取材協力/ADVANTAGE 取材・文/和歌山 利宏  撮影/PHOTO SPACE RS
掲載日/2013年11月13日

世の中には、量産市販車の部品と交換するためのハイグレードなリプレイスパーツが多く存在する。そしてそのどれもが軽量で質感が高く、洗練されたコントローラブルな走りに貢献することを目的に作られている。ここで紹介する『ADVANTAGE』(アドバンテージ)のハヤブサも、多くの部分がそんなハイグレードパーツに換装されている。だがそれは単なる高性能化のためだけではない。ライダーへの優しさに満ちているのだ。

INTRODUCTION

ライダーに転倒に至るまでの時間を長く持たせること
それがアドバンテージ代表の中西昇さんの基本理念だ

兵庫県尼崎市にあるアドバンテージは、長きに渡って大手部品メーカーとの協力関係の下、独自の設計でコストを惜しむことなく、多くのパーツを企画し、製造・販売してきた。その部品メーカーのほとんどが、国産メーカーに純正品を納入しているところだけに、その製品は、量産品では満足できないものを補って余りあると言って差し支えない。代表の中西昇さんは言う。

「バイクには転倒という宿命は避けられません。でも、ライダーが、バイクの状態を把握し、たとえ危険な状態に近付いても、時間を長く持ち、コントロールできる特性が備わっていれば、恐怖感を持つことなく、転倒を避けられるかもしれません。そのために、車体から電子制御、ブレーキからトラクション状態まで、全てを注視することを身上にしています」

元々がモトクロスライダーで、モトクロスでの転倒限界に挑戦してきた中西さんならではの考え方である。このハヤブサには、前後サスペンションからホイール、ブレーキ、そしてエキゾーストからクラッチに至るまで、フルカスタムが施されている。ここではホイールにフォーカスして、ノーマルから大きく特性を刷新させたハヤブサに注目してみたい。

中西 昇
Noboru NAKANISHI

カスタムパーツとカスタムマシンのプロショップ『ADVANTAGE』代表。レーシングからストリートまで、ライダーにとって理想のマシンを仕上げていくことを目指す。安全性能と機能性(使い易さ)、それに耐久性を重視しており、パーツは信頼性の高いメイドインジャパンに拘る。「安全は全てに優先する」というコンセプトのもと、質の高いパーツとマシンを作り続けている。

IMPRESSION

明らかに軽快・シャープ・スポーティになっている
しかし全てが穏やかに感じられて景色さえもが良く見える

やっぱり、ハヤブサは文字通り、メガバイクだ。デカいし重い。これでもマフラーの換装などで軽量化されていて、ノーマルよりも軽いはずなのに、傾いた車両を跨って起こそうとするときには、ズシリとした重さを感じずにはいられない。それでも、車体が直立に近付くにつれ、マフラーが軽くなっているおかげなのか、幾分はノーマルより取り回しが軽いことに気が付く。少々は助けられた気分になったものの、ハヤブサが重さでもその存在を訴えてくることに変わりはない。

ところが、クラッチミートして街中へ走り出てみると、重さのことなど忘れてしまう。スラロームでもしてみれば、その軽快な身のこなしは、まさしくスポーツバイクのそれだ。ノーマルだって走り出してしまえば重くはないのだが、ノーマルの場合、ゆったりとした挙動の中での軽さだったはずなのに、これには軽さにシャープさが加わっている。

おそらく、これには、格段に軽くなったマグネシウム鍛造製の『EXACT』(イグザクト)ホイールの利益が大きいに違いない。前後ホイールのジャイロ効果は、回るコマが倒れないのと同様、バイクの安定性に多大な影響を与えている。だがその反面、運動状態を変えようとしたとき、大きく抵抗力を生み、それが重さとかダルさになる。

 

このハヤブサの前後ホイールは、発生するジャイロ効果が小さいため、動きが俊敏で軽快なのだろう。また、バネ下が軽くなるので、同じように路面から突き上げられても、バイク本体には大きなエネルギーが伝わらない。「ドッカーン」とは来ずに、「トントン」という感じになるわけで、それが洗練された軽さにも繋がっていると見ていい。

したがって、軽量ホイールを装着することは、大きく走りを刷新させてくれることになる。純正品よりもリプレイス品、アルミニウム製よりもマグネシウム製、鋳造製よりも鍛造製が高価ではあるが、軽量化には効果的だ。ところが、軽いホイールに換えるだけで、必ずしも、いいバイクになるというものではない。多くの場合は、市販車の基本バランスを崩したり、ひどい場合は軽いことのネガが露呈し、安定性に欠け、走りが神経質なものになりかねない。最低でも、サスペンションのリセッティングが必要になるというものだ。

なのに、このアドバンテージ・ハヤブサときたら、すごく安心感に満たされている。これは不思議な感覚でもある。試乗を進めながらその原因を探り、また試乗後に中西さんから話しを聞いていくに連れ、全てに納得させられた。換装されているパーツの全てが、軽量ホイールの持ち味を昇華させ、ネガティブな部分を消すために働いていたというわけだ。

まず、このイグザクトホイールは、リム形状によって空気室の容量が、他のものよりも大きいのだと言う。荷重が掛かったり、路面から突き上げられたりしてタイヤが撓んだとき、空気容量が大きいと、過剰に反発力が生まれず、タイヤは緩衝能力を発揮させやすくなる。ひとつにはこのことが、ライダーを緊張から遠ざけてくれるのかもしれない。

 

加えて、前後のKYBサスペンションは、ノーマル以上にしなやかにストロークしてくれる。しかも、大きく動いてもコシがあって、荷重変化にしっかり反応し、ストレスを受け止めてくれる。歩道の段差を通過したとき、快適さが十分に保たれていても、路面状況をダイレクトに伝えてくれるスポーティさだ。軽量ホイールとのマッチングも上々なのである。

 

ホイールが軽ければ、回転の慣性も小さくなり、加減速性能も高まる。だが、操りにくいシビアさに繋がりかねない。でも、これは加速に対しても優しい。路面の濡れたところや荒れたところを加速しながら通過しても、まるでトラクションコントロールが効いているみたいに安定しているのだ。

 

それは、クラッチの特殊なフリクションプレート材によって、急激なトルク変化を逃がしながら、トラクションを柔らかに伝えてくれるためであるようだ。だから、クラッチレスでギアダウンしても、一瞬タイヤが鳴るだけでホッピングも生じない。クラッチスプリングの精度も高くなっているようで、プレート上の面圧が均一化され、レバーフィーリングもいい。ただ、クラッチスプリングが3%固くなっているため、レバー操作は重めである。

 

ブレーキングに対しても、コントローラブルだ。フロントブレーキのパッドがディスクに喰い付く様子を手に取るように把握できる。ダイレクト感があって、右手で微妙なコントロールもしやすい。実は、フロントディスクは一般的なフローティングピンではなく、T型に突起のあるディスク内周がブラケットに噛み込み、外側からステンレスプレートで固定する方式となっている。これだとディスクの変形を吸収しながらも、回転方向には遊びがない。そのためブレーキ力を加減しても、それが遅延なく伝わる。ダイレクト感絶大というわけだ。

 

また、スイングアームのアクスル回りが剛性アップされた効果も大きく、後輪からの情報もダイレクトに小気味良く伝わり、それがマシンをコントロールしている実感と安心感に繋がっている。

 

そんな具合だから、コーナリングもすこぶる楽しい。やはりバイクにとって大切なのは、全てのマッチングなのである。

TEST RIDER

和歌山 利宏

Toshihiro WAKAYAMA

某メーカーの開発&レーシングライダーを経験した後、ジャーナリストに転身。マシンの挙動を科学的に解説できるライダーとして、業界内での信頼も高い。

PICKUP PRODUCTS
  • アドバンテージ・ハヤブサ スタイリング

  • アドバンテージ・ハヤブサ スタイリング

  • アドバンテージ・ハヤブサ スタイリング

  • アドバンテージ・ハヤブサ スタイリング

  • アドバンテージ・ハヤブサ スタイリング

  • 前後ホイールは、EXACT(イグザクト)と名付けられたマグネシウム鍛造製。サイズはフロントが3.50-17、リアは6.00-17だ。軽量であることはもとより、空気室容量が大きく、吸入能力が高い。デザイン的にもシャープで美しい。

  • フロントフォークは、アドバンテージKYBのφ43mm径倒立式。ドライカーボンシェルとDLCインナーチューブを備える。リヤショックユニットもKYB製でドライカーボンシェルとDLCサスペンションロッドを持つ。外装デザインとペイントは『M plus』が手掛ける。

  • フロントキャリパーは、アドバンテージNISSIN。削り出しの4ピストン・ラジアルマウント式である。フロントフォークのドライカーカーボン製ボトムブラケットも高級感を醸し出している。

  • レーシングステンレス製のφ320mm径ブレーキディスクは、国内JSBだけでなくMOTO-2やWSB/WSSにも供給され、実績を積んでいる。フローテングピンを使用しないデザインで、ライダーの不安要素であるジャダーや熱歪み、衝撃を著しく改善している。

  • フロントブレーキのマスターシリンダは、アドバンテージNISSINのラジアルポンプ式。

  • クラッチマスターも、アドバンテージNISSIN。クラッチとブレーキラインには、アクティブ製を使用する。

  • リアブレーキは、キャリパーがNISSIN2ピストンの削り出し、ディスクはオリジナルのφ240フローティングローター。赤にアルマイト処理されたスタンドハンガーも美しい。

  • スイングアームはエンド部にクイックチェンジシステムを備える。アクスル部の剛性を高めるため、7N01材の製品に溶接し直している。

  • エンジン本体はノーマルのままだが、クラッチがF.C.C.のトラクションコントロール機能を持つものに換装されている。急激なトルク変化に対してクラッチ板を滑らせるというもの。エンジンオイルはMOTULのFactory Line 15W-50と5W-40のブレンドで、F.C.C.クラッチとの相性も良い。

  • マフラーにはアドバンテージオリジナルのチタンスリップオンエキゾーストシステムが装着される。


BRAND INFORMATION

ADVANTAGE

常に最高を目指すフットワークパーツとカスタムバイクのプロショップ。SHOWA/KYB/NISSIN/F.C.C./NHK/D.I.D./XAMなど一流メーカーとコラボレートし、OEMではなくアドバンテージのエッセンスを注ぎ込んだオリジナルカスタムパーツとして、開発・販売を行う。レース向けに開発したパーツを世界標準とする事を目的とし、スズキグループでの経験を元に、AMA/FIMが主催する世界最高峰のモータースポーツに、一石を投じ続けている。

 

住所/兵庫県尼崎市昭和通9-324
電話/06-6412-6145(代表)
メール/ama@advantage-net.co.jp
営業/10:00-18:00
定休/水曜、レース及びイベント日