『バイク乗りの勘所』

不快感を与えない意思表示

掲載日:2014年08月11日 タメになるショートコラム集バイク乗りの勘所    

Text/Nobuya YOSHIMURA

1993年のU.S.GP。250ccのスタートシーンを撮り終えた私は、ラグナセカ名物のコークスクリューに向かった。コースに沿って行くよりも、インフィールドを直線的に横切り、丘に登っていく道を通るのが早い。カメラを両脇に、早足で進んでいると、後ろから呼び止める声が…。振り向くと、ピックアップトラックの兄ちゃんが手招きをしていた。コークスクリューまで乗せてくれるというのだ。ありがたく好意に甘え、助手席に乗り込んだ。

トラックがパドックのゲートにさしかかったとき、前にクルマ止がまっていた。運ちゃんは、脇に立った男とおしゃべりに夢中。そのとき、我がトラックの兄ちゃんが、いきなりクラクションを鳴らした。『パパーっ…』と、威勢はよいが、聞く者の神経を逆撫でしない音色。続いて兄ちゃんは、前に向かって、笑いながら「You've got someone behind you」と、大声を張り上げた。直訳すると「オマエの後ろに誰かいるぜ(笑)」みたいな感じか。

相手は『おぉ、すまんすまん…』といった感じで手を挙げ、クルマを横に避けた。クラクションの音色にも、兄ちゃんの声色と言い回しにも、怒りや威嚇は微塵も感じられず、それでいて目的は達している。これがもしも日本でのできごとで、自分が前車のドライバーだったら、どんなふうだったかと思うと、落胆せざるを得ない。まず、クラクションの音にイラっとし、続いて「邪魔だぜ、退けよ」みたいに言われ、ムカっときていたのではないだろうか。

逆に、自分が後車の場合、怒りや威嚇を交えることなく、にこやかに相手に自分の接近を知らせ、気持ちよく進路を譲ってもらうことができるだろうか…。私には自信がない。いきなり喧嘩腰になり、あとで自己嫌悪に陥ることも多い。どんな顔で、どんな言葉を、どんな口調で発するのがいいか。運転者同士のコミュニケーションもまた、公道でのライテクのひとつと捉え、できれば気持ちよく、少なくとも不快感を与えない意思表示を考えていきたい。

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