『ツーリングのつぼ』

短波ラジオ(3)

掲載日:2012年12月11日 タメになるショートコラム集ツーリングのつぼ    

Text/Kosuke KAWAI

アフリカ大陸の左側にある凹んだあたり、コートジボアールの首都ではキャンプ場に泊まっていた。目の前には大西洋がひろがり、少し蒸し暑いことをのぞけば、漁師の帆掛け船がウロウロしているのどかな風景だった。

そこで危機はやって来た。これから行く予定の隣国、ニジェールでクーデターが起こったのだ。すると、私が持っている入国ビザは自動的に旧政府発行のビザとなり、現政権では使えない可能性が高い。大使館に行ってみると半旗を掲げていて、職員は混乱していた。キャンプ場に集まっているオーバーランダー(バイクやクルマなど自前の乗り物で国境を越えて大陸を旅行するバカものたち)の間でも、国際会議が催された。参加国はイギリス、ドイツ、ベルギー、イタリア、そして日本代表は私であった。

「諸君、情報によると、陸路の国境はすべて封鎖されているようだ。みんな自国のラジオから詳しいニュースを聞いて、明日にまた情報交換をしよう。」

その日、あいにく日本は日曜日だった。日曜日のラジオジャパンは、恒例の素人のど自慢と決まっている。ブラジル サンパウロからの放送で、ホルヘ鈴木さんが、たどたどしい日本語で美空ひばりを歌っていた。

次の日、イギリス人はこう言った「 BBC によると、主要な国境は開いているそうだ。しかし、国内はカーフュー(戒厳令)が発令されているので、日没から日の出までは外に出ないように。その間に動く生き物は、警告なしでシュートされる」と。

いくらビールを飲みながらとは言え、まさかアマチュアシンガーのコンテストだったと正直に答える度胸はなく、日本代表としては「ニュースの時間は、まだ後だ」とごまかすしか方法はなかった。映画の中ではなく、リアルな 007 に負けた気がした。

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