掲載日:2021年04月14日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/中村 友彦 写真/伊井 覚
HONDA NC750X DCT
昨今ではミドルクラスのスタンダードという認識が一般的になっているけれど、NC:ニューミッドコンセプトの第1号車として、2012年から発売が始まったNC700Xは、当初は超が付くほど画期的なモデルだった。まず通常のガソリンタンク位置に大容量収納スペースを設けたことが画期的だったし、高回転高出力指向にあえて背を向けた結果として、充実した低中速トルクを獲得すると同時に、リッター30km/L前後の実用燃費を実現したことも画期的。もちろん、ギアチェンジが不要となるDCT仕様を設定したことや、MT:70万円以下、DCT:約75万円という価格も(2021年型より20~25万円ほど安い!)、デビュー当初は相当に画期的だった。
そんなNC-Xは、2014型で排気量を669→745ccに拡大し、振動緩和用バランサーを1→2軸式に変更。2016年型では外装や足まわりを中心とする大幅刷新が行われた。なおシート高に関しては、2017年までは830mmと800mmの2種を設定していたものの、トラクションコントロールを導入した2018年以降は800mmに一本化。フルモデルチェンジを受けた2021年型でも、その数値は維持されている。
パッと見で感じる先代との相違点は、レイヤードタイプのカウルを採用することで、軽快かつシャープになった外観くらいかもしれない。とはいえ2021年型NC750Xは、大改革と言うべき仕様変更が行われているのだ。
パワーユニットに関しては、77×80mmのボア×ストロークや10.7:1の圧縮比などに変更はないけれど、軽量ピストンの採用や吸排気系などの刷新によって、最高出力が54ps/6250rpm→58ps/6750rpmに向上。従来はMTとDCTで異なっていた6段ミッションのギア比は統一され、1/2次減速比と合わせて考えると、MTは2~4速、DCTは1~4速のローギアード化が図られている。
電装系で最も注目するべき要素は、スロットルの電子制御化と3+1段階のライディングモードの導入だろう。ただし、トラクションコントロールのレベルを2→3段階に増やしたり、エンジンブレーキの利きが3段階から選択できるようになったり、DCTのシフトスケジュールを刷新したりと、実際の改良点は多岐に及んでいる。なお新機能の採用に伴い、LCDメーターとスイッチボックスも一新されることとなった。
車体に関する主な変更点は、剛性バランスの見直しが行われた新作フレームの採用や、前後サスセッティングの最適化だが、車両をトータルで見た際の最大のトピックは7kgの軽量化(先代と比較すると、フレームは-約1.6kg、エンジンは-約1.4kgという数値を実現)。近年のミドルでは重い部類のモデルだっただけに、MT:221→214kg、DCT:231→224kgとなった装備重量は、多くのライダーにとって歓迎するべき要素になるはずだ。
日常の足に気軽に使えるフレンドリーさと、心がホッコリする穏やかで優しいライディングフィールは相変わらず。この特性なら先代以前からの乗り換えでも、違和感を覚えることはないだろう。とはいえしばらく走るうちに、僕はホンダが2021年型NC750Xで行った改革に、かなりの驚きを感じることになった。
最初に感心したのは車体だ。ホイールベースやキャスター角といった車体寸法は先代以前と大差ないのに、2021年型はコーナーでよく曲がる。いや、その表現はちょっと稚拙な気がするし、先代以前が曲がらなかったわけではないのだが、2021年型は旋回初期の段階で、マシンの曲がろうとする意志が乗り手に明確に伝わって来る(もちろん切れ込みではない)。おそらくこの感触の主な原因は、剛性バランスを見直したフレームだ。先代以前と比べると、2021年型はフレーム前半部が絶妙な塩梅でしなっている印象で、そのしなりがマシンの曲がろうとする意志につながっている……ような気がする。
そして車体と歩調を合わせるかのように、パワーユニットは元気がよくなった。あら、またしても稚拙な表現を使ってしまったが、2021年型は右手の操作に対する反応が明らかに良好になっていて、微妙な待ちの時間が存在した先代以前と比較すると、欲しいときに欲しい力が引き出しやすい。もっともこの変化については、車体のように主な原因を挙げることは難しく、多種多様な要素の相乗効果のようである。いずれにしても2021年型は、先代と同様のキャラクターを維持しながらも、先代より格段に、操る楽しさが感じやすくなっているのだ。
ちなみに、そういった素性を認識した時点で、僕の頭にふと浮かんだのは2021年型CRF250Lだった。すでに当サイトを含めた多くのメディアが報じているように、新しいCRF250Lは従来型とは完全な別物で、オンでもオフでも、スポーツライディングがムチャクチャ楽しくなっている。NC750Xの場合はそこまでの激変ではないけれど、しなやかでコーナリングが楽しい車体と、従順で元気がいいパワーユニットは、両車に共通する要素。決して上から目線で言うつもりはないのだが、おそらく今のホンダには、すでに市場で定評を得たモデルを進化させるにあたって、何をどうすればどんな特性が得られるかという勘所を、しっかり把握している技術者がいるのだろう。