掲載日:2026年10月13日 フォトTOPICS
写真・文/小松 男


2026年4月、株式会社コシダテックがMVアグスタの日本正規輸入代理店に任命された。同社は1930年創業の商社で、バイク用品総合専門店「ライコランド」のフランチャイズ本部としても知られる。自動車関連や半導体など幅広い事業を展開しており、二輪業界とのつながりも深い。
今回の代理店就任は、MVアグスタの日本市場における本格展開を進めるための新たな動きとなる。

日本国内の新規登録台数を見ると、同ブランドが置かれている状況は決して楽観できるものではない。日本自動車輸入組合(JAIA)のデータを基にしたプレゼン資料によれば、2011年から2022年まで年間200台以上を記録していた新規登録台数は、2023年に79台へと大きく減少。その後も2024年は60台、2025年は37台と減少が続き、2026年9月時点では30台となっている。
こうした状況のなかでコシダテックが打ち出したのが、車両を販売しないショールームというアプローチだ。

10月9日に行われた報道関係者向け内覧会では、コシダテックの子会社でMVアグスタの日本正規輸入代理店業務を担う株式会社オートグローバルコシダの外山和也代表取締役社長が、開設の狙いについて説明した。
「MV Agustaの販売の底上げを図るとともに、実車を見て、試乗していただくことでブランドを体験し、正規販売店へのご案内・送客を進め、既存オーナーの皆さまとの関係も強化していきます」
ショールームの役割は、単に美しい車両を並べることではない。MVアグスタのデザインや走行性能、ブランドストーリーを実際に体験してもらい、購入や整備について具体的な相談があれば、希望車種や居住地域、購入時期などに応じて最寄りの正規販売店へ案内する。

「MV Agusta Yokohama-Kohoku Showroom」では、その目的を「日本再始動の継続的な発信」「新規顧客・潜在顧客との接点づくり」「既存オーナーとの関係強化」「正規販売店への送客」の4点に整理している。
つまり、ショールーム自体で販売を完結させるのではなく、ブランドの魅力を伝える入口となり、実際の商談や購入、整備へとつなげる仕組みだ。
実車を見て、触れて、走らせる。カタログやウェブサイトだけでは伝わりにくい魅力を体感してもらうことで、MVアグスタを知る人を増やし、既存オーナーとのつながりも深めていく。今回の新拠点は、そうしたブランド再始動のための継続的な発信基地なのである。
「MV Agusta Yokohama-Kohoku Showroom」が開設されたのは、神奈川県横浜市都筑区高山1-32。横浜市営地下鉄グリーンラインの都筑ふれあいの丘駅から徒歩約5分の場所にある、輸入車・希少車専門ショールーム「R TRE」内だ。
R TREは、2019年3月にオープンした施設。「本物を知る車好きの大人たちが集う秘密基地」をコンセプトに掲げ、フェラーリやランボルギーニ、ポルシェ、マセラティなど、クルマ好きの心をくすぐるモデルを扱っている。
根底にあるのは、REAL、RIGHT、RESPECTという3つのテーマであり、真の価値を追求し、正当な価値を見極め、価値あるものへの敬意を大切にするという考え方だ。その思想はそのままMVアグスタのフィロソフィにも当てはめることが出来る。
スーパーカーが並ぶショールームに美しい二輪車が展示される光景は、単なる異ジャンルの共演ではない。エンジンや機械としての性能はもちろん、造形やディテール、作り手のこだわりまで含めて乗り物を愛する人にとって、四輪と二輪の境界はそれほど重要ではないのだろう。

今回の展示で目を引くのが、世界300台限定の「SUPERVELOCE 98」。さらに、1960~70年代に誕生したビンテージモデル「125S」「50 Liberty」なども並ぶ。
最新モデルの機能美と、時代を超えて受け継がれてきたクラシックモデルの存在感。両者を同じ空間で眺めることで、MVアグスタというブランドが積み重ねてきた時間にも思いを巡らせることができる。

もちろん、ここは車両を購入する場所ではない。MVアグスタをよく知るオーナーにとっては愛車への思いを深める場所となり、これまで縁のなかった人にとっては、新しい世界と出会う入口にもなる。
営業時間は11時から18時までで、定休日は火曜日。車両の購入や整備について相談したい場合は、スタッフを通じて正規販売店へ案内してもらえる。
今回のオープニングレセプションでは試乗会が併催され、私はMVアグスタのアドベンチャーモデル「ENDURO VELOCE EAS(エンデューロベローチェ)」に乗ることにした。
アドベンチャーモデルといえば、長距離ツーリングや未舗装路への対応力、快適性や扱いやすさなど、幅広い用途を想定したモデルが多い。ところが、MVアグスタのそれは、ひと目見ただけでも、よくあるアドベンチャーモデルとは少し違う空気をまとっている。
搭載されるのは、MVアグスタらしい3気筒エンジン。トライアンフやヤマハなど、3気筒エンジンを採用するメーカーはほかにもあるが、そのなかでもMVアグスタのトリプルは、どこかスパイシーな個性を感じさせる。

エンデューロベローチェ見て思うのは、たとえるなら、ランボルギーニがスーパーSUVのウルスを生み出したときのような意外性だろうか。ブランドの持つ美学や情熱を失うことなく、新たなジャンルへ踏み出しているところに、MVアグスタらしさがある。
エンジンを始動すると、まず排気音が耳に届く。回転の上昇は滑らかで、低回転域から十分なトルクを感じさせる一方、回転を高めていくにつれて音は高く、鋭くなっていく。単に速さを追求するだけではなく、エンジンを回すことそのものが楽しくなるようなキャラクターだ。
街中では低回転域の扱いやすさが助けになる。そしてアクセルを開け、回転を上げていけば、3気筒ならではの伸びやかなパワーが顔を出す。アドベンチャーモデルとしての実用性と、スポーツブランドとしての刺激。その両方を成立させようとする姿勢が伝わってくる。

走行性能だけでなく、各部のディテールやパーツの質感にも目が向く。細部まで作り込まれた車体を眺めていると、量産モデルという言葉だけでは収まりきらない、特別に仕立てられた一台という印象を受ける。
もちろん、万人にとって扱いやすいことだけを最優先したバイクではない。誰にでもわかりやすい刺激や、誰もが納得する無難な味付けを目指すのではなく、乗り手に独自の世界観を提示してくる。そこにこそ、MVアグスタを選ぶ意味があるのだと思う。
ライダーに媚びてこない。「知っている奴だけ知っている」――それでいいと、私は思う。

「走る宝石」と呼ばれるブランドの魅力は、展示車両を眺めているだけではわからない部分にも宿っている。走らせて初めて伝わるエンジンの鼓動やシャシーの感触、そして細部まで貫かれた美学。エンデューロベローチェは、そうしたMVアグスタらしさを体感させてくれる一台だった。
幅広いユーザーに受け入れられることが求められる現代において、独自の個性を守り続けるのは簡単ではない。しかし、すべての人に合わせるのではなく、自分たちの価値観を明確に打ち出すブランドがあるからこそ、モーターサイクルの世界は面白い。
MVアグスタの「媚びない美しさ」は、これからも二輪業界に独自の価値をもたらしてくれるはずだ。

「MV Agusta Yokohama-Kohoku Showroom」の開設は、MVアグスタが日本市場で新たな展開を進めるうえで、ひとつの象徴となる取り組みだ。
今回の施設は、車両を販売しないという点で従来の販売店とは役割が異なる。展示や試乗によってブランドを体験してもらい、購入や整備に関心を持った来場者を、地域や希望車種などに応じて正規販売店へつなぐ。ブランドの魅力を伝える場所と、実際に購入やアフターサービスを担う販売店が連携する仕組みである。

特に、大切に考えられていることは既存オーナーとの関係強化だ。部品供給や整備、販売体制に対する不安を払拭し、ブランドへの信頼を取り戻すことも、新体制に求められる役割のひとつとなる。
新たな正規販売店の展開も進められており、長野県では「MV Agusta Nagano」が2026年11月6日にオープンする予定だ。横浜のショールームだけで完結するのではなく、全国の販売網と連携しながらブランド体験の機会を広げていくことが期待される。

ただし、こうした取り組みが成果を上げるためには、魅力的な車両を展示することだけでは十分ではない。購入後の点検・整備や部品供給を含め、オーナーが安心して乗り続けられる環境を整えることが欠かせないからだ。
その意味で、今回のショールームは単なる展示施設ではなく、新体制がユーザーと向き合う姿勢を伝える場所でもある。

フェラーリやランボルギーニなどが並ぶR TREという空間で、MVアグスタの車両に出会う。そこで初めてブランドを知る人もいれば、かつて所有していた愛車への思いを新たにする人もいるだろう。そして、試乗を通じてその魅力に触れ、次の一台として興味を持つ人もいるはずだ。
日本市場で再び存在感を高めていくために必要なのは、ブランドの魅力を伝えることと、それを支える販売・サービス体制の両輪を回すこと。その第一歩として、横浜港北の新拠点が果たす役割は小さくない。
美しいものを、ただ飾るだけでは終わらせない。見て、触れて、走らせて、その価値を知ってもらう。

横浜港北から始まる新たな「アグスタワールド」が、これまでブランドを知らなかった人にも、長年愛してきたオーナーにも、新しい出会いをもたらしてくれることを期待したい。

MV Agusta Yokohama-Kohoku Showroom
所在地: 神奈川県横浜市都筑区高山1-32(R TRE内)
アクセス: 横浜市営地下鉄グリーンライン「都筑ふれあいの丘駅」から徒歩約5分
営業時間: 11:00~18:00
定休日: 火曜日








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