ホンダ FT400/500(1982)

掲載日:2014年02月07日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

HONDA FT400/500(1982)

日本では見られない、まさにフラットな塩湖でのロケ。ライダーはBELLのモト3ヘルメットに銀のワンピース。斬新さを強調したカタログ

バイクブーム全盛期でニューモデルラッシュが続く中、
ひときわ個性的なスタイルで登場したのがFT400/500。実に美味なる乗り味だった。

実は美味しい単気筒車

1982年6月にホンダからFT400/500が発売された。この頃はバイクメーカーの熾烈な販売競争の真っ最中。50ccの軽量スクーターからオフロード車も含めて上はナナハン・ロードスポーツまで、新型モデルが矢継ぎ早に登場して、雨後の筍のようにバイク雑誌が創刊され、記者たちは関東だけではなく浜松や神戸の本社あるいは鈴鹿サーキットやテストコースのとある場所へ……と夜を日に継ぎ、東奔西走。バイクショップは仕入れた分だけバイクが飛ぶように売れた時代だった。

そんな時代に生まれたFT400と500だが、お世辞にも売れ行きは芳しくなかった。ホンダの400ccクラスといえばベストセラーのCBX400FとフルカウルのCBX400インテグラに人気が集中、さらにパラレルツインのCB400LC、縦置きVツインのCXユーロ、気鋭のニューモデルだったV型4気筒のVF400F、単気筒オフロードのXL400Rと、そしてこのFT400が用意され、ユーザーはどれを買えばよいのか迷うほど機種が豊富だったことも、FT不人気の一因だったのかもしれない。ホンダ製だけでも選択肢があり過ぎたのだ。

FT400/500はむしろ、存在感が強烈だった。オンロード車として見れば、単気筒ロードスポーツとしての楽しさが満喫でき、フラットダートでは豪快なダッシュやカウンターステア(昔は逆ハンと言った)を決めるのにも最適だった。ただ、このサイズと重量では、北米など広大な大地でポテンシャルを試してみたくなるものだった。

ちなみにホンダがこのバイクに命名した北米市場向けのネーミングは「アスコット」。カタログの通りだ。アスコットはロサンゼルスにあるフラットトラック・レーシングコースの名前であり、エディ・ローソンなど著名なライダーが育った場所でもある。つまり、ダートトラック用競技車をイメージして生まれたのがFT400と500だったというわけだ。

ホンダは北米市場向けにフラットトラックイメージのバイクをVツインエンジンでも作った。それがVT500アスコットだった。基本フォルムはFT400に近い。エンジンはアメリカンモデルのスティードやNV400SP&カスタムに採用した水冷横置きVツイン+シャフト駆動という構成。個人的にはとても好きなバイクだったが、この逆輸入車が日本国内で走るのを見た記憶がない。それは国内で正規に売られたFT500も同様だった。大型二輪免許がステータスの時代だったから、「せっかく大型二輪免許を取得したのだから」ということで、わざわざ400ccクラスにしか見られないスリムな単気筒車を手にする人はまさにレアなケースでしかなかった。

スタイルも見ての通り奇抜だった。長方形のヘッドライトを非常に高い位置にセットしたことが大きなインパクトになった。そしてライトの下にゼッケンプレートのようなプレートをデザインとして取り入れていること。これも初めて見た処理だった。タンクとサイドカバーがつながり、ひとつのラインとして流れるようなデザインだか、サイドカバーはやはりゼッケンプレートを思わせる長方形タイプとしていた。四角いメーターボックスにウインカーボディも四角と実に徹底していた。

ホイールはコムスターホイールではなく星形スポークのキャスト式。単気筒車では定番人気のSR400がコンサバティブなスタイルであり、ホンダとしては似たものを避けるため、他のデザイン・アプローチをしたとも考えられる。フレーム系はXL400/500と同じ、ダイヤモンド式で軽量性優先タイプだ。

一般的なロードスポーツ車よりも長い前後サス・ストロークを持つために乗り心地は良好で、アップライトなポジションと相まって実はロングツーリングにも適していた。

だが、何よりも魅力的だったのがモダンな単気筒エンジンの味だった。スタタッ……と身体で明確に感じ取れる鼓動感がたまらなく心地よかったにも関わらず、バランサーで巧みに振動は消していたし、スロットルレスポンスも開けるのが楽しくなるほどリニア。ダートで後輪がスライドしてもバランスが取りやすかった。

レトロ系のSR400とは乗り味も真っ向から違ったものを目指したのがここでも分かる。いっそのことVツイン400ccのアスコットも国内リリースしていたら、とも思う。これらのバイクには、ホンダらしさが見事に溢れていたからだ。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

スティードに採用した位相52度位相クランクを採用したVツインエンジンのVT500アスコットと同様に、単気筒でもホンダはFT500でも輸出名を「アスコット」とした。ダートトラックを意識した、このジャンルのアピールに力が入っていた時期

エンジンはXL400/500に採用したバランサー付きの空冷SOHC4バルブ単気筒。SR400/500と異なるリニアに鋭く吹き上がるハイレスポンス、しかも鼓動を感じるのに不快な振動が少ないエンジンのキャラクター。フォークスタビライザー、角型メーター類などで独自性を主張した

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