ヤマハ SRX600 / 400(1985)

掲載日:2015年04月03日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

YAMAHA SRX600 / 400(1985)
新型車ラッシュで大きく輝いた1985年のヤマハが放った意欲作。
それがSRXだった。ヤマハらしい新機軸の可能性をそこに見た!

新世代シングルのカタチ

1980年代のニューモデルラッシュはこの連載のテーマでもあるが、カラーチェンジだけでない、いわゆる新型が多かった時代でもある。新カテゴリーや新機軸、新発想…。そういうものがどこかに感じられる新型。今回取り上げるヤマハSRXは、単気筒エンジンを元に独自の新しい存在感を作り出していた。

SRXには398ccのSRX-4と608ccのSRX-6があって、サイドカバーにもそのように記されるが、カタログにも載る正式名はSRX400と600となっている。

カタログ車名の横に書かれたように“ポテンシャルシングル”とアピールするSRXのデビューはインパクトだらけだった。専門誌向け発表試乗会は通常、試乗会場への現地集合だが、SRXの時は違った。静岡県磐田市のヤマハ本社に集まり、そこから専用バスで同社袋井テストコースへ向かう。道中バスから外を見ていると、見たことがないバイクが何台か、現れては消えていく。ざわめく車内の取材陣に対して広報マンは無言を貫くが、その見たことのないバイクこそ、SRXだった。「何だ、あれは?」。それが今も強く記憶に残るが、それだけではなかった。

開発責任者(プロジェクトリーダー=PL)の解説がまた面白かった。当時単気筒ではセルフスターターがないことがほとんど。セル付きで誰でも気軽に乗れる4気筒なんて、という牽制も込めた開発キーワードは「くたばれ! お気楽、パコーン」だった。SRXはセルフスターターを持たず、キックでエンジンを始動しなければならない。しかも低回転から粘る4気筒ほど発進はお気楽ではないし、馬力だって250ccのレーサーレプリカよりも少ない。高回転でパワフルかと言うと、そうでもない。かと言って同じ単気筒のSR400/500のような、ピストンの上下動によるパルス感が強いわけでもない。それでも確かな信念があるという表情と口調で、走る楽しさ&操る楽しさを実感させる「ポテンシャルシングル」を強調していた。

この試乗会は、超高回転型250ccスポーツの先駆けとなったFZ250フェーザーと一緒に同日・同所で行われた。先述の“お気楽な4気筒”のFZでは来日したケニー・ロバーツが素晴らしい走りを披露。対するSRXは、直線もコーナリングでも速度は遅く思えたのだが、光っていた。一般的な速度で走る取材陣の、S字切り返しでのSRXは実に楽しそうだったのだ。

実際に乗ってみると、SRXは言う通り、単気筒スポーツの新たな可能性を見事に感じさせてくれたのだ。伝統的なティアドロップデザインのタンクと単気筒特有のトコトコ感でカーブへゆったり入っていくSRとは異なり、SRXは目線を向けた方へ人車一体でスイッと走っていく。車体とライダーに距離感がない一体感。刺激的な馬力ではなく、まさにバイクとひとつになる。この気持ち良さからくるスポーツ性こそ、新しい単気筒スポーツの真髄ではないか。それが具現化していた。

エンジンはかつてXT500からSR500&400が生まれたように、XT600のエンジンを元にした。YDISという強制開閉&負圧サーボを組み合わせたデュアルキャブで扱いやすさと充実のトルクを両立。フレームは角型鋼管を使ったクレードルタイプ。スタイルも新しかった。スリムで都会的なデザインとは、SRXのためにあったようだった。速度計を車体中央に置いた上で小径のエンジン回転計をオフセット配置してシンプル感にアシンメトリー感を加える。燃料タンク下部の接合部=フランジを外から見えないように処理する。30年後の今を先取りしたかのようなスーパーショートマフラーは、確かに新しさの象徴だった。このように繊細な配慮を各所に施して、デザイン性を高めたのだ。

そしてSRXはデビュー直後から好調なセールスを記録。バイクには縁がなさそうなファッション系にも注目され、今までにない、新たなファン層も作り出した1台となった。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

 

空冷SOHC4バルブ単気筒エンジンにはYDIS=低中速回転域で1個、高回転域で2個目が作動するデュアルキャブをセット。600ではオイルクーラーも装備。フレームはルックスを重視した角断面。600では前輪Wディスクとリヤショックにリザーバータンクをセット(2型では400にも)。初期型は2本サスでセルなし、前後18インチ仕様。後にセル装備、モノサス化、前後17インチ化など現代化も果たしていく

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