ヤマハ SDR(1987)

掲載日:2016年07月01日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

YAMAHA SDR(1987)
レーサーレプリカ全盛期に、新たなテイスト系超軽量スポーツとして登場したSDR。強いこだわりが生み出したピュアスポーツだった。

こだわりのテイスティ車

1987年6月。東京・恵比寿で行われたヤマハSDRの新車発表会で思わず耳を疑った。「TZR250よりも速い!」という言葉に、だ。レーサーレプリカ全盛期の1980年代後期を象徴するマシン、TZRに負けないとは?どんな性能なのか?となったが、それは0→400mや最高速ではなく、0→50mの発進加速で、だった。125ccクラス並みのコンパクトな車体と、見るからにスリムで軽量なこと。これに200ccの新設計2ストシングルエンジンなら、ダッシュは速そうだ。

作家の松山猛さんがMCを担当。「SDRは友達感覚で心豊かに長く付き合えるもの」と定義を述べ、商品企画担当者へマイクを振る。

「市場動向に囚われ過ぎず、マニアックになっても良いから、もっと気軽にバイクの新しいテイストを求めた継続性の高いものを!という狙いで開発がスタートした」と。後のセル付きSRXも担当したPL=プロジェクトリーダーが続いた。

「原点復帰を求めて、初心者よりも何年か乗り継いできた人が対象。高回転でのパワーよりも、軽く、瞬発力を優先して2スト単気筒を選択した、まさにワインディングスペシャル。それがSDR」という。

開発の現場では、徹底して無駄を省くことを意識。デザインを担当したGKデザインには独創のフォルムだけではなく、国産量産車として初のトラス構造のめっきフレーム、また艶やかな特殊処理を施したタンクなど、ディテールのひとつひとつをアピールしながらまったく新しい価値観を創造すると同時に、継続性のある=飽きないスタイルを依頼。

走行実験担当者は「最近のバイクは乗せられている感じが強い。そこでSDRには心と身体がひとつになるような走行性を求めた」と熱く語った。そのためにシートはライダー用のみ。運転を純粋に楽しむという視点にフォーカスしていた。

後日行われた試乗会は、軽井沢から浅間山へ続くワインディング。あいにくの土砂降りで、しかも手がかじかむほど寒い中で走ったSDRだったが、深く感心した。跨がった瞬間の軽さにまず驚かされたが、勾配のあるタイトコーナーでも、速度もラインも自由自在。視界さえままならない道、場所によっては小川のように雨が溢れている路面をよそに、熱い気持ちのまま、持ち時間いっぱいまで走ってしまった。

ひとり乗り専用のサス設定に、水を良く切る細いタイヤ。見通しの悪いタイトコーナーで活きる低~中速回転域でのレスポンスと十分なパワー。何よりも軽量でコンパクトであることが、楽しく走れた理由だ。シングルシートにするということは、リア強度などを軽減できて重量軽減になり、マスの集中につながる。

しかも、トラス構造フレーム特有のしなやかな乗り味が美味。高剛性ガチガチのツインチューブフレームの時代が押し寄せた中にあって、理屈ではなく実感として味わえた。まさにテイスト系の妙だった。

かくしてSDRは世に出たものの、レプリカ全盛期の中でも2ストシングルのネイキッドとしてはヒットせず、一代で終了。末長く生産されるという夢は続かなかった。

ひとり乗りであること。荷物が積みにくいこと。長身のライダーには車体が小さ過ぎたか。総じて、短時間を集中して走るという乗り方に押し込められた印象もなきにしもあらず。ファーストバイクが別にあって、SDRをセカンドとして持って遊べる人には合っていただろう。2ストオフ車なら同様に遊べて荷物も載せられたから、そこに狙いや使い方の違いがあったかもしれない。

新設計195ccエンジンは当時のワークスロードレーサーがこぞって採用したケースリードバルブ式。SDRは実験現場に並んでいたTZ125とほぼ同じ車格とディメンションだったと当時の商品企画者が回想したのだが、スタンスは「街を駆け抜けるTZ200」だったか。後のVMAXやMT-01を始め、ヤマハ流美意識で創りたいものを創る、という社風から生まれた軽量スポーツ、それがSDRだった。今の世の中なら、より受け入れられたコンセプトだったのではないだろうか。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

溶接箇所の多いスチールトラスフレームは独自のテイストをアピールしながら、外郭を辿れば分かるようにアルミデルタボックスに劣らぬ剛性を確保。しかもしなやかな乗り味も同時に得る狙い。仕上げは錫とコバルトの合金めっきにクリア塗装というもの

新しいビンテージ、未来の人たちへのプレゼント、として作り込んだと発表会でのコメント。小さな宝石として今なお熱烈なファンが多い

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