掲載日:2020年09月25日 試乗インプレ・レビュー
写真・取材・文/小松 男
PEUGEOT SPEEDFIGHT R-CUP 125
ライオンのエンブレムが有名なフランスのプジョー社は、自動車の製造メーカーとして幅広く知れ渡っているが、実はモーターサイクルブランドとしても長い歴史を持っており、プジョー製バイクの第一号車が誕生してから、実に120年以上を数えるものとなる。これまでの年月の間には、マン島TTでの勝利や世界最高速記録の樹立など輝かしい経歴が残される。現在ではスクーターをメインに製造しており、それも最初のプジョー製スクーターであるS55を登場させたのが1953年なので、半世紀以上も作り続けてきたことになる。スクーターというセグメントは世界的に需要があり、特に都市部を中心に高い人気を誇る。
今もあちらこちらで石畳の道が残されている欧州では、自動車やミッションバイクよりも機動性が良く、そのような土壌で鍛え上げられたプジョーのスクーターは、高い運動性能と耐久性が魅力とされる。今回はラインアップの中から、スポーツスクーターであるスピードファイト R-CUP 125を紹介してゆこう。
近年、小型バイク(125ccクラス)市場の活況が目に付く。スクーターはもとより、フルカウルスポーツ、ビジネスバイク、三輪モデル等々、多くのメーカーから個性的なキャラクターを持つラインナップが発表されており、ユーザーからしても選択肢が増えることは嬉しいこととなっている。私が免許を取得した頃は、筆記試験だけで取得できる原付(50cc)組と、現在の普通自動二輪免許にあたる中免組にバイク乗りグループが分かれており、そのような中で購入した最初のバイクが125ccのレプリカモデルだったものだから、一人で近所の峠を攻めるロンリーライダーとなっていたことを思い出す。それに比べると今では125ccクラスは市民権を得て、というかむしろ、その優れた利便性が認知されたことや、欧州やアジアなどでもエントリークラスとして開発に力を注いできたことにより、現在の粒ぞろいマーケット状態に発展したのだ。
そのような中においての、プジョー・スピードファイトはどのようなモデルであろうか。スピードファイトというネーミングを授かった初代モデルが発売されたのが1997年。シングルアームサスペンションを採用したスポーツスクーターであり、エッジの効いたスタイリング、プジョーブランドらしい高い運動性能で、多くのファンを獲得した。今回テストを行う現行スピードファイト125は4世代目にあたり、ツーリングカー選手権に参戦するプジョーのレーシングカー『308TCR』にインスパイアされたグラフィックが施され、”R-CUP”と呼ばれるモデルだ。
実車を目の前にしてまず思ったのは、シャープなラインで構成していながらも、適度なボリュームを感じさせるデザインであり、触れてみると50ccクラスかと思えるほどコンパクトに纏められているということ。これはプレミアムカーを作る際の手法によく似ている。
ライバルの多いセグメントにおいて、キャラクターを強調させてゆくか、全体的な点数をまんべんなく高めてゆくかの、どちらかの方向性で開発がなされる傾向があるが、スタイリングに関して言えば、スピードファイト125は前者にあたると感じさせ、飛び切りスポーティな印象を受ける。それはアルミ製フットプレートやウイングパーツを備えたテールセクションからも伝わることだろう。
以前は2ストロークエンジンを搭載していたが、現行モデルでは4ストロークエンジンを採用しており、最高出力は11馬力と力強い。走り出すと、乾燥重量116kgという軽量さと相まって、ぐいぐいと車体を前へと押し出してくれる。それにトルクカーブがピーキーではないので、スロットルをガバッと全開にできる。過度な動きを見せずにフレンドリーな味付けだからこそ、結果的に速く走れるのだ。ストリートでのシグナルスタート時は、他のピンクナンバーよりもいつも一歩先をリードすることができたのを付け加えておく。
走行性能に関して特筆すべきは、足まわりの完成度の高さだ。前後13インチタイヤを採用しており、これは10インチないし12インチを使うスクーターと比べて安定感が向上し乗り心地も良くなる。逆に14インチモデルよりも軽快でスポーティだ。パワーやサイズなどを踏まえベターセレクトだと思う。そしてサスペンションは、多くのスクーターがバタバタと落ち着きがなくなりがちなのに対し、スムーズ且つしっかりとした接地感がライダーに伝わるため、ステージを問わずスポーツライディングを楽しめる。
装備面をじっくりと見てみると、LEDデイライトやLEDテールランプの採用、左レバーの操作だけで前後のブレーキが作動するSBCインテグラルブレーキングシステム、さらにはUSB電源やスマートフォンステーなど、安全面からユーティリティ面まで幅広く充実していることが分かる。
総じてスポーティで、なおかつプレミアム感もしっかりと持たされているスピードファイト125の車両価格は税込み36万7400円。ライバルモデルと比べると、若干高価な感じもしたが、装備面をはじめ内容を確認すると、妥当な線だと思う。いや、むしろこの金額で、ほかの人とは違うスポーツスクーターを選べるなら、割安にも感じるくらいかもしれない。