『ツーリングのつぼ』

短波ラジオ(2)

掲載日:2012年12月04日 タメになるショートコラム集ツーリングのつぼ    

Text/Kosuke KAWAI

世界一周に持って行った短波ラジオは、大昔に買った『National』ブランド(現在のパナソニック)で、単三電池で稼働する手のひらサイズの小さなモデルだ。現在でも、同社から似たような製品が販売されている。短波ラジオの原理はよく分からないが、とにかく地球の裏側だろうが果てだろうが、世界のどこにいても、何かしらの放送を聞けることが特長だ。

しかし、はじめての海外ツーリングでは、ラジオの必要性は全く感じなかった。ただ海外という高揚感だけで、見るもの聞くもの、そのすべてが新鮮だったからだ。だが、危機は意外に早くやってきた。オーストラリアの砂漠で大雨に降られ、粘着性のある泥沼の中で身動きがとれなくなってしまったのだ。簡単に言うと、視界のすべてが田んぼのような感じ。しばらく押したり引いたりしたものの、タイヤが埋まったバイクは微動だにせず、道端にテントを張って他人が来るのを待つしかなかった。そこではじめてラジオを取り出してスイッチを押した。

アナログチューナーの丸いノブをくるくる回して周波数を探っていると、突然スピーカーからクリアな日本語が聞こえてきた。あの時の嬉しさを忘れることはないだろう。それ以来、たとえラジオ体操やのど自慢、季節により高校野球と大相撲くらいしか放送されなくても、ラジオジャパンの周波数表(世界中の日本大使館でもらえる)を持ってツーリングをしていた。

本当の荒野の夜は、大はライオン、小はマラリア蚊まで、人間では太刀打ちできない野生動物の天下だ。テントの入り口を開けたままにしておくと、サソリなどが勝手に入りこんできて、ロクなことがない夜もある。音楽プレーヤーとは異なり、いつも違う音が流れるので飽きず、そのうえ電池の持ちも良いので、テントでひとり過ごす夜のお供に最適だと思う。

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