掲載日:2020年01月31日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/伊丹 孝裕 写真/井上 演
PEUGEOT CITYSTAR 125 RS ABS
プジョーと言えば、フランスの4輪メーカーとして日本でも馴染みが深い。ヨーロピアンブランドらしい洗練された製品作りで知られる一方、ル・マン24時間耐久レースやパリ・ダカールラリーといったモータースポーツの最前線でも活躍してきた名門だ。
実は2輪レースでも数々の実績を残し、あのマン島TTレースの記念すべき第一回大会(1907年)を制したのが、他でもないプジョーのエンジンだった。以来、様々なレースで優勝し、世界記録も樹立してきた一方でコミューターの分野にも進出。1953年に初のスクーター・S55を送り出して庶民の生活を支えた。
そんなプジョーの最新モデルのひとつが、このシティスターシリーズである。
現在、日本国内に導入されているプジョーのスクーターは3モデルだ。ジャンゴ、シティスター、スピードファイトがそれで、仕様違いを含めるとそのラインナップは17グレードにも及ぶ。
クラシカルなジャンゴと若々しいスピードファイトに対し、シティスターの雰囲気はフォーマルで、落ち着いたデザインに仕立てられている。スマートモーション、RS ABS、ブラックエディションABSという3種のグレードがあり、今回試乗したのは最もスポーティなRS ABSである。
すべてのグレードに水冷4ストローク単気筒エンジンが搭載されているが、スマートモーションが低回転重視の2バルブなのに対し、他のグレードは4バルブを採用。パワーとトルクが高められ、きっちりとキャラクターが分けられている。
1,430mmのホイールベースはこのクラスとして大柄で、その分、シート下の荷室容量がたっぷりと確保されている。フルフェイスとジェットタイプのヘルメットを1個ずつ収納できる他、フットスペースも広々としているため、利便性と快適性を両立。コミューターとしてだけでなく、ツアラー的な使い勝手にも優れている。
走り出すより前に、眺めて楽しめる部分も多い。プジョーというブランド、あるいはフランス製という先入観がなくても、質感の高さは明らかに多くのスクーターと一線を画す。
最も印象的なのはフロントマスクの造形で、ヘッドライトの間にはグリルが設けられている。その奥には4輪と同様にラジエターが備えられ、単なる飾りではないことが分かる。これ以外にも4輪的な意匠が随所に散りばめられている。リアビューもそうだが、それが最も色濃く表れているのがメーターだ。
スピードメーターの針とタコメーターの針が同一方向に振れるのではなく、向き合うように作動する点がまさにそれ。これはプジョーのハッチバック・308シリーズなどにも見られるギミックで、低回転域での視認性を高めるためのアイデアとして採用されているものだ。塗装の質感やライオンをモチーフにしたブランドロゴも含め、そこには125㏄という排気量を感じさせない上質さがある。
795mmのシート高がもたらす足つき性は良好だ。スクーターのポジションはラゲッジスペースと燃料タンクの影響を受けやすく、意外とツマ先立ちになるものだが、両足のカカトが接地(身長172cm/体重62kg)。重心が全体的に低く、車体の引き起こしや取り回しも楽に行うことができる。
スロットルを開けた瞬間のレスポンスは過敏過ぎず、駆動力がやんわりとリアタイヤに伝わる。2,500rpm付近からはダイレクト感が強まり、望めば最高出力が発揮される9,000rpm超まで軽々と回っていく、扱いやすい特性だ。
重心の低さはハンドリングにも見て取れる。バンク角が浅い領域では左右にヒラヒラとロールするが、一定の深さに達すると手応えが増し、挙動が落ち着いていく。タウンユースでの軽快感とワインディングなどでの安定感がバランスし、車速が増すほど路面追従性が高まるところがヨーロピアンモデルらしい。
秀逸なのが前後連動のABSだ。一般的なスクーターの場合、左手はリヤの制動力だけを担うものだが、シティスターはフロント側も機能。通常はこれだけで問題ないものの、もしもの時は右手のレバーを握るとフロントの制動力をさらに高めることができるのだ。
スクーターを単なる移動手段にしたくない、大人にふさしい仕上がりが魅力である。