一人一人のライダーに合わせ、世界に一つだけのサスペンションを構築するスペシャルショップWP兵庫東(動画あり)
掲載日/2021年3月2日
取材協力/WP兵庫東
取材、文/淺倉恵介 写真/木村圭吾
構成/バイクブロス・マガジンズ
アフターパーツのサスペンションユニットを装着するのは、バイクカスタムの定番手法。だが、そのサスペンションユニットは本当にあなたの走りにマッチしているだろうか? 本来の高性能を引き出せているだろうか? サスペンションはライダーに合わせてセッティングしてこそ意味がある。その技術とノウハウを備えたスペシャルショップ、WP兵庫東にサスペンション活用の秘訣を聞いた。

サスペンションは乗り手に合わせて使うもの
ベストセッティングのサスペンションは走りを変える!

アフターパーツのサスペンションは数あれど、そのトップブランドのひとつがWPサスペンションだ。今回紹介するWP兵庫東は、そのWPサスペンションのスペシャリスト。WP製品の販売をはじめ、ユニットのオーバーホールなどのメンテナンス、ライダー個々の走り方に合わせたモディファイやユニットのワンオフ製作すら可能なのだ。だが、アフターメーカーのサスペンションユニットといえば基本性能の高さはもちろん、豊富なアジャスト機能がポイントのひとつ。モディファイやワンオフが必要なのだろうか?

WP兵庫東、KTM神戸、ハスクバーナIMPALAを運営する株式会社インパラの代表を務める山鹿延也さん。バイクとサスペンションに精通したメカニックで、自ら走り込んでセッティングやパーツ開発を行う実践派。

「例えばですが、四輪車はポジションの調整機構を装備しているのが当たり前ですよね? シートが前後に動かせたりリクライニングしたりして、乗り手に合ったポジションに変えることができる。ですが、バイクはそうなっていません。乗り手がバイクに合わせなければなりません。ですが、バイクでも乗り手に合わせて調整が可能なパーツが色々あります。その一つがサスペンションなのです」

そう語るのは、WP兵庫東代表の山鹿延也さん。山鹿さんは、こう続ける。

WP兵庫東はサスペンションユニットの完全分解が可能な、メンテナンス、チューニング用メカニックブースを備える。WP製品の交換部品は豊富に在庫しており、サスペンションに関する全ての作業を自社内で行っている。

「スタンダード状態のバイクでもスプリングのプリロードやダンピングアジャスターを装備したモデルは少なくありません。サスは乗り手に合わせられる、乗り手に合わせて使うべきパーツなんです。WPのサスペンションユニットは、基本性能も高いですし調整範囲も広い。ですが、その範囲でアジャストしても満足できない人もいるわけです。その場合、モディファイやワンオフで対応できます」

WP製リヤショックユニットの上級モデル「APEX PRO」。圧側/伸側ダンピング、スプリングプリロード調整が可能なフルアジャスタブルタイプ。圧側ダンパーは高速側/低速側の独立調整が可能。プリロードは油圧式で簡単に調整ができる。高精度マシニングで製作されるアルミボディは超軽量。もちろんAPEX PROフォーク、リヤショックを使ったローシャーシの製作も人気が高い。

サスペンションユニットのスプリングプリロードやダンピングのアジャスターは、調整が可能ではある。だが、基本設定を軸としたもので、乗り手に最適なセッティングが調整範囲に入っているとは限らない。WP兵庫東ではダンパーの基本設定を変更することも可能、スプリングも乗り手の体重に合ったレートを選ぶことができる。山鹿さんは、スプリングレート選択の重要性を強調する。

「スプリングの力で跳ねる、ホッピングマシンというオモチャがありますよね。普通は子供用に作られていますから、大人が使ってもピョンピョンと跳ねることは出来ません。逆に、大人用に作られているものがあれば、子供が使えばやはり上手に跳ねることが出来ません。その理由はスプリングのレートが合っていないからです」

ここでいう子供は、体重が軽い人。大人は体重が重い人と言い換えるとわかりやすいだろう。

「大人は重いので、子供用のスプリングでは必要な反発力が得られない。子供は軽いので、大人用のスプリングをしっかり縮めることができません。スプリングをちゃんと働かせる適正な荷重は決まっています。これはサスペンションのスプリングでも同じことなんです。乗り手によって最適なスプリングレートは異なります。WPのショックユニットは、体重75〜85kgのライダーを基準に作られています。通常の出荷状態は、それに合わせたスプリングが選ばれています。セッティング変更で、ある程度までは調整は可能です。それだけでも、WPの良さは感じてもらえるでしょう。ですが、乗り手に最適なレートのスプリングに変更すれば、本当の素晴らしさを味わっていただけると思います」

WP兵庫東が在庫するスプリングの一部。WP兵庫東がオリジナルで製作したもので、オレンジはKTM用、ホワイトはハスクバーナ用。ラインナップは膨大だ。

WPのセッテング用スプリングは体重別に準備されているが、すべてのモデルがラインナップされているわけではない。そのため基本セッティングの体重75㎏~85㎏から著しく外れた体重の人にはオプションで最適な物を準備できないケースもある。しかし、安心してほしい。WP兵庫東ではオリジナルスプリングの製作を行っているため、自分の体重に最適なスプリングをワンオフで作ってもらえるのだ。スプリングレートは体重だけで決まるものではないが、重要なファクターであることは間違いない。サスペンションを知り尽くしたWP兵庫東に相談すれば、あなたに最適なスプリングレートを見つけてくれることだろう。

「特に注意が必要なのは、体重の軽い方ですね。十分にスプリングを縮めることができずに、サスペンションの基本性能を生かしきれない可能性がある。そうすると、操安性を損なって危険な場合があるんです。当店にバイクを買いに来られたお客様が、明らかに標準装着されたスプリングレートに合わない体格の方でしたら、まずスプリングの変更をお勧めしています。自分に合ったレートのスプリングを使用すれば、乗り心地も良いし何より走るのが楽しいですから」

WP兵庫東では、レートの異なるWPのスプリングを豊富に在庫する他、WPにラインナップされていないレートでも、多くの日本人の体格にマッチするオリジナルレートのスプリングを在庫してくれているというから嬉しい。

足つき性に悩む全てのライダーへ朗報
ローシャーシーモデルで得られる絶対的な安心感

また、WP兵庫東はKTM正規ディーラーKTM神戸、Husqvarma IMAPALAとしての側面も持つ。そして同店の人気モディファイメニューに、ローシャーシーモデルがある。これは、いわゆる車高調整の事。KTMには実に面白いバイクが揃っているが、欧州メーカーであり、車格やサスペンションの設定は、現在の世界平均身長と体重を基準に作られているため、日本人の中には、体格の問題で気に入ったモデルを諦めるという人もいる。より多くの人が気に入ったモデルを楽しめるようにと作られたのがローシャーシーモデル。今回は、790DUKEのローシャーシーモデルを試乗させてもらえることになった。

KTM神戸の790DUKEローシャーシーモデルの試乗を前に、山鹿さんから車両についてのレクチャーを受けるリポーター。WP兵庫東のノウハウを注ぎ込んで製作されたマシン、いやが上にも期待が高まってくる。

ちなみにリポーターはKTMのバイクが大好き。弾けるようなエンジン、シャープで自由度の高いハンドリング。本当に走りが面白いバイクを作るメーカーだと考えている。だが、自ら所有したことはない。なぜなら身長163cmと小柄なので、シートの高さに難がある。ツーリングでも街乗りでも、足つき性は使い勝手を考えると重要な意味を持つ。

足つき性の悪いバイクに無理して乗った初心者ライダーが、信号待ちでギアをニュートラルに入れようと思っても足の踏み変えがうまくできずにニュートラルに入れる前に信号が青になったり、そもそも発進時にサイドスタンドが払えない、といった場面すら見たことがある。サーキットでもなければ、走り出してから止まるまで、一度も足をつかないということはない。いや、サーキットですら、足着き性が良いに越したことはないのだ。

試乗する車両は790DUKEのローシャーシーモデル。ノーマルでは正直なところ足つきが厳しいのだが、ローシャーシーモデルなら両足が不安のないレベルで接地する。それだけでなく、スプリングも標準より体重設定が1ランク軽いものが使われているという。リポーターの体重は56kgほどなので、まだベストとはいえないのだが、標準設定よりは理想値に近い。果たして、どれほどの効果が体感できるのか?

790DUKEをローシャーシー化するロワリングキット。体重で選べる前後サスペンションのスプリングと、ショートタイプのリヤ用エンドアイ、フロントフォークの長さを変更するインナーカラー、ショートサイドスタンドがパッケージ。車種によってキットの構成パーツは異なる。試乗車には、KTM神戸の形状変更シートも装着されている。

走ってみて驚いた。違う、全然違うのだ! 前後のサスペンションは深い位置までストロークしているのが感じられるし、路面から伝わる接地感が段違いに強い。安心感と自在感の桁が違う。マシンをどんどん振り回していきたくなる。誤解の無いように言っておくと、790DUKEのサスペンションは標準のままでも高レベルだ。これまでは素晴らしいアシだと考えていた。だが、WP兵庫東のローシャーシーモデルと比べてしまうと、ノーマルは自分の体重では乗り心地が硬く、コーナーでギャップを踏んだ時などタイヤが跳ねてしまうのでは? という不安感があった。

ローシャーシー化された790DUKEの走りは痛快そのもの。車体のコンパクトさが強調され、コーナーでマシンを振り回すのが実に面白い。ハンドリングに違和感を感じることもない。小柄なリポーターでも両足裏のほとんどが接地、足つき性には何の不安もなかった。

これは素晴らしい。自分に最適化されたスプリングを使ったら、どれほど楽しく、不安なく走れるのだろうか? 是非とも試してみたいと思った。サスペンションの基本はスプリングだとはよく言われるが、それを再確認させられた試乗だった。実をいえば、試乗前にはハンドリングの悪化を懸念していたことを白状しよう。過去に出来の悪いローダウン車に乗った経験があるのだ。だが、WP兵庫東が製作したローシャーシーモデルのハンドリングは実に自然で、何の不満も感じなかった。そこで、ローダウン化で何かデメリットはないのか? と山鹿さんに聞いてみた。

「ありません。強いて言えばステップが地面に近づいた分、バンク角は少し減ります。ですが、サーキットで相当攻め込むのでもなければ、まず問題ないでしょう」

とのこと。もちろん、この790DUKEは単純に車高を落としただけではない。下げた車高に合わせ、ディメンションを見直し、サスセッティングも変えられている。WP兵庫東が作ったからこそ、これほどハイレベルなセットアップが実現しているのだ。サスペンションのスペシャリストであるだけでなく、バイクという乗り物に精通したショップ、それがWP兵庫東。自分のバイクを任せてみたい、そう感じた取材だった。

INFORMATION

住所/兵庫県伊丹市昆陽4丁目129-1
電話/072-785-0061
営業時間/10:00〜19:00
定休日/第1・3・5水曜、第2・4木曜、レース及びイベント時

WPサスペンションユニットの販売、セットアップ、メンテナンス、チューニング等を手がけるサスペンションのプロショップ。サスペンションはライダー個々に合わせたセットアップが必要との考えから、セッティング作業やメンテナンスはもちろん、オリジナルパーツの開発にも積極的。KTM正規ディーラーKTM神戸として、KTM、ハスクバーナの車両販売も行っている。