掲載日:2023年05月18日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚 写真/伊澤 侑花
HONDA XL750 TRANSALP
ヤマハのテネレ700、スズキのVストローム800DE、アプリリアのトゥアレグ660、BMWのF850GSなどなど、今、世界的な規模でミドルアドベンチャーブームが起きている。そんな中、ホンダもCRF250RALLYとCRF1100L AfricaTwinの間を埋めるミドルサイズのアドベンチャーモデルを開発しようと考えた。
プロジェクトはCRF750としてスタートしたものの、ユーザーが本当に求めているものはゴリゴリにオフロードに特化したモデルではなく、オンロードもオフロードも等しく快適に走れるモデルなのではないか、との考えからネーミングもXL750となり、今でも欧州で高い人気を誇るデュアルパーパスモデル、トランザルプの名を冠することになったという。
アドベンチャーモデルは大きく3種類に分類できる。フロント17インチのほぼオンロードモデル、フロント21インチのオフロード寄りモデル、そしてフロント19インチのオン/オフ両用モデルだ。しかし、トランザルプはオン/オフ両用を謳いながらもフロントに21インチを採用している。もちろん21インチならばオフロードの走破性は高いだろう。
では果たしてそれでオンロードの安定性は大丈夫なのだろうか? そう思いつつワインディングを走ってみると、これが驚くほど安定している。21インチモデルによくあるフロントがふわふわとして接地感が薄い感じが全くなく、まるで17インチかのようにブレーキングで攻められるし、恐ろしく軽快なステアリングと広大なハンドル切れ角のおかげでライン取りも自在だ。さらに高速道路で100km/h巡行時はもちろん、追い抜きの時などにも余裕が感じられる。開発スタッフによると欧州で根強い人気を博している初代トランザルプがフロント21インチを採用していたこともあり、21インチでの新型リリースにはこだわりがあったという。
エンジンは味付けこそ異なるものの、欧州で発表されているCB750 HORNETと同型の水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒エンジンを採用している。最高出力は9500回転だし、ボア×ストロークは87.0×63.5mmと超ショートストロークで、スペックだけ見てもかなり高回転型の特性になっていることがわかる。
発進時に軽く半クラッチを当ててやると、スロットル開け口でのトルク感はお世辞にも大きくなく「これはオフロードで楽しめるのか?」と一瞬不安になったのだが、走り始めてみると低回転域でもしっかりトルク感があることがわかった。繊細なスロットル操作に対しても反応がリニアに返ってきて、実にコントローラブルだ。この秘密は吸気ダクトの形状にあった。両シュラウドの内側に設定された、エンジンに空気を取り入れるためのエアダクトを渦巻き状にすることで経路を長く取り、高回転型でありつつ低回転のトルク感もあるエンジン特性を実現しているという。
さらに回転数の上昇とパワーの出力が見事にリンクしていて、思った以上に速度が出て恐怖を感じたり、急な加減速にフォームが崩れたりすることがなく、高回転域を使って走る楽しさは「さすがホンダの新型エンジン!」と舌を巻くレベルだった。
ライディングモードはスタンダード、スポーツ、レイン、グラベル、ユーザーの5つから選択でき、それぞれのシチュエーションに最適なパワー、エンジンブレーキ、トルクコントロール、ABSにセッティングしてくれる(ユーザーはカスタマイズ用)。試しにグラベルモードにして林道を走ってみると、トルクコントロールがかなり早い段階で介入して、砂利や木の枝などで滑るリアタイヤの動きをしっかり抑えてくれた。
オフロード走行で一番嬉しいのは、トランザルプがとにかく軽量コンパクトであることだ。スペック上の車両重量は208kgでシート高は850mm。数値だけで見るとどちらも特筆するほどコンパクトには思えないのだが、実際に乗ってみるととにかく軽くて小さい。道幅の狭い林道でのUターンや、タイトなコーナー、急斜度の登り、荒れたガレ場などでもまるで400ccに乗っているような安心感で入っていくことができる。
市街地、ワインディング、高速道路、ダート、その全てを等しく楽しめて排気量も小さすぎず大きすぎず。これぞまさに「アルプス越え」の意味が込められたトランザルプの名に相応しい万能の一台と言えるのではないだろうか。
ヘッドライトはコンパクトで、オフロード走行に重要なフロント周りの軽量化に貢献。空力特性を考慮して設計されたスクリーンとカウルが高速走行時の疲労を軽減してくれる。
ハンドルバーはクランプで高さを稼ぎ、広いハンドル切れ角を確保するとともに、リラックスしたライディングポジションを可能にする。さらに根本が太く、先端が細いテーパー形状にすることで最適な剛性を実現している。
5インチのTFTフルカラー液晶マルチディスプレイを採用。好みによって4パターンからデザインや背景色を選ぶことができ、飽きさせない。情報量が多いながらもシフトインジケーターやサイドスタンドセンサーなど重要な表示をしっかり目立たせている。
新開発の754cc水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒エンジン。異なる軸を持つ2つのバランサーと270度クランクの採用によって不快な振動を打ち消しつつも、パルス感のある出力特性を実現している。
燃料タンク容量は16L。コンパクトなエンジンのおかげでタンクの高さを抑えることができており、重量バランスの最適化に貢献している。
シュラウド内側に設定されたエアダクトは渦巻き形状にすることで長い経路を確保、低回転走行時のトルク感を演出している。
フロントホイールには初代トランザルプへのリスペクトと、オフロード走行性能への妥協なきこだわりを見せた21インチを採用。ブレーキはピンスライド式2ポッドキャリパーと310mmのダブルディスクでオンロードでも不足を感じない。
リアタイヤもオンロードに最適な17インチではなく、障害物などを乗り越えるのに適した18インチを採用しており、オフロード向きタイヤの選択肢も豊富。ちなみにスイングアームはCRF1100L AfricaTwinと共通パーツだ。
サイレンサーは内部が2室構造になっており、排気経路やインナーパイプの口径でパルス感のあるサウンドを実現。低回転から高回転まで音も楽しめる。
左右ステップにはラバーを装備しており、靴のソールを保護するとともに足の疲れを軽減する。ラバーを外すことでオフロード走行時に高いグリップ力を得ることもできる。
シート高は850mm。オプションで約-30mmのローシートはあるものの、CRF1100L AfricaTwinのように取り付け位置で高さが変わるなどのギミックは見られない。アドベンチャーにしては着座位置はやや後方か。
ロングツーリングに便利なリアキャリア。サイズ、安定性ともに申し分ない。タンデム走行や取り回し、引き起こしの際にはグラブバーとしても使い勝手が良い。
左手スイッチボックスに集中するコントロールユニット。ウインカーにはオートキャンセル機能がついており、車線変更、右左折の後は操作不要。また、ライディングモードの切り替えはスロットルを閉じていれば走行中でも可能だ。
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