

掲載日:2007年07月18日 試乗インプレ・レビュー
構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
「いかにもハーレーな」ツアラーは
道を選ばず走破できるモデルなのだ
現在、日本で新規登録される大型バイクの約1/4をハーレーが占める。流行もあるのだろうが、一昔前までは年間3,000台程度しか売れていなかったバイクが今や1万台を超える勢いだ。この状況の変化には、ハーレーの進化の歴史も影響しているはず。「ハーレーは壊れる」…そんなイメージが過去のものとなったからこそ、これほどハーレーを選ぶオーナーが増えたのだろう。以前、2007年モデルの中から新しいスタイルのツアラーFLHXを試乗してみたが、今回は伝統のスタイルの「エレクトラグライド クラシック(以下、エレクトラグライド)」の試乗を行った。いかにもハーレー然とした、どっしりとしたスタイルを持ち、バイクに興味がない人が見ても「これはハーレー?」と気づくモデルだ。私は1997年式のハーレーXL1200Cを所有し、どちらかというと小さいハーレーの方が好み。しかし、最新式のハーレーを語るには、400kg近い重量を誇るエレクトラグライドに乗ってみないことには始まらない。そう思っての車両チョイスとなった。スタイル的には大きな変化がないように思えるエレクトラグライドだが実際に乗ってみて、なぜあのスタイルに進化してきたのか、その一端を垣間見えることができた。
やっこカウルで疲れ知らず
使い切れないほどの積載性
エレクトラグライドの特徴というと、フロントフェアリング。通称“やっこカウル”と呼ばれる大型のカウルだ。大型のスクリーンが風を遮り、乗り手が風圧を感じることはほとんどないというスグレモノ。日本車やBMWのような風洞実験で計算しつくされたフロントカウルは“風を受け流す”ために“R”が美しいデザインに設計されているが、ハーレーのフロントカウルはもっと堂々としたモノ。風を“受け流す”のではなく“遮る”男らしい造りをしている。他メーカーがウインドスクリーンと呼ぶものを“ウインドシールド”と、“盾”に例えて表現するところにハーレーらしさが感じられる。風だけではなく高速で車両に当たってくる虫を防ぐため、直立に近い造りになっているのだとか。乗り手を何者からも守り抜く、威風堂々としたフロントマスクだ。
リア周りで目を引くのはバイクとは思えない荷物の積載量を誇る、大型のツアーパックと左右のハードサドルバッグ。タンデムで旅行に行くとしても2人分の荷物を楽々収納できるほど、余裕のあるラゲッジスペースが用意されている。旅の荷物をゴム紐で括りつけ、走行中に落ちないか気にしながら走る旅は無縁のバイクだ。どっしりと腰をかけられる幅広の分厚いシートなど、旅するバイクとしては何一つ不満がない装備を持つ。フロントパネルには各種メーター類も完備され、その上にAM/FM、CDなどが楽しめるオーディオ機能も搭載。疲れないだけではなく、乗り手を楽しませる装備も充実している。ハーレーのツーリングファミリーが“King Of Motorcycle”、“King Of Highway”と呼ばれるのも納得がいく豪華装備のバイクだ。
前後16インチの小口径ホイール
前後16インチホイールを採用し、想像以上にスポーツ性の高い走りを見せるエレクトラグライド。小口径ながら重い重量を支えるタイヤ幅は太く、スポーツ性と直進安定性の双方に優れている。
ツインカム96 1584ccエンジン
トルクフルな走りが強化された新型エンジン。旧エンジンと比べ、全回転域がバランスよく強化され、マイルドで非常に乗りやすい。ラバーマウントのブルブルと震えるエンジンは見た目にも迫力がある。
伝統のフロントフェアリング
いかにもハーレーらしい伝統の“やっこカウル”。高速走行時の風圧やライトに向かってくる虫もシールドで遮ってくれる。長時間の高速走行でも疲れを感じないのは、このカウルのおかげ。
新設計6速トランスミッション
より快適な高速走行を実現する6速ミッションを採用。6速120kmで巡航しても2500回転程度とせわしなさは感じられない。ヘリカルギアを採用したため静粛性が向上し、落ち着いた高速クルージングが実現。
大柄な巨体と侮るなかれ
コーナーもダートも走破できる
「ツナギを着てスポーツライディングを楽しむ」。
普段は軽い(と言っても250kgほど)スポーツスターに慣れ親しんでいるせいで、はじめはエレクトラグライドの重さに少々戸惑った。停車しての取り回しは、お世辞にも軽いとは言えない。非力なライダーだと車両を引き起こすのにも苦労してしまうだろう。「誰にでも乗れますよ」とはなかなか言えないモデルだ。しかし、重量級の車両で大変なのは停車時の取り回しだけの話。走り出してしまえば重さを感じさせることはない。それはエレクトラグライドも同様。渋滞に巻き込まれると車両の重さに少々疲れてしまうが、そこそこのスピードで巡航してしまえば400kg近い車両重量を感じることはなくなる。エレクトラグライドにはオートクルーズ機能がついていないため、スロットルから手を離すことはできないが、手放しでもまっすぐ走ってしまうほど直進安定性は素晴らしいのだ。これほど長距離を快適に走ることのできるバイクは数えるほどしか思いつかない。HondaゴールドウイングかBMWと、比較できるバイクはほんの一握り。それも「長距離を快適に」がテーマの場合に限る。「長距離を快適に」に「楽しく」というテーマを加えると、もはやハーレーの独壇場。Vツインエンジンの心地良い鼓動を楽しみながら、飽きることなく疲れることなく何時間でも走れてしまうエレクトラグライドは特別なバイクと言える。
重く巨大なモデルのため、エレクトラグライドにスポーツ性を期待する人は少ないかもしれない。しかし、実は非常にスポーツ性も高いモデルなのだ。前後16インチの小口径タイヤのおかげか、コツさえ掴めばコーナーも恐るるに足らず。ストレートだけではなく、ちょっとした峠道も余裕を持って走りを楽しむことができる。重量級の車両を支えるサスペンションにエアサスペンションを採用し、少々の路面のギャップなら衝撃をうまく吸収してくれ、悪路の走破性は非常に高い。試乗中、エレクトラグライドで軽いダートを走行する機会が何度かあったが、少々の荒地なら問題なく走行可能。そこそこのスピードで走ってやれば直進安定性の良さが悪路に勝るのだ。このバイク、見た目だけじゃない。「やっこカウルのハーレー=おじさんバイク」と思っていた私だったが、今回の試乗で印象は一変。巨大なサイズをのぞくと、非常に使い勝手のいいバイクなのかもしれない。
1点気になったのは、低速走行時のエンジンからの熱気。停車してのアイドリング時にエギゾーストパイプから昇ってくる熱気はかなりのモノだ。真夏の、渋滞の多い日本の道でアレを何度も味わうのはかなり辛そう。STOP&GOの少ない、車が流れる道ならば熱気が気になることはないため、街中で乗るのではなく都心を離れて走り回れば熱気を気にせず楽しめるだろうけれど。
タンデムでロングツーリング
そんな使い方にベストマッチ
街乗りや近所を気軽に走りたい、という人にはもっとコンパクトなバイクの方がオススメ。ハーレーのラインナップは20種類以上あり、ストリートユースに向いたバイクは他にいくらでもある。思いのほかスポーツ性は高いとは言え、大柄な巨体、渋滞時のエンジンからの熱気を考えると街乗りでは少々辛いかもしれない。ロングツーリングに向いたフェアリングや収納を考えれば、これはやはり旅するバイク。お気に入りの音楽をかけ、気の向くままどこまでも走り続ける。そんな余裕のあるロングツーリングを楽しみたい人にオススメのモデルだ。エレクトラグライドのシートは誰が乗っても不満を漏らすものではないため、恋人や奥さんを乗せ休みの日にはタンデムで走り回る、そんな楽しみ方も悪くない。
快適なのは当たり前
走ることが楽しいバイク
「キングオブモーターサイクル」ハーレーがそう例えられるのは車両の大きさからではない。あらゆる点で王の名に相応しい走りを楽しませてくれる。低速走行のみ持て余し気味になるが、それ以外の点ではこれまで試乗してきたバイクの中では間違いなくトップクラスの余裕を持つ。シート、風防、ポジション、積載性、オーディオなどの装備…快適性に不満がまったく見つからない。その上、大排気量のVツインならではの魅力に溢れたエンジンを持つのがエレクトラグライド。ヨーロッパ生まれ、日本生まれのツーリングバイクとは決定的な違いを持つ。「快適に走るだけじゃ、楽しくないでしょ?」アメリカ人の遊び心が感じられる、走ることが楽しくなるバイクだ。
価格(消費税込み) = 247万2,000円
従来から変わらない伝統のスタイルを持つ、ハーレーのフラッグシップモデル。2007年モデルより排気量が上がり、6速ミッションを採用。快適な高速クルージングが楽しめる数少ないバイク。
■エンジン = 空冷OHV 45°Vツイン TWINCAM96エンジン 1,584cc
■最大トルク = 113Nm/2,750rpm
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!