掲載日:2023年09月01日 購入基礎知識 › バイク購入基礎知識
取材・文/伊井 覚
【この記事の目次】
●3組のギヤがエンジン回転をタイヤに伝える
●スプロケットのカスタムでマシンの速度が変わる
気になるバイクを見つけた時、そのバイクの性能を知るためにスペック表を見ると思います。しかし排気量や最高出力はなんとなくわかりますが、中には見てもイメージがつきにくい数字があります。その代表的なものが、この「変速比」と「減速比」ではないでしょうか。
第2回「総排気量と内径×行程からエンジン特性を読む」で解説した通り、バイクはシリンダーに空気とガソリンを取り込んで圧縮し、爆発させることでエンジンパワーを生み出します。では、そのパワーをタイヤの回転に繋げるまでにどのような行程を踏んでいるのでしょうか。実はそこにこの「変速比」と「減速比」が関係してくるのです。
エンジンの回転数は主にrpm(revolutions per minute"または"rotations per minute"の略)という単位で表されています。例えばHONDA CL250のスペック表を見ると、最高出力は24PS/8,500rpmとなっています。つまりエンジンが1分間に8,500回転を維持している時、24馬力のパワーを生み出すということです。
エンジンの爆発がクランクシャフトの回転運動を生み、最終的にはタイヤの回転に繋がっているのですが、タイヤはこんなに高速で回転していませんよね。その回転数を調整しているのが減速比なのです。
まずクランクシャフトにはプライマリードライブギヤがついていて、プライマリードリブンギヤを回転させます。この2つのギヤの大きさの比率が「一次減速比」です。
このように大きさの異なる歯車を経由することでエンジンの回転を調整し、適切なトルクを生み出せるように変換しているのです。CL250の場合、一次減速比は2.807ですから、ここで回転は
8,500÷2.807=3,028.14
まで小さくなります。
さらにこの後に登場するのが、変速比。変速比は使用するギヤによって変わってきます。CL250では「1速:3.416、2速:2.250、3速:1.650、4速:1.350、5速:1.166、6速:1.038」となっていますので、例えば6速8,500回転で走行すると
3,028.14÷1.038=2,917.29
となります。
そしてこの後さらにドリブンスプロケットを介して回転数は小さくなります。これが「二次減速比」です。CL250の二次減速比は2.642ですので
2,917.29÷2.642=1,104.20
となります。つまりCL250は計算上6速8,500回転で走っている時、リアタイヤは1分間に1,104.20回転していることになります。
さて、ここにあとリアタイヤのサイズ情報があれば、その回転数の時の時速を計算式で求めることができます。そしてタイヤサイズは、スペック表に載っていますよね。
CL250の場合は150/70R17M/C 69Hとなっています。簡単にこの数値を分析すると「150/70」がタイヤの太さと扁平率、「17」がホイールの直径を表しています。残りの部分はここでは関係ないので省略します。ここからタイヤの外径を求めることができます。
まず17インチをメートル法に換算すると
17×25.4=431.8mm
となり、これがホイールの外径になります。
タイヤの厚みは
150×70/100=105mm
となり、タイヤの厚みはホイールの両側にあるので、これを2倍にし、ホイールの外径と合算すると
431.8+105×2=641.8mm
となります。
先ほど6速8,500回転時(最高出力時)での1分間のリアタイヤの回転数を求めました。つまり「タイヤの回転数×タイヤの外周(外径×円周率)」で1分あたりの速度が出ます。
1,104.20×641.8×3.14=2,225,236.38
これを時速に直すと
2,225,236.38×60=133,514,183mm
さらに単位をkmに直すと、CL250の6速8,500回転時での時速は133.5km/hとなるわけです。
ただしこれはあくまで理論上のものです。実際にはここに路面の摩擦係数や空気抵抗などが加わります。
そして実は二次減速比は、カスタムで簡単に変更することができます。先ほど求めた時速はあくまで純正のセッティングの場合に限ります。CL250の純正スプロケットはフロント14丁、リア37丁ですので、二次減速比の2.642という数字は「37÷14」で求められたもの。つまりスプロケットの丁数を変更すれば、二次減速比を変更することができ、一定のエンジン回転数の時のリアタイヤの回転数を変えることができるのです。例えばフロントスプロケットを15丁にしてみます。すると二次減速比は
37÷15=2.467
となり、先ほど求めた6速8,500回転時のリアタイヤの回転数は
2,917.29÷2.467=1,182.53
となり、純正よりも速度をアップすることができます。試しに先ほどと同じように時速を計算してみると
1,182.53×641.8×3.14×60=142,985,193
となり、約143km/hまで理論上の時速をあげることができるのです。
このスプロケットの丁数比のことを「ファイナル(ギヤレシオ)」と呼ぶのは最終的に速度を決定する機構だからなのです。こうしてスペックから時速を計算してみると「◯◯馬力あるから速い」という曖昧な情報から「◯◯km/h出るから速い」と、スペックに裏付けされた、より信頼度の高い情報を得ることができるようになります。気になるバイクが見つかったらこのように時速を計算してみてはいかがでしょうか。
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