掲載日:2023年05月12日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐賀山 敏行 写真/渡辺 昌彦
HONDA ADV160
現在、150~160ccのいわゆる「軽二輪コンパクトスクーター」には多くの車種がラインナップされている。ホンダはPCX160とADV160、ヤマハはX-FORCEをはじめとした3モデル、さらにキムコやベスパなど海外ブランドも積極的に国内ラインナップを増やしている。
その中にあって、「ADV」はアドベンチャースタイルを持つスクーターとして、国産メーカーとしては唯一無二の存在感を発揮。買い物や通勤・通学などの普段乗りだけでなく、ツーリングも楽しみたいというライダーに支持を広げてきたのだ。
そんなADVが今年1月、フルモデルチェンジによって160へと進化した。もちろん前モデル同様、PCXをベースにしているので、その性能は折り紙つき。それでいて個性は「十二分」といえるもの。人とは違うスクーターに乗りたいというライダーにとって、まさに「満を持しての登場」といえよう。
まずはエンジン。前モデルはボア57.3mm×ストローク57.9mmの149cc。今回はボア60.0mm×ストローク55.5mmの156ccとなっている。特性は、前モデルはスクエアだったのに対し、今回はややショートストロークの設定だ。ちなみに最高出力/最大トルクとも発生回転数は8500/6500rpmで同じ。それぞれ1PS/1Nmアップしている。
そして見逃せないのが、今回は4バルブの「eSP +」を採用している点。PCX160で好評のエンジンが、ADV160ではどのような走りを見せてくれるのかに注目したい。ちなみに、このモデルからは「Honda セレクタブル トルク コントロール」が標準装備となっている。
スタイリングはADVの名の通り、アドベンチャーを強く意識したものだ。全体的にエッジの効いたカウルで構成され、特にフロントマスクはCRL1100Lアフリカツインを彷彿とさせるもの。もちろん、X-ADVとの共通性も高い。
しかし、前モデルが「ゲイエティーレッド」によって、鮮やかでアグレッシブなカラーだったのに対し、今回は代表色となる「マットダリアレッドメタリック」は、同じレッド系でもトーンを落とし、シックな雰囲気になっている。ちなみにこのカラーは撮影車両のもので、他に「パールスモーキーグレー」と「アットガンパウダーブラックメタリック」の3色展開。どれも落ち着いた雰囲気のカラーで、年配のライダーにも支持されそうだ。
ただし、写真を見ていただくとわかる通り、シルエット自体はかなりスポーティーで、スクーターとしては異色のものである。だからこそ、これくらい抑えたカラーの方がちょうど良いまとまりになるのであろう。
アドベンチャースタイルに欠かせないタイヤは、前モデルと同じサイズで、専用開発されたものを装着。ブロックパターンながらも、アスファルトでの快適性も良さそうだ。
実際にADV160でダートをガンガン走ろうという人はそう多くはいないだろう。しかし、バイクのコンセプトやルックスを考慮すればブロックパターンは外せない。その点、このタイヤは両者をうまく立てたもので、前モデルから好評だった。それが継承されるのは嬉しいポイントである。
他にも工具不要で高さを2段階で変えられるウインドスクリーンやアップタイプのサイレンサーなど、評価の高かった点は残しつつ、シート高を抑えて足付きを改善するなど、より使いやすくしている点も見逃せない。
イメージをしっかり継承しつつ、ウィークポイントを確実に潰していった今回のADV160は、「ADV」のブランドを確固たるものにする1台になりそうだ。
先述の通り、モデルチェンジによってシート高は795mmから780mmへと15mm低くなった。さらにステップフロアも後端が絞りこまれているため、足が下ろしやすくなっている。
ハンドルはやや低めのフラットバーで、幅が広く、オフロードやワインディングでもコントロールしやすそうだ。
いざ、走り出す。156ccのエンジンは街中では一切不足は感じない。もともと125ccクラスのボディなのだから、当然といえば当然である。自由度の高いライディングポジションと相まって、市街地を自在に走り回る感覚は爽快だ。
コンパクトスクーターの魅力は、高速道路も走れること。ただし、100km/h以上を出すことはできるが、さすがにその速度で巡航するのは少し辛い。実用域は80~90km/hといったところ。個人的には走行車線を80km/hでのんびり走り続けるのが心地よかった。ちなみに不快な振動などもほとんどなく、よほど「飛ばしたい!」というのでなければ、高速走行に不足は感じないだろう。
ワインディングでは少し足を後ろに下げ、踵で車体をホールド。幅の広いハンドルを抑えるようにして、モタードライクな乗り方でカーブをクリアしていくと、かなりスポーティーに楽しめる。
高速道路とワインディングでは、新設計のフレームと前後サスの恩恵が大きく、安定した走りを楽しめた。高速道路ではハイスピードでギャップを超えても挙動は安定していたし、ワインディングでの路面追従性の高さは大きな安心材料となる。スクーターはどうしてもモータサイクルに比べて接地感が薄くなりがちだが、ADV160はオフロード走行を見据えたサスセッティングの効果もあってか、不安を感じる場面はほとんどなかった。
さらにちょっとしたダートに入ってみたのだが、先述のとおり、踵でしっかり車体をホールドでき、それぞれ130/110mmのストローク量を誇る前後サスが大きな強みになっている。さらに今回は、「Honda セレクタブル トルク コントロール」を装備し、より高いオフロード性能を実現している。急坂をぐいぐい登れたことには正直、驚いた。
先ほど「実際にADV160でダートをガンガン走ろうという人はそう多くはいないだろう」と書いたが、フラットダートであれば、むしろ積極的に入ってみてほしい……とすら思ったほどである。
高速道路を走れて、ワインディングやダートも楽しめる。コンパクトな車体はどこにでも気負わず入っていける。さらにスクーターならではのイージーライドで、シート下にはトランクも装備! ADV160は、これ一台であらゆる用途に使える「真のオールラウンダー」といえそうだ。
デュアルタイプのヘッドライトにはLEDを採用。切れ長のデザインがスポーティーかつ、アドベンチャーらしさを演出する。大型のウインドスクリーンは工具なしで、2段階で高さに調整できる。
スクリーンサイドの両サイドにあるノブを引っ張ることでロックを解除し、高さを変更できる。スクリーンを上げた時の防風効果は優れているが、スリムなデザインなので、両腕や肩には風が当たりやすい。
スクエア形状のLCDメーターは大きくて、見やすい。タフなイメージはまさしくアドベンチャーそのもので、多彩な情報を一目で視認できるのも高ポイントだ。
グリップとクランプで径が変わるテーパーハンドルを採用。剛性に優れているので、ダートにも気兼ねなく入っていける。また、ハンドル幅が広いので、車体を押さえつけやすく、ワインディングやダートもコントロールしやすい。
ADVのために専用に開発されたブロックパターンタイヤを履く。チューブレスなので旅先でのトラブルの不安も少ない。ABSはフロントのみ作動する1チャンネル。軽量かつ汚れにも強いウェーブディスクを採用している。
給油口はシート前方に装備。燃料タンク容量は8.1Lで、WMTCモード値の燃費は42.5km/L。スペック上の航続距離は300km以上ということで、ADV160が優れたツーリングモデルであることが分かる。
ステップフロアが前後に長く、自由度の高いライディングポジションが取れる。大きめのセンタートンネルによって、ヒールグリップがしやすいのもメリットといえよう。また、フロア後端が絞られているため、足を下ろした時に邪魔にならない。
シート高は前モデルより15mmダウンの780mm。前方が絞り込まれたシート形状も相まって、足つきは良い。また、十分な座面が確保されているため、長距離ライディングも苦にならない。タンデムシートはやや狭く感じるが、このクラスでは標準的である。
シート下トランクの容量は29L。ヘルメットに加え、レインウェアやペットボトルなどもしまっておける。毎日の使用はもちろん、ツーリングでも重宝するディテールだ。
エンジンは新開発されたもので、4バルブヘッドを持つ「eSP +」を採用。前モデルより最高出力、最大トルクともにアップしていて、よりタフな走りを可能にしている。110mmのストローク量を誇るリアサスペンションにも注目だ。
右サイドで存在感をアピールするのがサイレンサーだ。アップタイプかつスクエア形状でアドベンチャースタイルを主張。ADV160のイメージを決定づける一因となっている。
テールランプは内側に「X」の文字が浮かびあがる発光ラインとなっていて、クロスオーバーイメージを演出。LEDウインカーも、ADV160のシャープな印象を高める役割を果たしている。
フロント同様、リアブレーキにもウェーブディスクを採用。十分な制動力を確保するとともに、スポーティーなリア回りを演出している。デザインと操作性に寄与するキャストホイールも見逃せないポイントだ。
ポケットに入れておくだけでイグニッションのON/OFFやハンドルロック操作ができる「Honda SMATR Keyシステム」を採用。駐車場などで自車の位置がわからない時にウインカーを点滅させて位置を知らせる機能もある。
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