【ホンダ CBR650R試乗記事】FからRに進化した、CBRシリーズの中軸

掲載日:2019年06月21日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦  写真/伊勢 悟

【ホンダ CBR650R試乗記事】 FからRに進化した、CBRシリーズの中軸の画像

HONDA CBR650R

ストリートで真価を発揮する
フルカウル並列4気筒スポーツ

2014年の発売以来、世界中で好セールスを記録してきたCBR650Fは、近年のミドルクラスでは貴重な存在となる、フルカウルの並列4気筒スポーツツアラーだった。とはいえ、その後継機種として今年度から発売が始まったCBR650Rは、方向性をガラリと変更。CBR1000RR/CBR250RRに通じるアグレッシブなルックスと、スポーティな乗り味を獲得している。もっとも、現行CBRシリーズの中軸を支えるこのモデルは、兄貴分や弟分のように、サーキットでの速さを重視しているわけではない。先代のFと比較すれば、運動性に磨きをかけているのは事実だが、CBR650Rのメインステージはあくまでもストリート。言ってみれば新世代のミドルCBRは、FとRRの中間的な特性を備えているのだ。

ホンダ CBR650R 特徴

先代の基本設計を踏襲しながら
数多くの部品を新規開発

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基本設計は2014~2018年に販売されたCBR650Fから継承しているが、車名の末尾をF→Rに改めた新世代のミドルCBRは、数多くのパーツを設計変更。ひと目でわかる先代Fとの相違点は、小型軽量化への配慮が伺えるフェアリング+シートカウルだが、剛性バランスが見直されたスチール製ダイヤモンドフレーム、φ41mm倒立フォーク、ラジアルマウント式フロントキャリパー、Y字5本スポークの前後ホイールなども、’19年型CBR650R/CB650R用の新規開発品だ。

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なお水冷並列4気筒エンジンは、カムシャフトやピストン、吸排気系などを刷新することで、中高回転域の吹け上がりを改善すると同時に、最高出力を90→95psに高めている。

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CBR650Rの乗車姿勢は、スポーツライディングの楽しさを念頭に置いて設計されている。快適性や安心感を重視していた先代のCBR650Fを基準にすると、810mmのシート高はそのままに、ハンドルグリップ位置が低くなり、ステップバーは後方かつ上方に移動。

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とはいえ、サーキットランを重視するCBR1000RR/CBR250RRと比較すれば、上半身の前傾度は控えめで、ヒザの曲がりは緩やか。キャスター25度30分、トレール101mm、ホイールベース1450mmという車体寸法は先代Fと同様だが、装備重量は213→207kgになった。

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疲労軽減とエンブレ緩和に役立つアシスト&スリッパークラッチや、リアタイヤの滑りを制御するセレクタブルコントロール=トラクションコントロールなど、新世代のミドルCBRは、快適性と安全性に配慮した装備を導入。4輪で培った技術を転用した機構として、急ブレーキ時にハザードランプが自動的に高速点滅する、エマージェンシーストップシグナルも採用している。

ホンダ CBR650R 試乗インプレッション

運動性能を格段に高めながらも
オールラウンダーとしての資質は健在

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ライディングポジションでこんなにバイクの印象は変わるのか……。それがCBR650Rを走らせた、僕の第一印象だった。常用域でツラさを感じるレベルではないけれど、上半身が適度に前傾し、ヒザの曲がりがややタイトになったRは、先代Fと比べると明らかにスポーティ。陸上選手のスタート姿勢に例えるなら、先代Fはマラソン、新世代のRは100m走という印象なのである。

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そしてその違いが乗車感に何をもたらすのかと言うと、新世代のRは、加減速と体重移動を積極的に行いたくなるのだ。もちろん僕がそう感じた背景には、スロットル操作に対する反応がシャープになったエンジンや、かけ心地のいいフロントブレーキ、しなやかや反応を見せるシャシーなどがあるのだが、先代Fのようにゆったりしたライディングポジションだったら、積極的という言葉は頭に浮かばなかっただろう。

最高出力が90ps/11000rpm→95ps/12000rpm、最大トルクが64Nm/8000rpm→64Nm/8500rpmに上がったことからわかるように、Rのパワーユニットは高回転高出力指向で、スロットルをワイドオープンすれば、先代Fとは比較にならない、爽快感と高揚感が満喫できる。などという表現では、先代Fのオーナーが気を悪くするかしれないが、メーカーチューニングが行われたRのパワーユニットは、“これぞホンダ製並列4気筒!”と言いたくなるほど、シャープな吹け上がりを堪能させてくれる。

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ただし誤解なきように記しておくと、高回転域での魅力が増したと言っても、Rの低中回転域に扱いにくさは皆無だった。と言うより、感触としては先代Fとほとんど同等で、低中回転域では高回転域とは表情が異なる、ちょっとワイルドな吹け上がりが楽しめるのだ。

フロントまわりの剛性が格段に上がったことや、体重移動に対する反応が機敏になったこと、後輪から伝わるトラクションが明確になったことなど、Rのシャシーにはさまざまな美点が備わっているけれど、今回の試乗で僕が最も感心したのは、環境適応能力の高さだった。

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例えば先代Fは、見通しのいい峠道やサーキットでは物足りない印象を抱きがちだったし、逆に数年前までホンダ製ミドルの主役を務めていたCBR600RRは、日常域で素っ気なさや難しさを感じることがあった。でもCBR650Rはどんな場面に遭遇しても、それはそれでという感覚で、状況に応じたスポーツライディングが楽しめるのだ。おそらくこのモデルの開発陣は、世の中に存在するありとあらゆる状況を想定して、ハンドリングの煮詰めを行ったのだろう。

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実は当初の僕はCB650Rに対して、スポーツ性重視の大幅刷新を受けたと言っても、レースでの勝利を前提にして開発されたCBR600RRには及ばないだろうから、先代Fと同様のスポーツツアラー路線でよかったのでは? と感じていた。でも今回の試乗では、RとRRの狙いがまったく異なることを改めて認識。ちなみにRとRRが競争したら、サーキットではRRが圧勝するはずだが、見通しが悪くて荒れた路面の3ケタ国道や県道、舗装林道などが舞台なら、Rのほうが楽に、速く走れるはずだ。

ホンダ CBR650R 詳細写真

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先代Fが異形1灯式だったのに対して、CBR650RはCBR1000RR/250RRに通じるデザインの2灯式ヘッドライトを採用。灯火類はすべてLED式。シングル→ツインに変更されたラムエアダクトは、高速域でのパワーアップに大いに貢献。

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セパレートハンドルはクランプ位置をトップブリッジ上→下に変更。形状を一新した燃料タンクは、容量を16→17Lに拡大。グリップラバーはカスタム界でも絶大な人気を誇る、通称ロッシグリップ。トラコンのオン/オフスイッチは左側に設置。

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ギアポジションや瞬間/平均燃費などが表示できる多機能LCDメーターは、シフトアップインジケーターを装備している。先代に対して、約21mmの薄型化と93gの軽量化を実現したこのメーターは、’19年型CB650RやCBR400Rも採用。

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カムシャフトやピストン、吸排気系などの見直しが行われた並列4気筒エンジンは、先代F+5psとなる95psの最高出力を獲得。マフラーは先代Fと同様のショートタイプだが、心地いい排気音を実現するため、テールパイプの角度と径を変更。

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構造を刷新したエアクリーナーボックスは、エレメントの角度を先代Fより20度立てることで、スムーズな吸気の流れを実現。構造の適正化により、エレメントをガードするパンチングメタルは廃止。その結果として、開口面積は1.7倍になった。

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スチール製ダイヤモンドフレームの基本構成に変更はないものの、エンジン後方上部のマウントプレートは、ボルト留めの別部品→溶接による一体式となった。スイングアームピボット部は、鍛造プレート→プレス素材のボックス構造に変更。

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オーソドックスなダブル仕様だった先代Fとは異なり、Rのシートは分割式。ただし前後の段差の少なさからは、タンデムツーリングの快適性に対する配慮が伺える。タンデムシート下の収納スペースはごくわずかだが、ETCユニットは収納可能。

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左右ステップも先代Fとは異なる構造。プレートの取り付け位置がやや後方&上方に移動しただけではなく、バーがラバーなしのスポーティなデザインになっている。スイングアームピボット下部に見える黒い物体は、マフラーの消音用チャンバー。

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先代Fのフロントフォーク/ブレーキキャリパーがφ41mm正立式/片押し式2ピストンだったのに対して、Rはφ41mm倒立式/ラジアルマウント式4ピストンを採用。前後ブレーキディスクはペータルタイプから、一般的な円型に変更された。

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新規導入されたY字型5本スポークの前後ホイールは、兄貴分のCBR1000RRに通じるデザイン。サイズは放射状12本スポークホイールだった先代Fと同じ、F:3.50×17/R:5.50×17。試乗車が装着していたタイヤはダンロップD214。

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リンクレスタイプのリアショックユニットは、スイングアームとの締結部にピロボールを採用することで、先代Fよりスムーズな作動を実現している。タンデムステップブラケットは、取り付けボルトを横留め式→ラジアルマウント式に刷新。

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