

掲載日:2013年02月28日 試乗インプレ・レビュー
取材・写真・文/三上 勝久 写真・取材協力/KTM JAPAN
ワイヤーが存在しないはずの電子制御スロットルは、しかしまるでアナログ的な手応えでエンジンの状況を伝えてくれる。そしてわずかにそれをひねるだけで、滑らかに、しかし力強く車体を前に押し出していく豊潤なパワーがある。そのフィーリングに似合う言葉はずばり「洗練」だ。従前の990 ADVENTURE(以下ADV)もパワフルなモデルだったが、この1190 ADVはそれよりひとまわり太いパワーを持つ。それでいて、荒々しさは990 ADVに比べてずっと抑えられている。Vツインならではの体にシンクロするビート感はそのままに、すべてが美しく磨き上げられているのだ。
世界中のあらゆる道を走れる走破性と快適性、長旅に必要となる大量の荷物を収納できる積載性、そして必然的にこまめなメンテナンスなど望めない長旅の間でもライダーを不安にさせない高い耐久性……。現在、アドベンチャーバイクと呼ばれるジャンルに属するモーターサイクルに求められる根幹の要素は、ざっとこんなところだ。
そして、現在このジャンルで世界的に高い支持を受けているのがBMW R1200GS/ADVだ。オンロードとオフロードのいいところを組み合わせて1台のバイクに……。そんなコンセプトで今から33年前に誕生したGSだが、それをベースとするファクトリーマシンがパリ・ダカールラリーで1980年代の前半に活躍した事で、一躍ビッグオフロードバイクの金字塔的存在になっていく。
それに比べると、KTMが2001年からダカールラリーで12連覇を重ねている事はあまり知られていない。しかし、1990年代に入ってテクニカルなステージが増えてきたダカールラリーで、圧倒的な強さを維持しているのは、実はオーストリアのKTMなのである。
KTMのADVENTUREシリーズは、2002年のダカールラリーを制したKTM 950 RALLYをルーツとするシリーズである。他メーカーのアドベンチャーバイクが、あくまで旅や快適性、長距離走行のための装備に重点を置いているのに対し、KTM製アドベンチャーバイクの美点は、なんと言ってもそのオフロード走破性能である。同社のモットーである”READY TO RACE”に忠実にデザインされた初代950 ADVENTUREは、アドベンチャーバイクではなく、あくまでビッグオフロードマシンであったと言っていい。フロント21インチ、リア18インチホイールの、オフロードバイクでは標準と言えるホイールサイズを採用、合わせてハイスピードのオフロードライディングを可能とするロングストロークのサスペンションを採用。エンジンはパワフルかつスリムなVツイン。スキルのあるライダーが乗れば、オフロードをガンガン飛ばしても応えてくれるマシンに仕上がっていた。
だがその結果として、高いシート位置、エキサイティングだが荒々しさも持つエンジン特性などによって、まったりと旅をしたいツーリストからの人気は今イチだった。「世界中の道をどこでも走れる」という課題において、おそらく最良の性能を持つバイクに仕上がっていたのだが、世の中のツーリストはそれほどオフロード性能を重視しなかったのだ。
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!