【スズキ Vストローム650XT試乗記】走りもサイズも“ちょうどいい”オールマイティなミドルアドベンチャー

掲載日:2022年09月06日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之

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SUZUKI V-Strom 650XT

Vストローム650は645ccのVツインエンジンを搭載したスズキのミドルクラスアドベンチャーだ。パワフルなエンジンと扱いやすい車格で人気となっているモデルだが、このほど平成32年(令和2年)排出ガス規制(ユーロ5相当)に対応した2022年モデルが登場した。基本的に前モデルからの変更はほとんどないが、ここではオフロード志向を高めたVストローム650XT ABSに試乗し、その魅力をあらためて探ってみた。

スズキ Vストローム650XT 特徴

ロングツーリングでの快適性と
オフロードにも対応できる柔軟性を両立

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Vストローム650はもともと海外向けのモデルとして2003年に登場した。SV650に使用されていた645ccの4ストローク水冷90°Vツインエンジンを搭載し、アップライトなポジションと大容量フューエルタンク、大型ウインドスクリーンなどを装備。使い勝手のいいミドルクラスのアドベンチャーツーリングモデルとして欧米で人気となった。長きにわたって海外専用モデルであったが、2013年に国内での販売が開始された。その後2014年にはスポークホイールやくちばし状のフロントカウルを装備し、オフロード色を強めたVストローム650XTが登場。2017年にフルモデルチェンジを行い、縦目2灯の外観となった。

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現在Vストロームシリーズには1050、650、250という3種類の排気量が存在するが、リッターオーバーでは扱いきれないし値段も高い、しかし250では物足りない……そう感じるライダー層にちょうどいいのが、ミドルクラスである650だ。スタンダードモデルのVストローム650はキャストホイールを履いたオンロード寄りのモデルだが、今回試乗したVストローム650XTはワイヤースポークホイールを装着しており、さらにナックルカバーやエンジンアンダーカウルを標準装備として、オフロード志向を高めたモデルとなっている。

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ここであらためてVストローム650XTの特徴をおさらいしておこう。エンジンは645cc水冷4サイクルDOHC4バルブの90°Vツインで、最高出力は51kW(69PS)を発生。このパワーソースをアルミ製ツインスパーフレームに搭載している。ホイールサイズはフロント19、リア17インチで走破性と安定性を兼ね備えたサイズとなっており、フロントフォークは正立式、リアサスは伸び側ダンピングアジャスターと油圧式のプリロードアジャスターを備えたリンク式のモノショックを採用している。これらに加えて速度やスロットルポジション、クランク&ギアポジションなど多くのセンサーを持った先進のトラクションコントロールとABSを備えているため、悪条件下でも安定した走りを可能にしている。

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このほか、容量20Lという大型のフューエルタンクや3段階に調節可能なウインドスクリーン、座面の大きなシート、12VのDCソケット、多機能な表示ができるメーターなどを備えており、快適なロングツーリングを支えるユーティリティは必要かつ十分だ。

スズキ Vストローム650XT 試乗インプレッション

スポーツライディングも楽しめる
しなやかな足周りと懐の広さが魅力

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Vストローム650XTのシート高は835mmで、同シリーズの1050やホンダのアフリカツインのローポジションが850mmなのを考えると、大型アドベンチャーモデルとしては少々低めの部類に入る。そして装備重量は215kgと軽めなこともあり、リッタークラスのアドベンチャーマシンに比べれば取り回しからして相当気が楽だ。ただし今回はオプションのトップケースとサイドケースが装着されているので、注意しながらスタートした。

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ケース3点、いわゆるフルパニア状態であっても空荷なら操縦安定性に影響はさほどない。ただ、キャンプツーリングなどで荷物をたくさん入れた際には、やはり重さを感じるはずだ。その場合でも、このマシンのリアサスには伸び側ダンピングアジャスターと油圧式プリロードアジャスターが備えられているので、荷物の重さや路面状況に応じて簡単に調整できるからありがたい。

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都内の混雑路ではフルパニア状態であっても、それほど気を使わずに済んだ。というのも、サイドケースを両側に装着しても、ほんの少しハンドル幅から出るぐらいなので、あまり神経質にならなくて良かったのだ。その分ケースの容量は多くないので、キャンプツーリングなどの際には収納力が少ないと感じるかもしれない。ただ、シートの上に荷物を積みやすい形状のため、実際には困ることは少なそうだ。濡れずに鍵のかかるスペースが確保されていることの恩恵は計り知れない。もしこれで不足と感じるなら、社外品を装着するという選択肢もある。

アップめで手前に引かれたハンドルはとてもリラックスしたポジションを生み出し、さらにシートの座り心地が非常にいい。お尻への当たりはソフトだが、きちんと反発力もあり、とても快適なのだ。これならロングツーリングも疲れずにこなせそうだ。

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一般道のスタートダッシュでは、優しい加速感だが実は速い、という印象だ。従来のVストローム650は、スロットルを開けるとガツンとパワフルな加速を見せてくれて、それが痛快だった。その反面ちょっとギクシャクした感じもあって、エキサイティングだが疲れると感じたこともあった。ところが今回の2022年モデルは、ジェントルでありながらスルスルっと速いという、不思議な加速感なのだ。何ら気負うことなく、気が付けば交通の流れをリードしている。そのまま高速道路に乗り入れてまず感じたのは防風性の高さだ。くちばし状のフロントカウルと、小ぶりだが立った形状のウインドスクリーンのおかげで、顔から下あたりには走行風があまり当たらない。ハンドリングはしっとりと落ち着いており、レーンチェンジや横風を受けた際にも安定感は抜群。速度域を上げても目立った振動はなく、これなら長時間走ってもかなり疲労は少ないはずだ。

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試乗時、パニアケースには撮影用のカメラ機材やレインウエア、500mlのペットボトル2本にちょっとした着替えなど、そこそこの荷物を入れていた。その状態で郊外のワインディングを走ってみたが、トルクフルなエンジンと軽めの車体のおかげで、走りはかなり軽快な印象だ。フロントタイヤが19インチなので立ちが強いのかな、と思いきや、寝かし込みも素直で特に意識せずコーナーリングが可能なのだ。ケースを外して空荷で走ってみると、サスペンションの粘りと路面への食いつきがいいのが実感でき、さらにヒラリヒラリとスポーツライクな走りも楽しむことができる。

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河原のダートにも乗り入れてみたが、フラットダートならフルパニア状態でも不安なく走れるレベルだ。サスペンションがかなりしなやかだし、スポークホイールの恩恵もあるのだろう。水たまりの穴や、ちょっとした段差などもオフ車のようにスタンディングすれば軽くいなせるし、座ったままであってもラインを乱すことなく走れる。ケースを外し、トラクションコントロールを切ればさらに“ちょっとしたオフロードライディングを楽しむ”だけのポテンシャルを持っていると感じた。これならダートの先にあるキャンプ場まで不安なくたどり着くことができ、荷物を降ろして周囲の林道散策を楽しむ、なんてスタイルのツーリングも楽しめるだろう。Vストローム650XTは、街乗りから高速ツーリング、ワインディングからダートまで、オールマイティに楽しめる、懐の深い“ちょうどいいサイズ”のアドベンチャーマシンだ。

スズキ Vストローム650XT 詳細写真

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上下2灯式のヘッドライトはハロゲン球を採用。ウインカーはバルブタイプだ。くちばし状のカウルはかつてDR-BIGの愛称で呼ばれた名車、DR800Sを思い出させる。

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アナログのタコメーターに液晶を組み合わせたメーターパネル。ギアポジションや時計、温度計、平均/瞬間燃費なども表示できる多機能タイプだ。

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ハンドル左側のスイッチボックスには、メーター液晶の表示切り替えやトラクションコントロールのモード選択スイッチを備える。

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ハンドル右側のスイッチボックスはシンプル。スターターはワンプッシュで始動が可能なスズキイージースタートシステムを搭載している。

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スクリーンは付属の六角レンチでネジを緩める必要があるが、3段階に調節が可能だ。一番低い位置でも防風効果はかなり感じられた。

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「XT」に標準装備となるナックルカバー。大型でかなりしっかりとした造りだ。

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メーター左下にはシガーソケットタイプのDC12Vアクセサリーソケットを備えている。

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ハンドル左側にはヘルメットホルダーを装備。シンプルな構造だが、あると重宝する場面も多い。

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大きく段の付けられたシートは座面が広く、やわらかさと弾力性のバランスが絶妙でとても座り心地がいい。キャリアを兼ねたアシストグリップは剛性感が高く握りやすいものだ。

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シートを外すとバッテリーやヒューズボックスに簡単にアクセスできる。後部左側には車載工具が収納されている。

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車載工具はドライバーやレンチ類など、必要最低限のものが揃っている。

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リアサスのプリロードはリモコンハンドルの操作で簡単に調整できる。ほかに伸び側ダンピング圧の調整も可能だ。

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「XT」には樹脂製のエンジンアンダーカウルが標準で装着されている。

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オプションのトップケースは容量約35Lで、フルフェイスヘルメット1つを収納可能。写真のSHOEI J-CRUISEⅡのLサイズは余裕で収まった。

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オプションのサイドケースは張り出しも少なくスッキリしている。右側はマフラーがあるため容量は約26Lで、下部が狭くなっている。

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オプションのサイドケース、左側の容量は約29Lで内部の段差も少なく使い勝手がいい。荷物を押さえるストラップは左右ともに付属する。

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樹脂製のサイドケースは上部の爪を穴に入れ、タンデムステップ脇のステーに凹部を合わせるだけで固定可能。着脱はワンタッチで、外した状態もスッキリだ。

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SV650由来のエンジンは熟成された645cc水冷DOHC4バルブ90°Vツイン。トルクフルでスポーティな走りを可能にしてくれる。

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高めで手前に引かれたハンドルバーはリラックスしたライディングポジションを生み出す。ハンドル周りはシンプルなのでスマホホルダーなどの設置もしやすい。

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リアのタイヤサイズは150/70R17 M/C 69Vで、ブレーキのディスク径は260mmとなっている。マフラー形状は四角く、跳ね上がったタイプだ。

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フロントのタイヤサイズは110/80R19 M/C 59V。銘柄は前後ブリジストンの「BATTLAX ADVENTURE A40」で、スポークホイールながらチューブレスとなっている。ブレーキのローター径は310mmだ。

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リアの灯火類はエッジの効いたデザインだが意外とトラディショナルなイメージだ。テール/ブレーキランプはLEDを採用、ウインカーはバルブタイプとなっている。

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テスターの身長は170cmで足は短め。Vストローム650XTのシート高は835mmで、両足だとつま先、片足なら母指球までしっかり接地する。シートがやわらかく形状もうまく絞られているので、見かけやデータよりも足つきはいい印象だ。

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