掲載日:2021年06月11日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
HONDA FORZA
フォルツァが登場したのは2000年。当初はかつてのビッグスクーターブームの主流だったロー&ロングなスタイルから始まり、熟成を重ねてきた。その路線をガラリと変更したのが2018年5月のフルモデルチェンジだ。それまでのゆったりと腰掛けるクルーザー的なイメージから、ハイ&ショート、つまりホイールベースを短く、シート位置も高くして、ヨーロピアンテイストのスポーツスクーターへと生まれ変わったのだった。それからわずか3年弱で新型が登場。基本的には前モデルの路線を継承したものとなっているが、ではいったいどこが変わったのだろうか。
まず、エンジンは新世代環境対応型スクーター用の「eSP+」となった。これにともない動弁機構は4バルブ化となり、ボア×ストロークがロングストローク化されたほか、クランクまわりの高剛性化やピストンオイルジェットなどを採用した。また、吸排気ポートは完全新設計で効率を高め、マフラーの内部構造を3室から2室にするなどして、スペック上の出力やトルクは前モデルと同じながら、より力強い走りと環境性能を得たとのことだ。さらに低燃費性能向上のため、クランク室内の回転フリクションを低減するスカベンジポンプや、振動・騒音を抑制する油圧式カムチェーンやバランサーシャフトを採用している。
フレームの一部も新設計とし、各部のパイプ径や材質、肉厚と接合部を見直すことで、安定感と快適性を強化。ラジエーターを燃料タンクの前に配置することで冷却効率を高めるとともに、荷重分担をフロント側に少し増加させて、車体挙動をより安心感のあるものにしたという。また、従来から装備している無段階調整可能な電動式可動スクリーンの可動域も40mm伸びて180mmとするなど、車体まわりもリファインされている。
装備面においては、従来同様ABSやHonda セレクタブル トルク コントロール(いわゆるトラコン)、スマートキーシステムを搭載。フロントインナーボックス内にあったアクセサリーソケットはUSBタイプCに変更された。また、急ブレーキの際にハザードランプを高速点滅させるエマージェンシーストップシグナルを採用したほか、純正アクセサリーにスマートキーで開錠できるトップボックスを設定するなど、より安全で便利な方向へと進化している。
車体デザインもキープコンセプトだが、ヘッドライト下のスポイラー形状の変更や、よりスポーティな形となったミラー部のウインカー、車体各所に設けられたエアインテーク&アウトレットの変更など、各部に手が入っている。もともと前モデルから攻めたデザインだったが、今回のモデルチェンジでさらにアグレッシブで洗練された外観となった。
フォルツァのシート高は780mmで、前モデルから変更はない。またがると外観のボリュームから想像していたよりは、足つき性は悪くない。停止からアクセルを全開にすると、グイッと車体は加速し、60km/hに達するまで2秒ちょっとだろうか、あっという間に一般道でのリミットに達する。エンジンがロングストローク化されたためか、前モデルに比べて俊敏さは少し抑えられた感じだが、その分力強さが増した印象だ。
エンジンの吹け上りはとにかくスムーズで振動がない。さらにしなやかなフレームとサスペンション、タイヤのエアボリュームなどの相乗効果か、乗り心地がとてもいいのだ。クラスが違うから当然なのだが、125や150ccクラスに比べて路面からの突き上げが少なく、ラグジュアリーな乗り味で疲労も少ない。渋滞路ではボディの大きさとカウルマウントされたミラーのせいで、機動性は下のクラスに譲るが、郊外からの通勤など距離がある場合には、圧倒的にフォルツァに分があり、ライディングも楽なはずだ。
高速道路で絶大な威力を発揮するのが、電動式の可動スクリーンだ。走りながら無段階に高さを調節できるこの機構は本当に便利で、今回可動域が40mm増えたことでさらに体格や天候など状況に合わせたきめ細かい調節ができるようになった。一度使うと、もう手動で調節するマシンには戻れないと感じるぐらい重宝する。
100km/hでの巡航は余裕で、新東名高速などではもう少しアベレージの高い走行も可能だ。スピードレンジが上がっても不快な振動などはほとんど感じられず、東名高速の足柄付近のような、コーナーの連続する山間部においても、路面のギャップを越えても姿勢が乱れることなく安定して走り続けることができた。走行性能はちょっとしたスポーツバイクにも負けないほど、相当高いレベルでまとめられていると感じた。これならツーリングで長距離を走るのも楽しいし、疲労も少ないだろう。フォルツァはもともと高級感と利便性、そして運動性能を高次元でバランスさせたマシンだ。今回のモデルチェンジでさらに磨きがかかり、魅力を増したのは間違いない。
フロントデザインのテイストは前モデルのイメージを踏襲しているが、よりアグレッシブとなった。全灯火類はLEDで、ウインカーポジションも備える。
2眼式のアナログメーターの中央に液晶パネルが配置されるのも前モデルと同様だ。メーターは平均燃費や後続可能距離など多くの表示が可能。
ハンドル左側にはメーターのインフォメーション表示切り替えや電動スクリーンの操作ボタンなどが所狭しと並ぶ。
ハンドル右側にはハザードのほか、キルスイッチとスターターボタンが配される。
電動式可変スクリーンは可動域が40mm増え、調節範囲が180mmとなった。
ホンダのスクーターではおなじみとなったスマートキーシステム。キーの抜き差しが不要なのは慣れると便利だ。給油口とシートは右のシーソースイッチで開けられる。
フロント左側にあるポケットは500mlペットボトルが余裕で入るほか、USBタイプCのアクセサリー電源を備える。スマホを置けるスペースもあって便利だ。
給油口はセンタートンネル中央にある。カバーはメインスイッチ脇でロックを解除できる。
前後に大きく取られたフットスペースは、さまざまなライディングポジションに対応する。
タンデムステップは滑り止めのローレット加工が施されたスポーティなタイプを採用。
前後とも十分な広さと厚さを持つシートには、ステッチでアクセントがつけられている。グラブバーは左右分割タイプだ。
シート下のラゲッジボックスは48Lの大容量で、フルフェイスが2個入る。荷物の干渉を防ぐなど、さまざまな使い方ができるセパレーターも装備する。
シート下ラゲッジのサイド部には車載工具が積まれている。ヒューズ外しなどもあり、なかなかの充実ぶりだ。
新たに搭載された「eSP+」エンジンは、ロングストローク化によって力強さを増すとともに、フリクションの軽減によって振動や騒音も抑制されている。
フロントのタイヤサイズは120/70-15、銘柄はIRCのSS-560Fを履く。ディスクブレーキ径は256mmだ。
リアタイヤのサイズは140/70-14。ブレーキのディスク径は240mmとなっている。前後ともにABSを装備。
リアのコンビネーションランプはボディと一体感のあるデザインだ。写真はブレーキとハザードを点灯した状態。
テスターは身長170cmで足は短め。フォルツァのシート高は780mmで、両足だとつま先が着く程度。片足なら母指球まで接地するため、それほど不安はない。
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