掲載日:2025年04月10日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA CB1000 HORNT SP
その名の歴史を遡れば約30年も前、当時ストリートで巻き起こっていたネイキッドブームにおいて申し子的な登場をしたホーネット。まず最初は250ccモデル、その後600cc、900ccとレンジを広げ、国内はもとより、特に欧州で人気を博したスポーツネイキッドだ。
世間の流行がアドベンチャーモデルやネオクラシック系などに移行していく中、2011年にはその名の歴史に一度幕を下ろすことになったが、2022年には海外向けモデルとしてCB750ホーネットが、翌年にはCB500ホーネットが登場していた。そしてそれらの頂点に君臨するハイエンドモデル『CB1000ホーネット』が発表! 満を持して国内での販売もスタートしたのである。長くバイクに親しんできた方には懐かしい名、そして新しいライダーからすると新鮮味のある次世代ホーネット。その内容を探ってゆく。
1996年、初代ホーネットが登場した時のことをよく覚えている。時はカワサキ・ゼファーによって口火が切られたネイキッドブームの真っ只中。ホンダはCB400スーパーフォア、ヤマハはXJR、スズキはインパルスなどで対抗。その火は400ccモデルだけで収まらず250ccクラスへも燃え移っていくことになる。そのような中で発表されたホーネットは既存のネイキッドモデルとは一線を画すものであった。
なぜならば、どちらかというとトラディショナルないわゆる4発ネイキッドスタイルで纏められているモデルが多い中で、極太リアタイヤやシートに沿うようにセットされたアップマフラーなど、モダンかつスポーティなスタイルがもたらされていたからである。まだ学生だった私は通学のため毎日使用してた新宿駅構内にずらりと貼られたホーネットの広告を見て、『ホンダは凄いのを出してきたな!』と非常に興味を惹かれたのを覚えている。
それ以前に存在したジェイドの実質的後継モデルとして登場したホーネットは、確かなパフォーマンスと斬新なスタイリングで瞬く間に大ヒット。追ってホーネット600、ホーネット900と兄弟モデルを増やした。だから”ホーネット”という車名を聞くと「ああアレね」とすぐに頭に浮かぶものなのだが、いつの間にかホーネットはこの世から存在しなくなっていたらしいのである(欧州では最終的にCB600Fホーネットが2010年代まで販売されていた)。ネイキッドモデルというセグメントはストリートファイターやクラシックなど裾が広がってゆき、その中でホーネットも一度は役目を終えたということなのだ。
ただ欧州を中心にホーネット支持者層は厚く、海外向けモデルとしてCB750ホーネット、CB500ホーネットが登場。2023年のEICMA(ミラノショー)でフラッグシップモデルとなるCB1000ホーネットが発表され2024年末には待望の国内販売が始まった。軽量なシャシーにホンダ最高峰スーパーバイクであるCBR1000RRに搭載されていたものをベースにデチューンしたエンジンを採用。CB1000ホーネットは新たな次元のロードスポーツバイクとして帰ってきたのである。今回は足まわりのグレードアップを中心に各部の装備が強化された上位モデルのCB1000ホーネットSPに触れ、感触をお伝えする。
ホーネットの名がラインアップ落ちしていたことをうっかり失念していたのだが、そもそも長兄ホーネットはホンダのスーパーバイクモデルであるCBRシリーズのトップモデルのネイキッドバージョンというような存在であり、そういえば以前のホーネット900はCB1000Rへとその役目をバトンタッチしていたことを思い出していた。そして今回はCB1000Rが終焉を遂げ、再びCB1000ホーネットへとバトンが戻されたということなのである。ただスタイリングを見てみると、私がイメージしている旧ホーネットとも、これまでその後役を担ってきたCB1000Rとも一味違う構成となっているようだ。
例えば顔つきを見てみても丸型及び丸形風ヘッドライトではなく、低く構えたシャープな造形のフロントマスクが与えられている。CB1000Rとはフレームからして一新されている上、片持ちスイングアームだったのに対し両持ちタイプとなっているし、マフラーもホーネットのアイデンティティであったシートに沿ったアップセットから下方に変更されている。もはや旧ホーネットともCB1000Rとも異なる新たな存在として登場したように見える。
傍から見ると大柄に思えたが、跨ってみると体にしっくりくるサイズ感であり、シート、ハンドル、ステップの位置関係もベターで、触れた瞬間にこれは扱いやすそうだということが伝わってきた。
2017年型のCBR1000RRに採用されていたものをベースに、新開発のピストンやバルブタイミング、バルブリフト量などを変更したエンジンに火を入れると、ハイパフォーマンスマルチの野太いアイドリングサウンドが体に響いてくる。
クラッチを繋いで走り出すと想像していた以上にトルクフルな仕様となっており、2000回転くらいから背中を蹴飛ばされるような加速感を味わえる。ライディングモードを最もパワーの出るスポーツにセットしラフなスロットルワークをしようものなら即座にフロントタイヤが宙に浮く。「これはじゃじゃ馬だ」と楽しくなってしまい思わずヘルメットの中で笑みがこぼれた。
ハンドルの切れ角、それにピッタリと呼吸を合わせるように自然に車体が倒れ込むバンキング、タイヤのどこの部分が接地しているのかというインフォーメーションなど、交差点一つ曲がるだけでトータル的なスタビリティの高さが分かる。
今回スタンダードモデルに触れていないので安易に比べることはできないのだが、少なくともSPに採用されているオーリンズTTX36リアモノショックとの相性は良く、走行中のリアタイヤの突き上げ感をしっかりといなすだけでなく、コーナーリング時に深々とバンクさせた際の適度な沈み込み、そこからスロットルを開けるにしたがってスムーズに戻るダンピング特性が秀逸なのである。
アイドリング状態から高速道路での高回転域までエキゾーストサウンドはしっかりと作りこまれていることが分かるのだが、時折パタパタとフラップのような音も聞こえるな、と思っていた。調べてみたところ、その訳はSPのマフラー内部に可変排気バルブが装備されており、エンジン回転数に応じてECUにてバルブ開度を制御し、スタンダードモデルと比べて最高出力の引き上げや、よりトルクフルな特性としていることにあるようだ。
市街地、高速道路、ワインディング、どこを走らせても意のままに操ることができる。それもとてつもなく速く、しかも気持ちが良い。ハンドルをフルロックしてクルクルと旋回できるバランス感覚の高さは、エクストリームライドやジムカーナにももってこいの一台である。これならば従来のホーネットやCB1000Rのファン層も納得のスポーツパフォーマンスであるし、初めてホーネットに触れるライダーも即座に魅了されるに違いない。
スタンダードモデルは134万2000円、SPは158万4000円と価格差はあるが、それ以上に装備やパフォーマンスの違いはあるように感じられたので、余裕があればSPを選びたいところだ。
搭載される999cc水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒エンジンのベースとなったのは2017年型CBR1000RRのもので、新開発のダイキャストピストンやバルブタイミングやバルブリフト量の変更などが行われた。最高出力と最大トルクはスタンダードモデルで152馬力、104Nm、SPが158馬力、107Nmとなる。
ホイールはCBR1000RR-Rファイヤーブレードの設計思想を元に専用デザインとされたY字5本スポークを使用する。SPのフロントブレーキキャリパーにはブレンボ社のSTYLEMAが採用されている。タッチ、効きともに最高だ。
アルミ製の左右非対称両持ち高剛性スイングアームを採用。最終型ホーネット600など一部を除きホーネット系ではアップセットされてきたマフラーは低い位置へと変更されている。SPには内部に可変排気バルブが装備されている。
いわゆるストリートファイターモデル的な顔つきとなったフェイスマスク。プロジェクター4灯構成としたヘッドライトとなっている。低く構えた野獣のように攻撃的な印象を与える。
ライダーとパッセンジャー側が分けられたセパレートタイプのシートとなっている。シート高は809㎜で、シートの両サイドがシェイプされているため、実際に跨ってみると数値よりも低い印象を受けた。
SPではクラッチレバー操作をせずにシフトアップ/ダウンができるクイックシフターを標準装備している。なお加減速を多用する速度域をローレシオ化、トップギアはハイレシオ化し高速巡行時の快適性を向上させるなどトランスミッションやファイナルギアレシオの最適化も図られている。
燃料タンク容量は17リットル。スタンダードモデルはパールグレアホワイト、SPはマットバリスティックブラックメタリックの各1色展開。
後ろ上方に尖ったデザインとされたスポーティなテールセクション。テールランプはライン形状発光となっている。急制動時にハザードランプが高速点滅し、いち早く後続車に伝えるエマージェンシーストップシグナルを標準装備。
左側のスイッチボックスは4ウェイセレクトスイッチが採用されておりマルチファンクション操作を直感的に行うことができる。ウインカーのクリック感も良く、全体的に操作性は良い。
様々な情報を分かりやすくライダーに伝えてくれる5.0インチTFTフルカラー液晶ディスプレイを採用している。スマートフォンアプリのHonda RoadSyncとの連携も容易。ライディングモードはスタンダード、スポーツ、レイン、ユーザー1、ユーザー2となる。
フロントサスペンションはショーワ製φ41㎜SFF-BP倒立フォークを採用。フォークトップに備えたスクリューで伸び側、圧側の減衰量やプリロードなどを調整することができる。
パッセンジャーシートを取り外すと標準装備のETC2.0車載器が収められている。多少の余裕もあり、ユーティリティスペースとしても活用することができる。
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