,805)が装備されています。