
アドバンテージCB1000Rを目の前にして、不思議な感覚に陥った。シルバーメタリックのカラーリングは25年前のCB900Fを彷彿とさせ、スタイリングのコンセプトがフレディ・スペンサーがデイトナで走らせたマシンであることは明らかだ。だから、そのとき僕は、この塗色がCB1000Rの純正色の一つだと勘違いしてしまった。でも、そんなわけはない。つまり、それだけCB1000Rの造形がホンダのアイデンティティを受け継いでいて、フレディのCB900Fのイメージが溶け込んでいるということだ。
見た目の第一印象はともかく、実際に走り出すと、またもや不思議な感覚に襲われた。ハンドリングが僕の知る2018年の初期型CB1000Rと全く異質なだけでなく、これまで経験したことのないほどマシンからのフィードバックが豊かで、スポーツ性を感じさせるのみならず、安心感を与えてくれるではないか。
初期型の場合は、いかにもストリートファイターっぽく、スロットルを開けるとダイレクトにリヤの接地感が高まり、スロットルとリヤで操っていくハンドリングだった。しかし、2021年のモデルチェンジでもっと万人受けするものに改められたのかもしれない。リヤサスのアレンジでそれも可能だったと推測する。
万人が受け入れやすいフィーリングになっただけではない。寝かし始めのフロントからの接地感の豊かさと言ったら、まさに唯一無二。絶品である。リヤからの個性を抑えた分、CB1000Rの素性としてのフロントの接地感が露わになったということもあろうが、この美点こそが、このアドバンテージCB1000Rの本質でもあるのだ。
軽くスラロームすれば分かるが、フロントが寝始め、舵角が付き始めたとき、驚くほど接地感が高まってくる。一般的にスポーツバイクのハンドリングはここまで接地感はなく、自分からフロントに荷重して接地感を高めたり、スロットルを開けてタイヤへの負担を減らしたりするものだ。なのに、これはフロントからの安心感が絶大だ。
この恩恵がタイヤから与えられていることに間違いはない。僕はこれまでS23に乗ったことがなかったが、コンパウンドとパターン剛性の妙か、寝かしていく段階で、フロントがしっかり曲がる力を発揮し、伝えてくれているかのようだ。
でも、それだけではない。鍛造アルミホイールのEXACTの絶妙な柔軟性と剛性バランスが、タイヤに最大限に能力を発揮させてくれるばかりか、無用の負担を掛けていないのだ。だから、スロットルを開けたときも、リヤがフロントを押し出すことなく、ニュートラルに曲がっていく。
さらに、コーナリングへの進入ではフロントブレーキを使って、速度調整だけでなく、姿勢変化をコントロールしていくのだが、ダイレクトドライブ式ディスクによって、ブレーキングの様子が手に取るように伝わってくる。それが接地感の高まりと相まって、最高のコントロール性を味わわせてくれる。
アドバンテージの中西さんは「私の思う上級な乗り物に進化させました」と言う。付け加えさせて頂くと、上質さとはライダーに安心感と自信を与えてくれるものなのである。
テストライダー:和歌山 利宏
スタイリングはAMAでフレディ・スペンサーが走らせたCB900Fのイメージながら、純正カラーリングかと思わせるほど、オリジナルフォルムに溶け込んでいる。塗装は森田デザインによる。
前後ホイールはアルミ鍛造EXACT2 Racing10で、カラーはオプションのゴールド。フロントのホイールサイズは3.50-17。タイヤはブリヂストンのBATTLAX HYPERSPORT S23で、サイズは120/70ZR17。
フロントブレーキディスクには、アドバンテージのDIRECT DRIVE RACING DISCを装備。ディスク径はノーマルと同じφ310㎜だ。ブレーキ力をフローティング部の点ではなく面で受ける構造となっている。
リヤホイールは片持ちで、ホイールサイズは6.25-17。タイヤは200/55ZR17。ノーマルのサイズはそれぞれ6.00-17、190/55ZR17だが、オーバーサイズ感はない。
スプロケットはXAM JAPANの520コンバート、チェーンはDID 520ZVM-Xだ。
テールカウルとフェンダーレスキットはTK Factoryの製品。
エンジンオイルには、MOTUL 300V FACTORY LINE ROAD RACING 0W30を使用する。