掲載日:2022年02月28日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
SUZUKI ADDRESS110
スズキのアドレスは、人々の生活に寄り添って進化してきた原付クラスのスクーターだ。中でも原付2種クラスモデルのアドレス110は、日常生活での性能と利便性を徹底的に追及して開発されたモデルとなっている。シャープなボディライン、たっぷりとした座面を持つシート、安定感抜群の14インチタイヤ、そして十分なポテンシャルを持つ低燃費エンジン。これらをパッケージングして生み出されたアドレス110は、一度手にしてしまうと、もはや無い生活は考えられない程、便利なスクーターとなっていると言う。そんな現行型アドレス110に今一度触れ、考察してみることにする。
1980年代後半の登場から現在まで続くスズキのアドレスシリーズ。当時爆発的に売れていた50ccスクーター区分のアドレス50からその歴史は始まる。しかし私の記憶に色濃く残っているのは、90年代に入ってから追加されたアドレスV100だ。50ccクラス同等の車格に、パンチ力のある2ストローク100ccエンジンを搭載した原付2種モデルで、その機動力の高さから絶大な支持を受けた。その後世の中の環境配慮傾向に押され、同モデルも4ストロークエンジンへと移行、2005年にはアドレスV125となる。2ストロークエンジンを搭載したアドレスV100ファンだった私は、当初4ストロークエンジンの採用に難色を示したものだが、実際に乗ってみるとより一層強い加速感がもたらされており(特に初期型は顕著)、大変驚かされたものである。そのアドレスV125は数度のマイナーチェンジが行われたが2010年に仕様変更されたモデルを最後に2013年で姿を消すことになる。今回取り上げるアドレス110は1998年に登場し、2003年に一旦姿を消したが、2015年に再び登場、その後何度かの仕様変更を受け現在に至っている。
アドレスというネーミングさえ踏襲しているものの、姿形はアドレスV125とは非なる物。特に前後タイヤの14インチ化により車格は大きくなったことは一目見ただけで別物感を抱かせる。その裏側には欧州やインド、タイなどのスクーターマーケットで、操安性を高め、より乗り心地が良くなった大径タイヤモデルが受け入れられる傾向となっていたからということが挙げられる。アドレスという伝統のイニシャルを受け継ぎながら、以前とは違うスタイリングとされたアドレス110の感触を探ってゆこう。
再登場から7年程の時間が経ったアドレス110だが、実際に目の前にすると古さは感じさせない。むしろ普段街を走る姿をよく見かけるので、親近感すら覚える。そう、朝夕の通勤通学時間帯になると、アドレス110は路上で多数確認することができる人気モデルである。
今回テスト車両の引き上げ場所となったのは千葉県にほど近い東京都東部、対して私のオフィスやヤードがあるのは東京都から多摩川を挟み対岸に位置する川崎市だ。片道40Km程度となるこの距離の移動は、普段の車両搬送であれば高速道路を利用するのだが、原付2種区分であるアドレス110は高速道路を使うことができない。トランスポーターで移動させることも考えたが、むしろこの距離、しかも東京と言う世界有数の都市を通り抜けるルートをテストできる良い機会だと思い、自走で移動することにした。
歴代アドレスでは足を前に投げ出すライディングポジションを取ることができるスタイルが基本となっていたが、アドレス110はフロントパネルの内側が垂直に立てられており、下部のフットボードに足を揃えて置くタイプだ。こうすることで自然と背筋の立ったライディングポジションを強いられるのだが、車体操作のことを考えるとこれは正しいポジションであり、だらしのない体勢でバイクに乗るよりも安全だ。
エンジンのフィーリングは良好そのもの。長いことスクーターを開発してきたこともあり、駆動系のセッティングも抜群なので、クルマの多い市街地を走らせてもストレスがない。むしろシグナルスタートで頭一つ分抜き出る程、加速力もある。前後14インチタイヤは以前のアドレスV125のように小回りが利かないものなのかと思いきや、そのようなことは無く、狭い裏路地でもすいすいと入っていくことができる。それでいながらも速度を上げても安定感がある。そのようなことからはアドレスV125と比べて上質になったとも思えた。
細かい部分ではあるがアドレス110は2015年に再登場してから改良がおこなわれてきた。昨年も前後連動のコンバインドブレーキが新たに採用されている。デザインに関してはエッジが立ったシャープな印象があるものの、落ち着いたカラーリングが多いこともあり高級感すら覚える。アイドリングストップ機構は備えていないが、その分スタートダッシュに長けているし、このアドレス110がスズキ初採用となったSEP(スズキ・エコ・パフォーマンス)エンジンは燃費がすこぶる良い。シート下のユーティリティスペースに関してもフルフェイスヘルメットがスッポリと収まるサイズとされており、とても便利である。これらすべてをトータルで考えて”売れているモデル”だということが伝わってくる。
原付2種区分のスクーターは毎日片道10~20Km程度の往復走行という使われ方が多いと思うが、その行程をストレスなく、むしろ楽しみながら走らせることができるというのは大きな魅力だ。維持費も安く、いざとなればツーリングだって楽しむこともできる。新車価格は22万5500円。このコストで得られる喜びとしては、かなりお得で大きなものだと考えられる。
112cc4サイクル空冷単気筒エンジンを搭載。燃焼効率を上げフリクションロスを低減させたSEPエンジンであり、カタログに記載される定地燃費は53Km/Lを誇る。キックスターターも備わっている。
ストローク量が多めに設定されたフロントサスペンションとスポーティーな14インチアルミホイールを組み合わせることで、安定性が高い上に路面のギャップを吸収。コーナーリング性能も高い。
中央に出っ張りの無いフラットな形状のフットボード。フロントカバー裏が垂直とされたデザインなので、足を揃えてボードに置くライディングポジションとなる。足つき性を考慮し、ボード左右を絞り込んだデザインとなっている。
視認性の良いアナログメーター。スピードメーター、オドメーター、ターンシグナル、残燃料計、ハイビーム、エンジンチェックランプと必要最小限のインフォメーション表示となる。
エッジの効いたシャープなラインで精悍な印象を受けるフロントマスク。ハンドルマウントされるヘッドライトは、スズキが以前ラインナップしていたGSR系に通じるものを感じさせる。左右ウインカーの内側にはポジションランプも装備する。
センタースタンドと共に、サイドスタンドも標準装備。タイムパーキングなど、区画が分けられた狭いスペースではセンタースタンドを、スペースに余裕がある場所ではサイドスタンドをと便利に使い分けることができる。
フロントカバー裏には左右にポケットホールが設けられている。左側は600ml、右側500mlの容量が確保されており、何かと便利に使うことができる。中央のコンビニフックも、今やなくてはならない装備だ。
クッション性の高いロングシートは、ソロライドでは高い自由度を、タンデムライドでも十分なスペースが確保されている。シート表皮には滑りにくい素材が使われている。
ウイング形状のデザインとされたアルミ製リアキャリアを装備。裏側には荷掛けフックが備わっており、ネットや紐などで荷物を括り付けることも容易。トップボックスのベースにもなる。
タンデムステップは、折りたたみ式が採用されている。パッセンジャーは足の力が入れやすく、しっかりと体を保持することができる。ただ左右に出っ張るため、走行時に障害物へ接触しないよう注意。
鍵穴へのいたずらを防ぐシャッターが備えられたキーシリンダー。イグニッションオン、オフ、ハンドルロックの他、シートオープン機構も兼ねている。
テールランプと、左右リアウインカーは別体とされている。後続車からの視認性も高い。ナンバーステーはフェンダー機能も兼ねており、リアタイヤからの泥などの跳ね上げを防ぐ。
シート下には、燃料給油口がある他、フルフェイス+αを収納できるトランクスペースが用意されている。原付2種区分のスクーターとしては大きい方だ。
リアタイヤもフロントと同様に14インチを採用している。幅に関しては90サイズでフロントよりも太い。現行モデルではコンバインドブレーキとなっており、リアブレーキレバー操作で、フロントブレーキも連動する。
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