【MVアグスタ スーパーベローチェ800 試乗記】ルックスに加えて、乗り味もフレンドリー

掲載日:2020年11月05日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦 写真/井上 演

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MV AGUSTA SUPERVELOCE 800

F3 800の基本設計を転用しながら
レトロテイストのデザインを導入

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2018年のEICMAで公開され、今年から発売が始まったスーパーベローチェ800は、MVアグスタが初めて手がけたレトロ指向のバイクである。もっともだからと言って、近年の流行であるネオクラシックに分類できるのかと言うと……、それはなかなか微妙なところ。他メーカーのネオクラシックが、既存のベーシックモデルの基本構成を転用、あるいは、当初からベーシックモデルとして設計されているのに対して、スーパーベローチェ800の開発ベースはスーパースポーツのF3 800で、デチューンや簡素化を思わせる変更は行われていないのだから。

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逆に言うならスーパーベローチェ800は、ネオクラシックの新しい可能性を示すモデルなのだ。そう考えると、既存のネオクラシックの運動性能に物足りなさを感じている人や、最新スーパースポーツのアグレッシブなルックスに馴染めない人にとって、このモデルは理想の1台になり得るだろう。いずれにしても、現代の技術とレトロな雰囲気を巧みに融合したスーパーベローチェ800は、MVアグスタにとっても2輪業界にとっても、過去に前例がない車両なのである。

MVアグスタ スーパーベローチェ800 特徴

常用域での扱いやすさを追求して
ライポジやリアサスなどを刷新

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前述したように、スーパーベローチェ800の開発ベースはF3 800で、並列3気筒エンジンやトリレスフレームはほぼそのまま転用し、148hpの最高出力や173kgの乾燥重量、多種多様な電子制御なども共通。ただし、スーパーベローチェ800がデザインだけのモデルかと言うと、そんなことはない。F3 800より上半身の前傾度を弱くするため、ハンドルは18mm上/6mm後方に移動しているし、シート高はF3 800と同じ830mmという数値を公表しつつも、座面を前傾→水平に変更することで、良好な足つき性を確保。また、海外のウェブサイトに掲載された記事によると、リアサスとエンジンのバルブタイミングは、低中速域重視の見直しが行われているらしい。言ってみればこのモデルは、デチューンは受けていなくても、常用域に配慮した変更は行われているのだ。

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スーパーベローチェ800のデザインで興味深いのは、レトロテイストを取り入れながらも、他メーカーのネオクラシックのような、“往年の名車の再現”というテーマに執着していないことだろう。もっとも、丸型のヘッドライト&テールライトや座面がフラットなシートは、1970年代に販売された750Sシリーズを思わせるところがあるけれど、無理に往年の名車に似せようという気配は希薄。それどころか、ゴールドのフレームとホイール、シャープにしてシンプルなサイドカウル、低さと短さを強調した造形からは、従来のネオクラシックモデルの常識に捉われない、MVアグスタの気概が感じられる。

既存のMVアグスタの王道モデルの手法に準じる形で、スーパーベローチェ800は、上級仕様のセリエオロ:352万円と、スタンダード249万7000円/256万3000円の2種を設定。この価格に対しては、一昔なら高額車!というイメージを抱く人が多かった気がするものの、近年の日本製リッタースーパースポーツの平均価格が200万円代中盤に上昇したことを考えると、少なくともスタンダードの価格に驚きを感じる人はほとんどいないだろう。

MVアグスタ スーパーベローチェ800 試乗インプレッション

開発ベースの戦闘的な雰囲気を抑制し
フレンドリーな乗り味を構築する

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試乗前に編集部でスーパーベローチェ800談義をしている最中、僕がなるほどと思ったのは、身長160cmのスタッフを含めて、シートに跨ってハンドルに手を伸ばした数人が、“これならイケそう”と言ったことである。今どきのスーパースポーツの話を同業者していると、“自分の体格では無理”、“これはサーキット専用でしょう”、“市街地では腕と足腰が痛くなる”などという言葉が出て来ることが普通なのに、スーパーベローチェ800に否定的な意見は皆無。言うまでもなく、これは前述したハンドルとシートの恩恵である。数値の差は微々たるものでも、ライポジ関連部品を専用設計したこのモデルは、スーパースポーツ特有の戦闘的な雰囲気を抑制し、程よいとっつきやすさを獲得しているのだ。

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では自分で言うのも何だが、スーパースポーツの経験がそれなりに豊富で、体格的にも恵まれている僕が、スーパーベローチェ800にどんな第一印象を抱いたかと言うと……、ムチャクチャ親しみやすかった。と言うより、サーキット指向が強い近年のスーパースポーツをストリートで楽しむには、こういう変更が必須ではないかと思った。何と言っても、上半身の前傾が緩やかで、足つき性が良好なこのモデルは、その気になれば市街地の足としても使えそうな、汎用性を獲得していたのだから。

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なお市街地を走っている最中、僕が改めて感心したのは、MVアグスタ製ミドルトリプルの懐の深さである。もっともその片鱗は、過去に試乗したF3シリーズでも感じていたのだが、このエンジンは官能的な吹け上がりが満喫できる高回転域だけではなく、一発一発の爆発力が明確な低回転域も、徐々に排気音がまとまって回転上昇の勢いが増していく中回転域も、とにかくどの領域を使っていても楽しい。言ってみればエンジンにも汎用性が備わっているわけで、だからこそスーパーベローチェ800は飛ばせない状況でも、大きなストレスを感じないのだ。

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さて、第一印象や市街地の話が長くなってしまったが、このバイクのメインステージと言うべきワインディングロードで僕が感心したのは、F3 800に対するマイナス要素が見当たらないことだった。と言っても厳密に言うなら、フロントまわりの接地感や、フル加速中の一体感では、戦闘的なライポジのF3 800に分があるだろう。でも上半身の前傾度が控えめなスーパーベローチェ800には、視界が広いという美点があって、そのおかげで場面によっては、F3 800以上のペースで走れるのだ。

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また、MV製ミドリトリプルの個性である逆回転クランクの恩恵が感じやすかったことも、僕にとっては印象的だった。そもそも逆回転クランクには、減速時の車体姿勢が極端な前下がりになりづらいという特性があって、既存のF3 800でもその傾向は感じられたのだけれど、このバイクではライポジやリアサスの刷新が功を奏しているようで、前下がりどころか、リアに引っ張られるような感触を安心材料としながら、思い切ったブレーキングや倒し込みが安心して行える。ちなみに逆回転クランクは、昨今のMotoGPレーサーのトレンドなのだが、スーパーベローチェ800でその恩恵を感じた僕は、どうして他のスーパースポーツがこのクランクに積極的な姿勢を示さないのか、何となく不思議な気がしてしまった。

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ルックスだけではなく、乗り味も親しみやすいスーパースポーツ。それがスーパーベローチェ800に対する僕の印象だが、単純にフレドリーなMVアグスタが欲しいなら、アップハンドルのブルターレやツーリズモベローチェ800などを選んだほうがいいだろう。とはいえ、フルカウルを装備するMVアグスタのスーパースポーツを、気軽かつオールラウンドに楽しみたいライダーにとって、このモデルはベストチョイスになり得ると思う。

MVアグスタ スーパーベローチェ800 詳細写真

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クラシカルなイメージのフェアリングは専用設計で、ボルト類やステーの露出を最小限に抑えることに配慮。LEDヘッドライトは、現行MVアグスタでは唯一の丸型。ラジアルポンプ式のフロントブレーキマスターシリンダーはニッシン。

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開発ベースのF3 800に対して、ハンドルグリップは18mm上/6mm後方に移動。スロットルは電子制御式で、右側スイッチボックスにはクルーズコントロール用ボタンが備わる。バーエンド式バックミラーの視認性は、なかなか良好だった。

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スマホとの接続が可能な5インチTFTモニターは、現行ブルターレ1000RRと共通。3+1のライディングモードや8段階のトコランの設定だけではなく、スロットルレスポンスやエンジンブレーキの調整なども、このモニターを介して行う。

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容量16.5Lの燃料タンク上部には、往年のレーサーを彷彿とさせる革ベルトを設置。そのステーの造形にも、MVアグスタならではのこだわりを感じる。マルゾッキφ43mm倒立フォークは、左に圧側、右に伸び側ダンパーアジャスターを装備。

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メインシートの座面はフラットだが、タンデム用はデザイン重視の後ろ下がり。シートレザーは部位に応じて、スゥエード調、ブラック、レッドの3種を使い分けている。タンデムシート下には、ETCユニットが収まりそうなスペースが存在。

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スリムなシートカウルと丸型テールランプは、既存のオートバイとは一線を画する斬新な造形。そしてこの造形の魅力を強調するためか、ナンバープレート+テールランプ+リアウインカーは、スイングアームマウント式を採用している。

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左右ステップの構成と位置はF3 800と同様のようだが、専用設計されたハンドル+シートとの相性に問題はなかった。クイックシフターはアップ&ダウン対応型で、ダウン時のオートブリッパーの作動感は素晴らしく良好。

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逆回転クランク+4軸構成やカセット式ミッションを採用する並列3気筒エンジンは、F3 800用をほぼそのまま転用している。148hp/13000rpmの最高出力、8.97kg-m/10600rpmの最大トルクにも変更はない。

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3本のサイレンサーを縦に並べた排気系は、MV製ミドルトリプルの定番。かつての日本仕様は独自の排気ガス規制に対応するため、やや強引な構成の1本出しを採用していたが、近年はイタリア本国と同じ排気系が標準になった。

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放射状にスポークを配置したアルミキャストホイールのサイズは、ミドルスーパースポーツの定番と言うべきF:3.50×17/R:5.50×17。フロントブレーキはφ320mmディスク+ブレンボ・ラジアルマウント式4ピストン。

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リアブレーキはφ220mmディスク+ブレンボ2ピストンで、標準タイヤはピレリ・ディアブロロッソコルサII。なお1999年に劇的な復活を遂げて以来、MVアグスタはすべてのモデルに片持ち式スイングアームを採用している。

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背面にリザーブタンクを備えるリアショックは、ドイツに本拠地を構えるザックス製。上部には圧側ダンパーとプリロード、下部には伸び側ダンパーアジャスターが設置されている。

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