掲載日:2019年07月29日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
FANTIC CABALLERO Flat Track125
イタリア、ファンティック社は1968年創業、モトクロスやトライアルモデルなどを得意としてきたメーカーだ。そのファンティックが今年、日本上陸を果たした。本格的なオフロードモデルのほか、キャバレロ(騎士)のブランド名を冠したスクランブラー、フラットトラックという2種が話題で、それぞれ500、250、125という排気量のモデルを揃えている。今回はその中でフラットトラック125を試乗車としてチョイス。保安部品を外せばそのままダートトラックレーサーとして通用しそうな風貌のこのマシン、果たしてその実力はいかに!?
フラットトラックレースとはアメリカ発祥の文字通りフラットなダートの周回路を走るレースで、別名ダートトラックレースとも呼ばれる。ファンティック キャバレロ フラットトラックは、そのダートトラック用のマシンをイメージした車両だ。そして、フラットトラック125はとんでもなくすごいマシンだ。
何がすごいかって、125といえどもフレームやフロントフォーク、ブレーキディスクなどの基本的な車体構成が、兄貴分である250や500と共通なのだ。だから125ということで小ぶりなマシンを想像していたら、実車を目にしてびっくりする。とても原付2種とは思えない、堂々たる車格のマシンが現れたのだった。昔は国産車でも250と400で車体が共通でエンジン排気量だけが違う、なんて兄弟車がけっこうあったが、原付2種と大型で車体が共通なんて車種は聞いたことがない。それだけ大胆で斬新な開発志向を持ったマシンなのだ。
外観は全体にムダをそぎ落としたシンプルでスパルタンなデザインとなっており、保安部品をさっと取り外せばそのままレースに使えるような佇まいだ。パッと見はクラシカルで昔ながらのバイクっぽいイメージだが、細部を見るとLED灯火の採用やABSを装備するなど、現代的な要素が散りばめられている。また、随所にアルミの削り出しパーツが使われているなどチープな感じは皆無だ。これは上位クラスの装備と全く同じと考えれば当然で、125クラスとしては異例ともいえる豪華なものとなっている。
タイヤは前後19インチ。これはダートトラックレーサーの標準仕様で、後輪を滑らせ、カウンターを当てながら旋回する際にコントロールしやすいからなのだとか。現在の市販車でこのホイールサイズを採用しているモデルは他になく、本格的なダートトラックを楽しめる唯一の存在といえる。
シート高は840mmと、125クラスとしては低くはない。そして、当たり前だが着座するとその立派な車格に面食らう。250や500と同じ車体だから当然といえば当然だが、ゆったりとしたポジションは、他の原付2種にはないものだ。
エンジンに火を入れると、かなり力強く歯切れのいい排気音、これも125とは思えない迫力あるサウンドだ。走り出すと、想像していたよりも乗り心地がかなりいい。125クラスだとどうしても足まわりが頼りなかったり、路面からの突き上げが気になったりするものだが、そんな心配は皆無。小径ホイールの同クラスのマシンが小さな釣り船とするなら、これは豪華なクルーザーのごとく、ゆったり、ふんわりとした余裕のある上質な乗り心地だ。
車体が大きい分、パワー不足なのでは、と予想していたが、6000~8000回転あたりをキープして走ると、かなりトルクフルで車の流れをリードするキビキビとした走りが可能。さらにそのままアクセルを開け続けると、なんならこのまま高速道路にも乗れてしまうんじゃないか、と錯覚するほどパワフルで驚かされた。そしてこの車格ゆえ、当然煽られたりすることはないので、混雑した都市部でも焦ることなく、心に余裕を持った走りができる。
ちょっと特徴的だと感じたのは、タイヤ形状のためか、交差点などで曲がる際、「意識して寝かせないと倒しにくいな」とバンクさせると、あるポイントからグイっと車体が寝るという挙動が見られたこと。慣れないと戸惑うが、一度わかってしまえばクイックで独特な倒しこみが楽しめる。
舗装路もいいが、やはりこのマシンの場合、気になるのはダートでの走りだろう。そこで次に河原のフラットなダートを走ってみた。直線では太めのタイヤのため、車体の安定性がよく、砂利やギャップに突っ込んでも不安定な挙動は全くない。これなら、普通に林道ツーリングも楽しめるだろう。わざと急ブレーキをかけてみても、ABSがきちっと作動するため、慌てるような場面はなかった。
次に、ABSをキャンセルして意図的に後輪を滑らせてみた。といっても普通の河原でスピードも出せないし、何よりプロライダーのようなテクニックもないので真似事だけだが、リヤがスッと流れると、まるでマシンに導かれるように自然にカウンターを当てるポジションを取ることができてびっくり。その際、とてもナチュラルな操作感で不安が全然なかったのが印象的だった。125のため最初からアクセルワークだけでパワースライドに持ち込むのはテクニックが必要だが、ブレーキターンをきっかけにカウンター状態に持ち込み、そのままアクセルを開ければダートトラックレーサー然としたスライドが楽しめる。
価格は税込79万円という125クラスとしてはなかなかの価格だが、独特のスタイルと走りが楽しめて、所有欲をも満たしてくれるこんなマシンは他にない。ファンティック キャバレロ フラットトラック125は、まさにライバル不在、唯一無二の存在といえるだろう。
ヘッドライトはLED。写真はロービーム点灯時で、リング状のものはポジションランプだ。ハイビームにするとローは消灯し、上の5つのライトが点灯する。
メーターはデジタル表示の単眼式。タコメーターは円周部にバーグラフで表示される。ほかに時計や電圧、残燃料などが表示可能なマルチファンクションタイプだ。
左側のハンドルスイッチは独特の形状。ABSは停車時にスイッチを長押しすることで解除できる。解除時にはオレンジのランプが点灯する仕組みだ。
フラットトラックシリーズのうち、125だけがキャブレター仕様となるため、チョークレバーを備えている。
右側のハンドルスイッチはスターター&キルスイッチのみというシンプルなもの。
フラットトラックシリーズはパッと見ただけでは排気量の違いがわからない。ナンバープレート以外では、ラジエターシュラウドにあるステッカーで見分けられる。
燃料タンク容量は排気量に関わらず12Lとなっている。タンク上面はトレー状となっており、純正やサードパーティ製のタンクバッグに対応するという。
エンジンは水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒124.45ccで、最高出力は未公表。ベースとなっているのはヤマハの子会社であるモトーリ・ミナレリ社のパワーユニットで、独自のチューニングを施している。125のみキャブレター仕様で、ケイヒン製のCVキャブを採用している。
マフラーはイタリア、アロー社製のツインタイプを採用。音色は太く迫力があり、歯切れのいいもの。ゼッケンの19は前後19インチタイヤを採用するダートトラックスタイルを意味している。
前後に長いシートは様々なライディングポジションに対応する。クッション性も悪くないが、タンデムにはあまり向かない形状だ。
ステップは幅広でラバーもないため、ダート走行の際にも滑りにくい構造だ。ペダル類やホルダーはアルミ製となっている。
ラジエターも各排気量で共通のものを採用。125クラスには十分すぎるポテンシャルを持っている。
テールランプは小ぶりのLEDで、ウインカーは通常のバルブタイプを採用。ナンバープレートホルダーはボルト留めなのですぐに外すことができる。
タイヤサイズは前後130/80-19で、チェコのMITAS製ダートトラックタイヤを装着している。ブレーキディスク径は320mm、BYBRE(バイブレ)社製のキャリパーを採用。
リアのタイヤ径もフロントと同じ130/80-19。ブレーキディスク径は230mmだ。キャンセル機能付きの2チャンネルABSを装備している。
テスターは身長170cm、体重73kg、足短め。片足だと指の付け根全体が接地する。両足ではつま先が着く程度だが、乾燥重量130kgの車体なので不安はない。
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