スズキ NZ250/S(1986)

掲載日:2016年03月04日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

SUZUKI NZ250/S(1986)
シングルスポーツ人気の中で登場したNZ250/Sは、油冷エンジンなどライバルと異なるスズキ独自の機軸で意外な速さを見せつけた。

油冷が生んだ軽量俊足車

1983年をピークとした空前のバイクブーム。その後も余韻は続き、ニューモデルは続々と投入されていく。スクーターを除くほとんどのカテゴリーで、国内4メーカーのモデルが、場合によっては1メーカーで複数、選べるような状態でもあった。

今回紹介するスズキNZ250とハーフカウル付きのNZ250Sは4ストロークのシングルスポーツ。スリム、軽量、コンパクトという特徴があり、当初はそれを生かした小粋なライトウェイトスポーツ。バイクブーム以後はその特徴を女性やビギナーが安心して乗れるという方向でも意識させた。シンプルなことで、レプリカ系よりも入手しやすい手ごろな価格も魅力のひとつだった。

スズキとしてはクラス初の4気筒スポーツGF250/S、人気の2ストレプリカ、RG250Γ/ウォルターウルフに続く、自社250ccクラスの拡充のための投入だったが、他機種とは市場は異なっていた。

1986年2月のNZ250/S登場時の単気筒スポーツには、ホンダにはライトウェイトスポーツのCB250RS/RS-Z、DOHSエンジンのCBX250RS、トラディショナルスタイルのGB250クラブマンがあった。ヤマハは1984年にDOHC+モノサス、F16インチののSRX250とハーフカウル版のF。カワサキもZシリーズの流れを汲む1982年のZ250FSに、1985年には水冷DOHCで34psと高出力の250CSを加えていた。そんな強豪ひしめく中に、最後発として満を持して投入されただけに、NZには先行ライバル群にない内容が求められたのだろう。

エンジンは前年1985年に市販されたGSX-R750に採用したスズキ独自の油冷システムを採用。車体面ではリンク式の初期で柔らかく、後期で踏ん張る特性を強化したEフルフローター式リアサスペンション。フレームは他の多くがクレードルタイプとしていた中で、エンジン本体をフレームの強度メンバーとするダイヤモンド式を採用。これでよりスリム化を可能にし、左右のステップ間隔は240mmとクラス最小を誇り、51度という深いバンク角も確保した。

ホイールサイズも、他と異なる前後17インチ径。CBXやGBは前後18、SRXとCSはF16/R18だったが、今のような前後17としたのは、シングルではNZが初。ただリンクサスにキャストではなくアルミリム+ワイヤスポークホイールという組み合わせは、独特だった。

エンジンは1982年のオフロード車DR250Sがベースだったが、燃焼室はスズキ独自の2渦流燃焼室TSCCを採用して燃焼速度の向上を狙う。合わせてDOHCの直打式4バルブ化して高回転でのバルブ追従性も確保。専用潤滑システムなど大幅な変更を加えて油冷化したから、専用と言っていいほど変わった。

新開発となったNSAキャブレターは負圧式キャブならではの弱点となるレスポンスを克服することが狙い。負圧でスロットルバルブを引き上げるサクションチャンバーの入り口にチェックバルブを設けて正圧がチャンバーに入らないようにしてスロットルバルブの動きを正確化し、ダイレクトなレスポンスを獲得。

エキゾーストは2into1のボルテックスタイプを装着。ふたつのポートから出た2本の排気管の合流部に大容量のパワーチャンバーを設けて、ここで発生する渦流で排気の吸い出し効果を高めた。

数値的には250CSにわずか1馬力及ばないながらも33psを発揮。DRから1速増えた6速リターンミッションで、乾燥重量118kgとクラス最軽量でまとめられた車体を最高速150km/hまで引っ張った。これは250CSと同様に、4スト250cc単気筒車としてはクラストップの速度データだった。当時でも既に最高速度のカタログ表示はなくなっていたが、雑誌向け用などのデータとしては公表されていた。

抜群に軽い上に、ヒラヒラというよりもしっとり軽い操縦性と、フラットなトルク特性によって、走りは特筆ものと言える高い次元にまとまっていた。ただ、速さのイメージは既にレプリカ系のものとなっていて、他カテゴリーはテイストの時代に変わっていた。それがNZが一代限りで終わった理由かもしれない。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

当時の中心、中型免許で乗れるバイクとして400cc同様に250ccクラスも各社が肝煎りで開発した。4スト単気筒スポーツ最後発となったNZ250/Sの力の入れ具合が上のカタログの内容でも分かると思う。油冷で高出力/軽量を狙い、ダイヤモンドフレームとリンクサスでスリムさと軽快感。各部も新設計、ハースカウル装備でも2kg増で抑える…。スズキらしい力作だったが、市場では受けなかった

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