掲載日:2022年09月07日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/中村 友彦 写真/富樫 秀明
SUZUKI V-Strom 1050
2002年型Vストローム1000に端を発する、スズキのVストロームシリーズは今年で20周年を迎えた。そして今から20年前を振り返ってちょっと驚きを感じるのは、近年では大人気のアドベンチャーツアラーが、まだまだこれからのジャンルだったこと。何と言っても初代Vストローム1000の競合車はわずか4機種、BMW R1150GS、ホンダXL1000Vバラデロ、トライアンフ・タイガー、カジバ・グランキャニオンしか存在しなかったのだから。
ちなみに、当時のアドベンチャーツアラーはシンプルで各車各様という雰囲気だったのだけれど、後にKTMやドゥカティ、ヤマハ、カワサキなどが参戦を開始すると、ライバル勢の動向を意識した性能競争が激化。2000年代後半からは多くのメーカーが、エンジンの大排気量&高出力化やシャシーの高剛性化、前後タイヤのワイド化、多種多様な電子デバイスの導入を行うこととなった。
もちろんそういった事情を考慮して、Vストローム1000も2014年と2020年に大幅刷新を受けている。ただし、エンジンがTL1000Sから発展した90度Vツイン、フレームがアルミツインスパータイプ、タイヤサイズがF:110/80R19・R:150/70R17であることは、初代から変わっていない。と言っても、2023年型で追加される上級仕様のDEは、シリーズ初のフロント21インチを導入しているのだが、世間の流行にあまり左右されないスズキの姿勢、先鋭化しすぎないことで実現した価格の安さに(2022年型Vストローム1050/XTは、近年の大排気量アドベンチャーツアラーの平均値を大幅に下回る143/151万8000円)、好感を抱く人は少なくないだろう。
さて、前段では変わっていないことを強調したけれど、2020年から発売が始まった現行モデル、初代から数えると第3世代になるVストローム1050/XTは、大幅なアップデートを実施している。1036ccの排気量は第2世代と同様でも、電子制御式スロットル+ドライブモードセレクターの採用に加えて、吸排気系やカムシャフトの刷新を行ったパワーユニットは、最高出力が99→106psに向上しているし、前後ショックやタイヤも見直しを敢行。また、上級仕様のXTは、走行状況に応じてトラコンとブレーキ制御の最適化を図るS.I.R.S(スズキインテリジェントライドシステム)やクルーズコントロール、ワンタッチで高さ調整ができるスクリーンなどを導入している。
そして2023年から発売が始まる第4世代では、上級仕様にして悪路走破性を高めたDEが追加される一方で、従来のXTが備えていた特別装備の多くをスタンダードが継承するのだが……。逆に考えると“素”のVストローム1050は2022年型で最後になりそうなのだ。そこで当記事ではメディアが取り上げる機会が少なく、僕自身も体験したことがない、スタンダードを試乗することにした。
電子デバイスがXTほど充実していないから、場面によっては扱いづらさや物足りなさを感じるかもしれない。試乗前の僕はそんな予想をしていた。でも初めて体験したVストローム1050のスタンダードは、至ってフレンドリーだった。近年のミドル以上のアドベンチャーツアラーは、走り出す際に気合いや乗り方のアジャストを必要とすることが少なくないものの、このバイクはXTと同じく、背が高いビッグネイキッド的な感触で、混雑した市街地も見通しの悪い峠道もスイスイ走って行ける。
もっともロングツーリングの後半で心身が疲労困憊になったら、電子デバイスのさらなるサポートが欲しくなるかもしれないが、11kgの車重差を考えると(スタンダード:236kg、XT:247kg。ちなみに2023年型のスタンダードは242kg))、必ずしもXTが優位とは言えなさそう。いずれにしても今回の試乗で僕がXTに劣ると感じた要素は、スクリーンの高さがワンタッチでアジャストできないことと、高速巡行が楽になるクルーズコントロール機能を装備しないことくらいだったのだ(この2つの問題を2023年型のスタンダードは解消している)。
ところで、僕の周囲の業界関係者とVストロームの話をしていると、1050より弟分の650のほうがいいと言う人が少なくないし、アドベンチャーツアラーの本場であるヨーロッパでは、1050より650のほうが好調なセールスを記録しているようである。でも今回の試乗を通して、マシン全体のバランスという見方をするなら、650より1050のほうが優れているんじゃないか……と僕は感じた。
と言うのも、初代Vストローム1000の基本設計を転用して生まれたVストローム650は、シャシーが勝ちすぎている感があるのだ。逆に言うなら、同系の90度Vツインを搭載しているロードスポーツのSV650と比較すると、90度Vツインエンジンの主張が何となく希薄なのである。
もちろんこのあたりの見解は各人各様で、シャシーの安定感が抜群で、エンジンがあまり主張をしないからこそ、Vストローム650はロングランを快適にこなせるという説はある。でも僕個人としては、シャシーとエンジンがガップリ四つに組んだ、1050のバランスに魅力を感じるのだ。まあでも、車重が20kg以上軽いこと、価格が約2/3であることを考えれば(スタンダード:212kg・95万7000円、XT:215kg・100万1000円)、650を支持するライダーが多いのはわからないでもない……。
あら、何だかとりとめのないインプレになってしまったが、冒頭で述べたアドベンチャーツアラー全体の先鋭化が進む中、質実剛健な姿勢で熟成を続けて来たこのモデルに僕は好感を抱いている。スタンダードとXTのどちらを選んでもVストローム1050のオーナーになったら、充実したバイクライフが送れるのではないかと思う。
クチバシを強調したフロントマスクは、1980年代末のパリダカレーサーDR-Zを再現している。ヘッドライトは1988年~1990年代に市販されたDRビッグと同様の角型だが、バルブは当然、ハロゲンではなくLEDを選択。
メーター上部には各種ガジェットの装着を意識したバーを設置。ハンドルは近年のアドベンチャーツアラーで定番になっているアルミ製テーパータイプ。スクリーンの高さ調整では、工具を用いたボルトの差し替えが必要。
多機能液晶メーターは、STD:ポジ、XT:ネガ表示で、6段階の輝度調整が可能。タコメーター右下に備わるのはドライブモードセレクター/トラクションコントロール/ABSの設定画面で、操作性は非常に良好だった。
スマホやナビの使用を考慮して、メーターパネル左下にはUSBソケットを設置。KYB製φ43mmフォークはフルアジャスタブル式で、上部にプリロードと伸び側ダンパーアジャスターが備わる(圧側アジャスターは下部)。
ガソリンタンクの前半部を樹脂製シュラウドが覆う構成は先代と同様だが、第3世代のデザインはかなりシャープ。容量は20L、WMTCモードの燃費は20.3km/Lなので、理論上の航続可能距離は406km。
シート高は855mm。さまざまなライダーの希望に応える純正アクセサリーパーツとして、座面が約30mm低くなるローシート、850/870mmの2種が選択できるハイトアジャストキット(XTは標準装備)を設定。
リアキャリアはタンデムシート上面とツライチなので、コードやネットを用いた荷物の積載が容易。なおスズキは純正アクセサリーパーツとして、素材や容量が異なる数種類のトップ/パニアケースを準備している。
90度Vツインの原点は1997年型TL1000S。2020年型から導入されたドライブモードセレクターはかなりの好感色で、3種のエンジン特性すべてに存在意義を感じた。ちなみに、Bモードは第2世代に近い印象だった。
2本のエキゾーストパイプはエンジン下部で集合するが、その手前に細身のバランスパイプ×2を設置。このエンジンを熟知したスズキのノウハウを感じる部分だ。オイルフィルター基部には水冷式オイルクーラーが備わる。
フロントブレーキはφ310mmディスク+トキコ・ラジアルマウント式4ピストン。前後ホイールは、スタンダード:アルミキャスト、XT:チューブレスタイヤを前提としたクロススポーク。
リアサスペンションはオーソドックスなリンク式モノショック。プリロード調整は工具不要で、左側に設置されたアジャスターノブを回して簡単に行える。下部には伸び側ダンパーアジャスターを装備。
アルミツインスパータイプのフレームとアルミスイングアームは、第2世代の基本構成を継承。スタンダードでは未装備のセンタースタンドは(XTは標準採用)、純正アクセサリーパーツとして購入することが可能だ。
リアブレーキはφ260mmディスク+ニッシン片押し式1ピストン。タイヤサイズは初代から不変のF:110/80R19・R:150/70R17で、第3世代の純正指定品はブリヂストン・バトラックスアドベンチャーA41。
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