掲載日:2022年12月21日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
YADEA KS5 PRO
YADEAは2001年創業で、電動バイクや電動自転車、電動キックボードなどの開発・製造を行っている。これまでの電動モビリティの累計販売台数は5,000万台以上という、モビリティ業界では世界最大級の上場企業だ。製造工場を8拠点と研究開発センターを2拠点所有しており、2017~2020年にかけては4年連続販売台数世界一を誇るなど、電動モビリティ業界をリードする存在となっている。
今回試乗したYADEA KS5 PROは、原付一種扱いで公道走行が可能な電動キックボードで、はしごや脚立のパイオニアメーカーとして60年以上の歴史を持つ長谷川工業と共同開発したモデルだ。同社は新たな事業展開として電動モビリティの社会実装を目指しマイクロモビリティ推進協議会に参画。2020年10月より、公道で電動キックボードを利用する際の安全性を検証する実証実験を千葉市で開始するなど、地域と連携して電動キックボードの安全性や利便性を追求しつつ、地域活性や移動課題の解決にも貢献している。
YADEA KS5 PROはパワーソースに定格出力500Wのインホイールモーターと36V 15.6Ahのリチウムイオンバッテリーを搭載。最高速度35km/h、最長航続距離60km、最大登坂能力15度というスペックを持つ電動キックボードだ。車体には高強度アルミフレームを使用しているため、重量が23kgと軽量なのに最大荷重は110kgとなっており、体格のいい人も安心して使用できる。フロントにはサスペンションを備え、空気の抜けないソリッドタイヤを採用しているので、パンクの心配がない。ブレーキは前輪がドラム、後輪にはディスクと電子ブレーキを搭載しており、安定した制動が可能。また、運動エネルギーを回収して再生する回生ブレーキを備えているので、省エネや環境にも配慮されたものとなっている。ちなみに、3段階の走行モードを備えている。
ハンドル部のフレームはレバーを解除するだけでワンタッチで折り畳める仕様だ。電動キックボードに限らず、小型の電動モビリティは配線がゴチャゴチャして畳むのに一苦労、なんて場合もよくあるが、このYADEA KS5 PROは配線の露出が最小限に抑えられていて非常にスッキリしている。車体はIPX4の防水レベルを実現しているため、少々水の飛沫がかかっても安心だ。また、スマホアプリと車体をつなぐことで、電子ロックの設定や解除、クルーズコントロールの設定もできるなど、実用的な利便性を備えている。ちなみに灯火類をはじめとする保安部品は、当然ながら日本の道路運送車両法に適合しているものを装着している。
まずはYADEA KS5 PROを押したり引いたり、取り回してみる。コンパクトで軽いので苦もなく押せるのは当然として、驚いたのが車体の“しっかり感”だ。この手の折りたたみ可能なキックボード型原付の中には、車体の各部にガタつきがあったり、構造上ちょっとヤワなものも存在するのだが、このマシンに関しては各部の剛性感が高く、折りたたみ部のガタつきなどが一切感じられない。配線の露出もほとんどなくスッキリしていることや、保安部品についてもしっかりとしたものを使ってあることを含め、とても安心できる造りだと感じた。
乗るのはとても簡単で、片足をフロアに載せて最初の2、3歩地面を蹴りながら、スロットルにあたるレバーを押し下げるだけ。車体が動き出したら両足を載せてバランスを取ればOKだ。慣れないうちは足で漕ぐ動作とレバーの調節がかみ合わないこともあったが、少し練習すればすぐにスムーズに乗れるようになった。フロアに足を縦にして乗るのはスノーボードやサーフィンなどの経験者なら全く問題ないと思うが、そんな経験がなくてもバイクに乗れるバランス感覚があれば、直線はもちろんコーナーやブレーキングも含めて、すぐに乗りこなせるようになるはずだ。
走行モードはエコ(6km/h)、スタンダード(15km/h)、スポーツ(35km/h)の3段階。切り替えは液晶ディスプレイ部のボタンで簡単に行えるが、実際に公道を走るならスポーツモード一択だろう。強力なモーターのおかげか、スロットルレバーをラフに押し下げるとグイっと体を持っていかれるぐらい強烈な加速を見せてくれる。トップスピードはエンジンの50ccバイクには及ばないが、ほとんど音を立てずにシュルシュルっと加速していく乗車感は、なかなか爽快だ。
フロントブレーキはソフトに利く感じで、強力さはないが、その分不用意にレバーを握ってしまってもロックする危険はない。キュッと止まりたい時にはリアブレーキを一緒にかければきちんと止まってくれる。小径ホイールの電動キックボードにはフロントブレーキが強力すぎて逆に危ないと感じるものもあるので、コントロールしやすいこのマシンは非常にうまく仕上げていると感じた。
フロントにサスペンションを装備しているので少々の段差ならショックは少ないが、やはり小径のソリッドタイヤのためか、路面からのショックはけっこう伝わってくる。どうしても道路の左端を走ることが多くなるが、荒れた路面だと車体挙動が不安定になることもあるので、何かあったらすぐに足を着いて止まれるように意識しておいた方が安心だろう。幹線道路を走るにはなかなか勇気が必要だが、住宅街を抜けて駅まで、といった用途ならかなり実用的だ。休日にはクルマに積んで行楽地で足がわり、なんて使い方も悪くない。登り坂については、角度がきつくなるとさすがにスピードがかなり落ちるが、ちょっとしたなだらかな坂なら15km/hぐらいまで落ちても粘り強く走り、止まってしまうことはなかった。
多くのメーカーから様々な機種が出ている電動キックボードは、まだ普及し始めたばかりで玉石混交の状態だ。その中でも、YADEA KS5 PROはかなりしっかりとした造りであり、安全に配慮したモデルだと思う。原付一種扱いなので免許やヘルメット、自賠責保険への加入などが必要だが、50ccバイクとは違った手軽さや爽快感が味わえるし、低コストでエコな面もあるのは魅力的だ。そろそろ導入してみようかな、と考えている人の背中をグッと押してくれる1台になるだろう。