『バイク乗りの勘所』

レースが教えてくれたこと(その1)

掲載日:2014年10月06日 タメになるショートコラム集バイク乗りの勘所    

Text/Nobuya YOSHIMURA

今から何十年も前の、20歳代の約10年間、私はロードレースのメカニックをしていた。全日本選手権ロードレースから始まり、今のモトGPの前身である世界GPを経て、最後はメーカーのファクトリーマシンを担当した。そのときの経験は、今の仕事(バイクのメカニズムやメンテナンスに関する記事の執筆)に活きているだけでなく、趣味のバイクいじりやツーリングにも大いに役立っている。今回からしばらくの間、そのあたりの思い出話をしようと思う。

レース=勝負である以上、勝つためにやっているわけで、勝つことがすべてに優先するのだが、ひとつだけ例外がある。その例外とは人命の尊重。広い意味でいうと安全性の追求ということになろうか。レース=危険と短絡する人が多いのは承知のうえで、自分の経験をもとに、あえて言うなら、少なくとも全日本選手権以上のレベルのレースは、ストリートバイクでのツーリングよりもはるかに安全で、事故が起きたときの対応策も万全だということだ。

メカニックやチームは、ライダーの命を預かる仕事なのだという自覚を持ち、主催者や運営団体は、多くのライダーや関係者の安全に最大限の配慮をしている。これら2つによって、レースの安全性が保たれている。わずかな危険性をも見逃さずに排除し、安全性を確かなものとするために必要なのは想像と確認である。作為あるいは不作為の結果として起こりうる事態を“想像”し、予見可能な危険を排除できていることを“確認”しなければならない。

今のモトGPではしていないが、当時は、何万本に1本かもしれないがゼロではない不良品によるトラブルを避けるために、決勝用のタイヤは、事前に、ごく短い距離とはいえ実際に走行してエア漏れのないことを確認していたし、天候急変に備え、快晴といえども決勝日の朝には、最低でもレイン、インターミディエイト、スリック(スペア)の3種類をリム組みし、空気圧調整を済ませ、すぐに交換できるようにしていた。備えあれば憂いなし、である。

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