

掲載日:2014年01月28日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真/山家 健一 動画/倉田昌幸 衣装協力/HYOD
初めてボルトを見たとき、素直に「これはカッコいい」と思った。写真で見ると、ちょっと地味すぎるかな、という印象だったが、実物はシックな色合いや繊細にデザインされたディテールが実にクール。まさに都会を疾駆する鉄の馬というイメージだ。
巷ではハーレーの「スポーツスターに似ている」と揶揄されることも多いようだが、実物を見ると、そんな迷いは吹き飛ぶはず。たしかにパッと見の全体のバランスはそう見えなくもないが、エンジンは同じV型でも挟角も動弁方式も異なるし、タンクやシート形状、マフラーの取り回し方などディテールはまったく違う。車格もスポーツスターよりやや大柄な感じで、よりモダンかつカスタムテイストたっぷりにまとめ上げられたデザインだ。
ライポジも絶妙だ。シート高690mmということで、両足べったりの安心感は格別。腕を伸ばすとハンドルがあり、足を置いたところにステップがある。乗っていて実に自然なライポジなのだ。デザインされたサドル型シートは小ぶりで薄いが、適度なコシ感があって着座したときにぴったりとフィットする。硬そうに見えて意外と快適だ。
動力性能も申し分ない。スペック上では最高出力52psと控えめな印象だが、実際に走り出すと数値以上の力強さに感心する。特にいいのが中速域で、Vツインならではの鼓動感を味わいつつ、通常より1速高めのギヤを使って街を悠々とクルーズするのが楽しい。もちろん、高回転まで引っ張ってもストレスなく吹け上がる緻密さはさすが国産。高速道路では鋭いダッシュでクルマの流れを置き去りにすることさえ可能だ。ちなみにエンジンはバランサーレスでしかもフレームに直接マウントされているタイプということもあり鼓動感はソリッド。いい意味で振動も鮮明に伝わってくる。脈動する硬質で乾いたサウンドが気持ちいい。
ハンドリングは軽快かつ穏やか。コーナリングではフロント19インチらしいゆったりとした倒し込み感がありながらも重ったるさはない。クルーザータイプの場合、とかく低速コーナーでのハンドルの切れ込みが気になるモデルも多いが、ボルトに関しては変なクセがなく、ハンドリングは至極ニュートラルで自然。セルフステアに任せて思ったラインを自然にトレースできるし、それ故ラインの自由度も高い。まさに「ハンドリングのヤマハ」の面目躍如たる仕上がりだ。
シャーシの良さも光る。エンジンを剛体として利用するフレーム設計の確かさもさることながら、サスペンションもクルーザーらしからぬスポーティな味付けが特徴。単にクッションを良くして快適性を高めるわけではなく、減速時にピッチングでフロントに荷重し、加速ではリヤに荷重を移してトラクションさせるといった、姿勢変化を自然に作れるサスペンションのセッティングになっている。つまり、コーナリングを積極的に楽しめるマシンなのだ。素の状態では積載性はほとんど無視されているが、その意味ではライディングを楽しむモデルなのだと思う。
前後同径のシングルディスクが採用されたブレーキだが、フロント側の効きはやや穏やか、逆にリヤ側は強めに効くタイプで、制動力のバランスとしては一般的なクルーザーと同じ感覚だ。ストッピングパワーは必要十分なレベルだが、ただ、スポーツモデルから乗り換えると少々慣れが必要かも。試乗車はABS無しのタイプだったが、250kgの車重と走りの性能を考えると個人的にはABS付きをおすすめしたいと思う。
最後に造形美についても触れずにはおれない。たとえば、メーターとテールランプは同じ丸型のシンプルな造形の中にも、それぞれデジタル液晶ディスプレイとフルLEDが組み組まれるなど、伝統と新しさが混然一体化している。他にも前後のVバンクで管長を揃えたエキパイや前述の前後同径のウェーブディスクなど、“韻を踏んだ”デザインが随所に見受けられるのだ。そんなヤマハ流のレトリックが、違いのわかる大人のライダーの感性をくすぐるのでは。お金をかければ、それはいくらでも豪華に高性能にすることはできるだろうが、この価値を100万円以下で提供してくれることも大いに共感できるところだ。
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