掲載日:2024年12月24日 試乗インプレ・レビュー
写真/川上 礁太 取材・文/小松 男
KAWASAKI Ninja650 vs HONDA CBR650R
人気沸騰のこの対決(比較)企画、今回用意したのはミドルクラスのフルカウルスポーツモデルであるホンダCBR650Rと、カワサキNinja650(以下:ニンジャ650)です。まずポイントとして頭の隅に置いておいて欲しいのは”ミドルクラス”というキーワード。日本のバイク史を振り返れば750ccの排気量が国内のバイク市場における最大排気量だった時代もあったのですが、それは遠い過去の話。今ではおおよそ600~800ccあたりのモデルをミドルクラスと呼ぶ場合が多いです。
実はこのミドルクラスのバイクというのは、パフォーマンス的に見ても過不足無く、車格も割とコンパクトにまとめられているケースが多いため、とても便利で乗りやすく楽しく走らせることができ、幅広い層のライダーに薦めることができるモデルが多く存在します。
欧州をみると、10代で取得することができる上限免許、A2ライセンスには排気量制限がなく最高出力35kW以下というレギュレーションが取られています。それに合わせるようにA2ライセンス仕様とされるケースが多いのがこのミドルクラスで、日本以上に活気のあるマーケットとなっていたりします。
つまりメーカーが本気で“売る”ことを考えて作っていると言っても過言ではないのです。特にフルカウルスポーツモデルは若者やリターンライダー層にも支持されており、今回の2台はまさにその中心的存在となっています!
ニンジャ650はエッジが立たされたデザインが特徴的。2灯ヘッドライトや逆スラントノーズなど顔つきからしてニンジャシリーズの上位モデルであるH2系やZX-10Rなどを連想することができ、ニンジャとしてのアイデンティティをしっかり持たされていることが分かります。
シート高は790mmとかなり抑えられています。その上ハンドル位置がライダー側に近い場所にセットされていることもあり、足つき性はかなり良い印象です。ライダーは177cm、71kg。
フロントカウルから燃料タンク、テールカウルまで有機的でなだらかなボディラインを持つCBR650R。WSS(スーパースポーツバイク世界選手権)のホモロゲーションモデルであるCBR600RRと比べると全体的にソフトではありますが、しっかりとスポーティなスタイリングで纏められています。
シート高は810mmでニンジャ650と比べると高い数値とされている上、ハンドル位置が低く、ステップ位置も高いので、ライディングポジションは割とタイト。率先してスポーツ走行を楽しむならこちらのポジションが適しています。
今回の2台はフルカウルスポーツモデルではありますが、レーサーレプリカではなくストリートスポーツモデルです。もっとも大きな違いと言えばやはりエンジン形式でしょう。ニンジャ650はパラレルツイン(並列2気筒)エンジンを搭載しているのに対して、CBR650Rは並列4気筒エンジンを採用しています。
昨今現行モデルで販売されている同クラスのモデルを見回してみると、例えばYZF-R7などもパラレルツインエンジンを搭載しており、このセグメントが広がってきていることが分かります。少し前ならば”ミドルクラスの国産フルカウルスポーツ=レーサーレプリカ=並列4気筒エンジン”という公式を当てはめることができていたのですが、レーサーレプリカとは違う視点でストリートユースをしっかりと考えたミドルクラスのフルカウルスポーツモデルというものが現在のトレンドとなっているというわけです。
なのでホンダではCBR600RR、カワサキはZX-6Rという多くのレースレギュレーションに沿う形のレーサーレプリカモデルも併売されているわけで、それこそ年中様々なモデルの試乗インプレッションを行っている私から見れば、公道での走行をメインに使用するのであれば、今回取り上げるCBR650Rとニンジャ650の方がレーサーレプリカであるCBR600RR、ZX-6Rよりも気軽に付き合うことができると考えています。
ニンジャ650はアグレッシブなスタイリングではありますが、そんな見た目と反してライダーフレンドリーな乗り味。ライディングポジションの自由度が高いこともあり、車体を軽々と操ることができます。
ニンジャ650より車重が15kg重く、実際に乗り比べるとその重さを感じます。4気筒エンジンであることも要因ですが、このフィーリングはパラレルツインエンジンでは味わえません。
間違いなくお互いを意識したライバルモデルであり近しい部分もあるのですが、はっきり言ってしまうとニンジャ650とCBR650Rは似て非なるものであります。ニンジャ650は尖ったスタイリングとは裏腹にフレンドリーな味付けで非常に扱いやすいです。その扱いやすさ、見た目とのギャップというのは初代ニンジャとして有名なGPZ900Rにも通じるものがあると思っています。
ゆったりとラフなライディングポジションはUターンひとつ、いや定常円旋回や8の字走行も手足感覚で行えるもので、しかも出力特性も過敏ではなく右手の操作に従順という感じです。スキルや体格を問わず多くのライダーが走り出した瞬間から”乗りやすい”と思うことでしょう。
一方CBR650Rは4気筒エンジンがもたらすマイルドでいながらシャープなフィーリングが素晴らしく心地よいです。ニンジャ650と比べればハンドルは低い位置にセットされておりライディングポジションもタイトではありますが、速度を上げていった際の車体の抑えが利き、よりスポーティなライディングを楽しむことができます。
どちらのモデルも快適なクルージングを楽しむことができ、さらにいざとなったらホットなスポーツランを存分に満喫することができる万能キャラクターとされていますが、ニンジャ650はツアラー的、CBR650Rはモアスポーティな方向性に分かれていると感じます。
ニンジャ650のパラレルツインエンジンは最高出力68馬力、CBR650Rの4気筒エンジンは最高出力95馬力。この差は大きく、実際に走らせてみるとCBR650Rの方が速いとすぐにわかります。エキゾーストノートも別物で好みがわかれるところ。
全体的に折り目が多用され光の当たり方による陰影を楽しめるニンジャ650に対し、シンプルで柔らかな曲線で纏められたCBR650R。カラースキームによる印象の違いも大きく、グラフィックパターンとソリッドカラーなどカラーバリエーションも良くチェックしたいところですね。
両車ともセパレートハンドルを採用しているのですが、ニンジャ650はトップブリッジの上部にセットされているのに対し、CBR650Rはトップブリッジ下に取り付けられています。安楽なのはニンジャ650、スポーティなのはCBR650Rです。
冒頭でもお伝えしましたが、今回のモデルはどちらも欧州など海外でも人気が高いです。だからこそキャラクター付けは明確になっていると言えます。見た目と反してイージーに扱うことができるニンジャ650は多少お腹が出てきてしまっても気軽に乗れるスポーツモデルです。
一方のCBR650Rはレーサーレプリカほどのパフォーマンスは不要だけれど思い切りスポーツライディングを楽しみたいと考えているライダーにはドンピシャです。CBR650Rにはホンダの新たなオートマチックトランスミッションシステムであるホンダE-Clutchグレードが追加されたことも興味深いものです。
昨今各メーカーがこぞってオートマチックトランスミッションモデルに参入してきているのは、欧州でのニーズが高まってきているからという背景があります。日本においても大型AT二輪免許で乗ることができるのは今後大きなメリットになってくることでしょう。
それらを加味すると、CBR650Rの存在はスポーツバイクを求める多くのファン層に支持されるためにあらゆる手がもたらされているようにも思えますし、ニンジャ650はカワサキが掲げる”Ninja”という看板を背負うのにふさわしい出来栄えとなっていることが分かります。
価格を見てみるとニンジャ650は106万7000円、CBR650Rは110万円と大差は無く、各自の好みで選んで良いと思いますが、最終的な提言をするならばスポーツライディング派はCBR650R、ツアラー派にはニンジャ650をお薦めします!
燃料タンクのデザインは傍から見ると大きく印象が異なりますが、容量はどちらも15リットルとなっています。カタログスペック上の燃費(WMTCモード値)は、ニンジャ650が23.6km/LでCBR650Rは21.5km/Lとなっています。
どちらのモデルもライダーとパッセンジャーがセパレートとなっていますが、流れるようなデザインとされておりタンデム走行をしっかりと想定していることが分かるシート形状です。停車状態でピリオンシートに座ってみたところ、個人的にはCBR650Rの方が好み。
ステップの位置はCBR650Rの方が後方、高めとなっており、着座位置との兼ね合いで、膝の曲がりも深い印象。軽いステップ入力でクイックな旋廻が決められます。対してニンジャ650は足元もゆったりとしたライディングポジションです。
なににせよミドルクラスのバイクは一般的な交通事情にもベターマッチしていると思えますし、扱いやすいため、一度ハマれば長く付き合うことができます。普通自動二輪免許クラスと比べて質感も高いので所有欲も満たしてくれることでしょう。
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