WP神戸イーストが開発したローシャーシ仕様のKTM/ハスクバーナで、足つき性の不安を解消‼

掲載日/2023年4月4日
取材協力/KTM神戸イースト/ハスクバーナ・モーターサイクルズ神戸イースト/WP神戸イースト
取材、文/中村友彦 写真/富樫秀明
構成/バイクブロス・マガジンズ
シート高の数値を見て、KTM/ハスクバーナを断念……。世の中にはそういうライダーが少なからず存在する。とはいえ、WP神戸イーストが開発したローシャーシ仕様なら、どんなライダーでも敷居の高さは感じないはずだ。

一般的なローダウンとは異なる、独自の開発姿勢

KTM神戸イースト/ハスクバーナ・モーターサイクルズ神戸イースト/WP神戸イーストの店内には、WPサスペンション専用メンテナンス室が設けられている。作業はガラス越しに見学することが可能。

最近の日本の2輪市場では、足つき性重視の低車高仕様が注目を集めている。具体的な話をするなら、車両メーカーがそういう仕様を設定する事例が増えているし、アフターマーケット市場ではローダウンリンクやローシートなどが人気を獲得している。また、フロントフォークの突き出し量を増やしたり、リアショックのプリロードを弱くしたりといった手法で、販売店が車高を下げて納車するケースもあるようだ。

そんな中で、独創的なスタンスで低車高仕様を開発しているのが、WP神戸イーストである。WPサスペンションを熟知した同店の仕事で興味深いのは、ローダウンではなく、ローシャーシ、ロワリングという言葉を使っていること。その理由を同店代表の山鹿延也さんに尋ねてみると、以下の答えが返ってきた。

サスペンションに関するいろいろな話を聞かせてくれた山鹿さんは、WPの特性を熟知。どんなオーダーにも応えてくれる。

「2輪の世界でローダウンと言うと、シート高を下げることとほぼ同義語になっていますが、当社のローシャーシの最大の特徴は、前後サスペンションを乗り手に合わせることです。もちろん足つき性も大事な要素で、エンドアイや内部のパーツをショートタイプに変更すると、シート高はノーマルより低くなりますが、当社のローシャーシ仕様はメーカーが設定したディメンションや重量配分に対する配慮を十分に行っているので、ノーマルに対するマイナス要素は一切ありません」

ノーデン901のシート高は854/874mm。ロー位置にセットしても、身長168cm、体重60kgの山鹿さんが跨ると、つま先はツンツン状態になる。

シート高が809mmのローシャーシ仕様だと、両足のほぼ半分が接地。この状態なら小柄なライダーでも、大きな不安は感じないはずだ。

逆に言うなら一般的なローダウン仕様は、キャスター角や重量配分の変化でハンドリングに異変が生じたり、足つき性に特化した結果として乗り心地が悪くなったりと、ノーマルに対するマイナス要素が生じることが少なくないのである。

「いくら足つき性が良好でも、そういう状況だとライディングが楽しめませんからね。当社のローシャーシ仕様の場合は、前後サスペンションで車高を調整するので、本来のバランスが崩れることはないですし、性能の限界ポイントを超えるような加工は一切行いません。また、走りと乗り心地を決めるスプリングの硬さは各ライダーに合わせて決定しますので、仕上がりは一人一人に合わせた特別仕様になります。

なお当社では、オフロードレースで結果を残すために、エンデューロモデルなどを愛用するライダーから、ローシャーシ加工の依頼を受けることもあります。車高が低くなると、コース上の倒木などに下まわりが干渉するデメリットが発生しますが、その問題はアンダーガードで対処できますし、足つき性が良好になることで転倒の可能性は格段に減りますからね。その結果、車両の破損が回避できるし、引き起こしで使う体力の消耗も少なくなる。結果的にはメリットのほうが大きくなるわけです。例えば数時間のレースを想像すれば、どちらが優位かご理解いただけると思いますよ」

同店が独自に開発したWPサスペンション用パーツ。上段はショートタイプのエンドアイで、その他はストローク変更で使う内部パーツ。

一般的な日本人の体格を考慮したセッティング

WP神戸イーストでは、これまでに独自のソフトスプリングやハードスプリングを数多く開発。オリジナルパーツとしての販売も行っている。

KTM神戸イースト/HQV神戸イースト/WP神戸イーストでは、常に10台前後の試乗車を準備し、その中の半数がローシャーシ仕様になっている。さらに同店では、数多くのKTM/ハスクバーナに対応するロワリングキットや体重別スプリングをオリジナルパーツとして準備している。こういった仕事に山鹿さんが注力する背景には、どんな事情があったのだろうか。

「それはもう、できるだけ多くのライダーにKTM/ハスクバーナを味わって欲しいからですよ(笑)。もっとも私は、現在のショップの原点として1993年にメンテナンスショップのインパラを創業した当初から、乗り手がバイクに合わせるのではなく、バイクを乗り手に合わせるのが正解と考え、独自のメニューを設定してサスペンションのセッティングとメンテナンスを行ってきました。今の仕事はその延長ですが、KTM/ハスクバーナの場合は、高品質で設定変更が容易なWPが標準で、全車がスプリングレートを公開し、車両によってはソフト/ハードスプリングをオプション設定しているので、メカニックとしては仕事がやりやすい印象です」

WPのPDSリアショックは、内部に備わる2つのピストンが特徴で、リンクレス構造ながらリンクタイプと同等の性能を持ったサスペンション。宇宙一過酷なハードエンデューロと言われる、エルズベルグロデオでも好成績を残している。上:2007年990アドベンチャー、下:2020年890アドベンチャーR

KTM/ハスクバーナの車両は世界標準の身長175㎝、体重80kgのライダーを想定して設計されていて、この数値は日本人の平均とは差がある。とはいえメーカーが公表するデータを見れば、設定体重以外のライダーに、どんなレートのスプリングが適しているかが把握できるのだ。そしてそういった事情を熟知した同店の最新作が、ハスクバーナ・ノーデン901の45mmローシャーシ仕様である。この仕様はフロントフォークとリヤサスペンションのストローク加工、サイドスタンドのショート加工、オリジナルレートの前後スプリング、を含んで18万円でシート高を809㎜にすることができる。

リヤサスペンションに圧側HI、LOWダンパー調整機構を追加したプロトタイプ(写真)は23万円。スプリングはWP神戸イースト製前後スプリング。ノーマル車高用セットアップスプリングも準備、前後セットで4万6300円で販売も行っている。

上がノーデン901のノーマルで、下はWP神戸イーストが開発したローシャーシ用リアショック。全長はノーマルのほうが17mm長い。

2本のサイドスタンドは、上がノーデン901のノーマルで、下は全長を短縮したローシャーシ用。

「ノーマルのスプリングレートはフロント6.5N/mm、リア110N/mmですが、当社のオリジナルスプリングは、フロント6.0N/mm、リア90N/mmです。標準のスプリングが固く感じている方にはおすすめで、オフロード走行時も快適です。ローシャーシ仕様のシート高はノーマルのローセット位置より45mm低い809mmになります。またご希望のシート高にも対応できます。リアショックは2種類あり、伸び側及び圧側の低速/高速用の調整機構が備わるタイプと、伸び側のみ調整可能な標準タイプがあります。ノーデン901EXPEDITIONも対応出来ます、いずれにしても前後サスペンションのことなら、どんなことでも気軽に相談して欲しいですね」

ノーマルに対するマイナス要素が見当たらない

試乗前に前後サスペンションの沈み込み量を計測。筆者が大柄でリアの沈み込みが多かったので、プリロードを強くして対処。

さて、ここからは試乗編なのだが、筆者の体重は74kg、身長は182cmなので、KTM/ハスクバーナの設定内……と言えなくもない。とはいえ、50代になって着実に体力が低下し、ノーデン901を含めた近年の大排気量アドベンチャーツアラーに手強さを感じる機会が増えてきた身としては、同店が手がけたローシャーシ仕様はメリットが満載だった。

ローシャーシ仕様となったノーデン901の最大の美点は言わずもがな、良好な足つき性である。身長182cmの男が何を言っているんだとツッこまれそうな気はするけれど、ノーマルのノーデン901に乗った際に、“普段使いには車高がちょっと高すぎるし、1人で未知の林道は厳しそう……”という印象を抱いた僕は、この仕様なら“市街地の移動に普通に使えるし、1人で林道もある程度はイケる‼”と感じたのだ。

ノーマルと比較すると全体の車高が下がっているが、走行中の違和感は一切ナシ。

それに加えて、アクセルが開けやすく、ブレーキがかけやすくなっていることも、ローシャーシ仕様の大きな美点。まあでも、僕がそう感じた背景には、普段の自分のメインがオンロードバイクという事情がありそうだが、車高と重心が低くなって安定感が増し、ソフトスプリングの効果で操作に対する車体の反応がわかりやすくなっているローシャーシ仕様は、ノーマルより思い切ったアクションが気軽にできる。

ただし今回の試乗で僕が最も感心したのは、ノーマルに対するマイナス要素が見当たらないこと。いや、それどころかローシャーシ仕様は、常用域での乗り心地が良好で接地感が濃厚なうえに、Uターンもノーマルより格段にイージー。もっとも厳密に言うなら、軽快感や悪路走破性はノーマルに軍配が上がりそうな気がするけれど、もともとのノーデン901が十分以上の軽快感と悪路走破性を備えているからか、僕はローシャーシ仕様に不満や違和感をまったく抱かなかった。

今回取り上げたのはノーデン901だが、現在のKTM神戸イースト/HQV神戸イーストではその他にローシャーシ仕様の試乗車として、KTM 1290スーパーデュークEVO、250デューク、250アドベンチャー、890アドベンチャー、HQVスヴァルトピレン250、スヴァルトピレン401を準備している。

いずれにしても、ローシャーシ仕様になったノーデン901は本来の資質を維持しながら、手の内に入った印象なのだ。おそらく、KTM神戸イースト/HQV神戸イースト/WP神戸イーストが試乗車として開発した他のローシャーシ仕様でも、同様の感触が得られるのだろう。

INFORMATION

住所/兵庫県尼崎市西昆陽3-1-10
電話/06-6432-0061
営業時間/10:00~18:00
定休日/第1・3・5木曜、第2・4水曜、レース及びイベント時

2003年からKTM正規ディーラーとしてオープンしたIMPALA。2018年からはハスクバーナ・モーターサイクルズ神戸イーストとしてハスクバーナ・モーターサイクルズの取り扱いも開始し、2022年8月に店舗をリニューアルした。また、WPサスペンションユニットの販売、セットアップ、メンテナンス、チューニング等を手がけるサスペンションのプロショップでもある、オリジナルパーツの開発にも積極的。