掲載日:2024年06月25日 試乗インプレ・レビュー
取材協力/KTM JAPAN 取材・文/佐川 健太郎 衣装協力/KUSHITANI
KTM 1390 SUPER DUKE R/R EVO
“THE BEAST” の異名を持つKTMスポーツネイキッドの最高峰に第3世代が登場。排気量アップとともに進化した1390スーパーデュークR/R EVOである。新たなデュークシリーズを象徴する新デザインの縦2灯LEDヘッドライトを中心に、よりコンパクトで戦闘的なフォルムに刷新。30周年を意識した初代ビーストを思わせる鮮やかなニューカラーが与えられた。
初代から伝統の75度Vツインエンジンは改良型LC8となり、1:1のパワーウェイトレシオを達成すべく重量を最小限に抑えながらボアを108mmから110mmに拡大し排気量1350ccにアップ。新型カムシフトによる可変バルブ機構が組み込まれ全域でパワーとトルクを向上させた。最新の排ガス規制を満たしながら最高出力は従来の1290スーパーデュークRから+10psの190 ps /10,000 rpm、最大トルクも+5Nmの145 Nm/ 8,000 rpmを実現している。
シャシーと足まわりも先代をベースにアップグレードされ、前後サスペンションには最新のWP製APEXを装備し、快適性を犠牲にすることなく高速安定性と低速時の俊敏性を向上。また、ブレンボ製Stylemaモノブロックキャリパーにより究極のコントロール性と最大限のブレーキ性能を実現。新採用のMCS(マルチクリックシステム)マスターシリンダーによりレバー比の調整も可能とした。
電子制御も刷新され、5インチTFTディスプレイで設定できる5つのライドモード(RAIN、STREET、SPORT、PERFORMANCE、TRACKはオプション)を搭載。もはや定番となったローンチコントロールとクルーズコントロールを標準装備。コーナー進入速度の調整を容易にするエンジンブレーキコントロール(オプション)も搭載された。
一方、EVOには第3世代WP APEXセミアクティブサス(SAT)を採用。可変ダンピング機構を備え、スイッチひとつで快適なツーリングからサーキットレベルの走りにも対応。ライドモード毎に自動でダンピングを最適化する他、TFT画面から5つの異なるダンピングモードを選択可能。また、ライダーの体重によってプリロードを自動調整する3段階のオートレベリング機能も装備するなど、シチュエーションに合わせて簡単にサスペンション設定を最適化できるシステムが組み込まれている。
990スーパーデュークから始まったKTMのフラッグシップもついに1390にスケールアップ。車体の基本構成は従来の1290を踏襲するが、サスペンションやブレーキ、電制もKTMらしくアグレッシブに進化熟成されている。
試乗会はスペインのアルメリア・サーキットで開催された。日本に導入される「EVO」を中心に試乗したが、新型ビーストで走ると今まで何回か経験済みのコースが狭く感じられる。跨ると若干スリムになった車体のせいか足着きも悪くない。取り回しも軽く、とても1.4L近い排気量のメガマシンとは思えない。新型LC8エンジンは排気量アップしているにも関わらず、意外にもジェントルで回転もスムーズ。さすがにこの馬力を伝えるクラッチはやや重いが、1速に入れるとスルスルとピットレーンを走り始めた。
各ギアを使って慣らしながら回転数を上げていくが、1万rpm過ぎまで軽々と回るVツインはその高回転域でも振動は少なくシルキー。かつてのビーストのようにドコドコ脈を打ち、ガオガオ吠える荒々しさはない。と安心したのも束の間、アクセルを大きく開けた途端、野獣の本能が目覚めたように猛然とダッシュ。3速からでも楽々フロントが浮いてくる凄まじいパワーに目が追い付かない。遠くに霞むコーナーを睨みながら風圧と闘いながらスロットルを開け続けるが、ふとメーターを見るとあっという間に260km/hを越えていた。左の高速コーナーから車体を傾けながらのフルブレーキングでは最高峰のブレンボが強烈に速度を削り取っていく。コーナリングABSが作動していると思うが、それを感じることはできないほど車体の挙動は安定している。
続くシケインではミドルクラス並みの切り返しの俊敏さに体の動きが付いていけない。そして再び立ち上がり加速では最強のトラックモードでもトラコンのインジケーターが光りっぱなしのまま、標準装備のミシュラン・パワーレースGPの強力なグリップを路面に叩きつけていく。非日常世界……。もはやサーキット以外では使える場所はないと思えるほど、スポーツ性能を研ぎ澄ました異形のネイキッドだ。
今回は海外試乗会だったのでSTD版とも言える「R」にも試乗したが、「EVO」に比べるとソリッドな乗り味で路面からのフィードバックもダイレクトな印象。それだけに路面の凹凸などは正直に拾ってくるので、特にコーナリング中などは神経を使う場面もあった。それが電子制御サスペンション搭載のEVOだと、同じ路面とは思えないほど車体の動きが安定していてスムーズ。ずばり「乗り心地がいい」。
エンジンも車体もRと同じだが、リアルタイムで路面やマシンの状況を読みながら前後サスを最適化してくれるため、サーキット走行でもめちゃくちゃ快適。常に路面からタイヤが離れない安心感があるから、フルバンクでもあまり路面に気遣うことなくアクセルを開けていける。また、コーナーの立ち上がりでもSATによりリアサスが瞬時にダンパー調整を行うため踏ん張り感が違う。依ってフロントの接地感を保ちながらフル加速に持ち込めるなど、「EVO」はどの場面をとっても安心感のレベルが一段高いと感じた。
その上、5種類のライドモードやコーナリング対応のABS&トラコン同様、サスセッティングもTFTディスプレイ上で自分好みに調整できる。工具なしにスイッチひとつでプロライダー並みのセッティングができてしまうのがEVOの価値だろう。万人向けではないかもしれないが、超絶を求める人は是非!
縦2灯プロジェクタータイプのLEDヘッドライトなど見た目も大きくイメチェン。鋭さを増したタンクスポイラー下にエアロウイングレットも新採用。ブレーキランプとウインカーの統合などより戦闘的なスタイルへと進化。
KTM伝統のVツイン「LC8」エンジンはボアを2mm拡大し排気量は1290から49ccアップの1350ccへ。大径スロットルボディや可変バルブの新採用により最高出力も10psアップの190psへと向上。5速と6速のギアリングも見直された。
再設計されたエアインテークとエアボックスにより燃料タンク容量は1.5Lアップの17.5Lに増量。航続距離は300kmを超える。タンク側面はフルブレーキング時に膝でサポートしやすく、コーナリング時に肘でホールドしやすいデザインに。
シート高834mmは従来と同等レベルだが、Vツインのスリムさと軽量な車体のおかげで足着きのプレッシャーは少なめ。シート表皮は滑りにくい素材を採用。リアシートの面積と厚みもそこそこで短距離ならタンデムもこなせそうだ。
シンプルかつ凝縮感のある骨格。新型LC8エンジンを強度メンバーとして利用する特徴的なクロモリ鋼管スペースフレームは、先代1290スーパーデュークRをベースに剛性バランスを最適化。特にヘッドパイプまわりが強化されている。
自動プリロード調整を備えた第3世代WPセミアクティブサスを前後に採用。可変ダンピング用の電子制御磁気バルブを備え、ストロークセンサーとIMUから得られる情報に基づいてリアルタイムでダンピングを最適化。TFT画面から5つの異なるダンピングモードを選択可能でストリートでの快適性からサーキットまで幅広く対応する。
φ320mmダブルディスク&ブレンボ最高峰Stylemaラジアルモノブロック4Pキャリパーがスーパーバイク並みの強力かつ正確なブレーキングを実現。ボッシュ製6軸IMU制御によるコーナリングABSやスーパーモトABSを装備。
ブレンボ製新開発のMCS(マルチクリックシステム)マスターシリンダーを新採用。ブレーキレバーのスパンとレシオを細かく調整可能になった。また、新しくなったブレンボ製クラッチマスターシリンダーはエア抜きする必要ないセルフベントシステムを装備。
軽量デュアルコンパウンド採用のミシュラン・パワーGPタイヤを新たに標準装備。重量も従来タイプより1.2kg軽量化されバネ下重量が向上している。サーキット走行での圧倒的なグリップ力と優れたハンドリングが魅力だ。
5インチTFTディスプレイは耐傷性と耐グレア性の高い接着ガラスタイプで、新しいグラフィックにより各機能を分かりやすく表示。メニュー構造全体も再設計され少ない操作で多様な機能にすばやくアクセス可能だ。
左側スイッチボックスでディスプレイ画面に表示された機能をコントロール。ライドモードやコーナリングABS&トラコン、エンブレ、ウィリー&ローンチコントロールなどの電子制御をセンター部にある4方向ジョイスイッチで設定可能だ。
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