掲載日:2022年11月24日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
aprilia TUONO 660 FACTRY
これまでに多くのモーターサイクルブランドを輩出してきたイタリア。それらに共通して言えることは、モノづくりに対する作り手の熱い想いだ。その情熱がしっかりと具現化されたイタリアンブランドのバイクを手にしたことで、人生が変わってしまったという人は後を絶たない。
アプリリアもまた、そういった強い訴求力によってファンを増やし続けてきたブランドの一つだ。様々なロードレースシーンで多大な活躍することで人々を魅了し、レースで培った技術を用いて開発される市販モデルは手強さと扱いやすさの両面を併せ持つアプリリアならではの味付けがなされている。その中でもストリートネイキッドとして長年作られてきたトゥオーノシリーズは、同社の中核を担っているともいえるモデルだ。今回はその最新モデルにあたるトゥオーノ660ファクトリーにフォーカスを当てる。
トゥオーノはアプリリアのスーパースポーツモデルであるRSシリーズをベースにバーハンドル化などを行ったスポーツネイキッドモデルだ。今回取り上げるのはRS660と対を成すモデルとなるトゥオーノ660であり、さらにそれを装備の拡充やチューンアップなどを施したホットバージョンにあたるトゥオーノ660ファクトリーである。
スタンダードモデルにあたるトゥオーノ660は2021年にRS660と共に登場していたが、2022年夏に上級バージョンとして追加導入されたトゥオーノ660ファクトリーは、最高出力を5馬力引き上げ100馬力に、ファイナルスプロケットのショート化、ザックス製フルアジャスタブルリアサスペンションの採用など、走りの性能に磨きが掛けられている。
アプリリアのニューマシンと耳にして、私の頭にまず浮かぶのはカリフォルニア州パサデナにあるピアッジオグループのデザインを手掛けるヘッドオフィスである、PADC(ピアッジオ・アドバンスト・デザインセンター)のことだ。その主幹を務めるミゲール・ガルーツィ氏は、数多くの名車をデザインしてきたことはもちろん、人々の心を惹きつける美麗なスタイリングの中に、使いやすさやメンテナンス性の良さなどを上手く落とし込む稀代の天才だと私は考えている。だから今回のトゥオーノ660ファクトリーも、まずは外観からじっくりと眺め、ポイントを探ることから始めることにしたのだ。
実車を目の前にしまず興味を持ったのは、メインフレームはしっかりと持たせながらも、エンジンを強度メンバーとし後端にスイングアームピボットを設けたフレームワークだった。共通のコンポーネンツを使用するRS660と同様ではあるのだが、トゥオーノの方が大幅にカウル部分が少ないこともあり強調されて見える。この手法によりホイールベースを短く設定することと軽量化を両立する狙いがあるのだと思われる。
さらにネイキッドモデルではありながらも装備されているフロントセクションのカウルは、RS660と比べてかなりシェイプアップされておりシャープな印象を受ける。それだけでなく、レイヤードフェアリングとすることでダウンフォースをはじめとした整風効果を引き出している。ユニークでありながらも意味のあるポイントが散りばめられておりガルーツィの手腕が光る。
エンジンを始動し走り出す。ひとクラス排気量の小さなモデルではないのかと思わせる程に車体が軽い。それもそのはずで後から調べてみたところ乾燥重量は169キロしかないのだ。交差点を二つほど曲がったところで、リアタイヤの接地状況をダイレクトに伝えてくれることがすぐにわかり感心させられた。ライディングポジションやサス設定など様々な要因が考えられるが、スイングアーム及びリアサスペンションの取り付け位置からなるということが大きい。
とにかく走り出した瞬間から、気持ちよく、楽しい。ライディング時の姿勢は程よい前傾となり、脊椎の曲がり具合や太ももの力の入れ具合など、ハンティングをするヒョウのようなイメージをもたらすポジションとされ、まさしく人車一体となる感じだ。そんなトゥオーノ660ファクトリーを駆り、ステージを変えながらテストを続けて行く。
メーターディスプレイを見ると、デジタルバー表示されているタコメーターが3000回転中盤からは目盛がそれ以下の縦方向から、横方向に変わり伸びて見やすくなっていることが分かる(メーターディテールカット参照)。昔のレーサーレプリカなどでは低回転トルクがないこともあり3000回転以下は表示していないというモデルがあり、それを連想した私は4000回転から上が常用域なのかと当初は思ったが、スロットルの開けはじめからしっかりとパワフルなトルクがあり、しかも特性がマイルドで扱いやすい。よってストップアンドゴーを繰り返すような市街地でもとても乗りやすいのである。
高速道路を使うと、フェアリングの防風効果の高さがしっかりと伝わってくる。多くのバーハンドルモデルよりも快適と言える。レブリミッターが作動する11000回転近辺までフラットかつ強烈な加速を発してくれる上、手足のように車体を動かすことができるので快活だ。
トゥオーノ660ファクトリーはスタンダードモデルからスプロケが変更され、より加速重視のセッティングとなっている。なのでスロットルワーク一つで、ポンポンとフロントアップさせるような走りを楽しむことができる。リアサスペンションの上部取り付け位置が燃料タンクの後端あたりとされていること、フロントタイヤがライダーに引き寄せられているなどの相乗効果で、ホイールベースは極端に短く感じられ、まるで一輪バイクを走らせているかのような感覚なのだ。
誰でも気持ちよくスポーツライディングを楽しめるということはわかったが、それでもスポーツライディングのイロハ的な部分を良く理解していないとフロントの接地感が希薄になったり、思うように曲がっていかないという場面などもあるだろう。ただレーシングマシン直系の6軸センサーも備えているため、かなり高い次元でコンピュータにより走行に対する整合性のバランスを保つべく車体制御を行ってくれる。痛快で安全、これを両立するのはアプリリアが生み出す最新高性能スポーツバイクの大きな魅力である。
トゥオーノ660ファクトリーはカテゴリー的にはネイキッドモデルとして周知されているが、ガルーツィ曰く「私たちが創っているのはトゥオーノであり、トゥオーノは独自のコンセプトで、その他のネイキッドバイクとは全く異なる」とのこと。ただ一つ言えることは極上のストリートスポーツバイクに仕上がっているということだ。スタンダードモデルとファクトリーを比べると、やはり後者の方が、より所有欲を満たしてくれるパッケージとされている。トゥオーノ660ファクトリーとRS660とはスペック上では同等の仕様でありながらも、乗り比べるとそれぞれのキャラクターが確立されていることが分かる。後は自身の使い方次第なので、求める方をしっかりと吟味し選びたい。
ボアストロークを81×63.93mmとする排気量659cc水冷DOHC並列2気筒エンジンを搭載。ファクトリーグレードはスタンダードと比べて最高出力が5馬力引き上げられた100馬力となっており、これはRS660と同様のスペックとなる。
φ41mmのKYB製倒立フォークは、リバウンド、コンプレッション減衰量調整可能とされたフルアジャスタブルタイプが採用される。キャスターが立たされておりハンドリングはクイック。ブレーキはブレンボ製対向4ピストンキャリパーを左右にラジアルマウントする。
フロントにはカウルが造形されており、ネイキッドモデルの中でもいわゆるストリートファイターというカテゴリーに分類することができる。アプリリアのスポーツモデルの意匠を現している顔つきだ。サイドのパーツはウイングレットとを兼ねる形状となっている。
シート高は820mm。低いと言える数値ではないものの、車体が細いことや、なんといっても車重が軽いために、扱いに不安を感じることはないと思う。トゥオーノ660ファクトリーではシングルシートカウルが標準仕様となっている。
昨今作られるツインエンジンモデルの”音質”には感心させられるものがあるが、トゥオーノ660ファクトリーもまた素晴らしい排気音を楽しめる。なお、サイレンサーを車体下部にレイアウトすることでマスの集中化、低重心化をもたらしている。
トゥオーノ660ファクトリーではリアサスペンションもリザーバータンク別体式のものが搭載され、スタンダードモデルより高性能な仕様とされている。リアタイヤからの路面状況のインフォメーションの良さには感心させられる。
上面が水平ラインにデザインされた独特な形状の燃料タンク。容量は15リットルとボリューミーでありながらも、内ももが当たる部分が大胆に削られておりコンパクトなライディングポジションをもたらす。保護パッドはオプション設定。
ブラックアウトされたテーパーバーハンドルは、適度な幅でコンパクトなライディングポジションとなる。スイッチ類の操作はメニュー項目から下の階層へ進むのに、ある程度慣れが必要。クラッチレバーはワイヤー式とされ操作感が良い。
公道用3種、サーキット用2種の計5パターンのライディングモードを用意。6軸センサーを使用したフルパッケージAPRC(電子制御システム)を装備しているのもポイント。文中で記述したタコメーターの表示もチェックしてほしい。
テール周りの造形に関してはRS660と基本的に同じ。トゥオーノ660のスタンダードモデルではタンデムシートが標準装備なのに対し、ファクトリーバージョンではシングルシートカウルが装備されよりスポーティな印象。カーボンナンバーステーはオプション設定。
左右非対称形状の湾曲アルミスイングアームを採用。リアタイヤの位置はかなりライダーに近いと言え、路面状況がダイレクトに伝わってくる。タイヤはフロント120/70ZR17、リア180/55ZR17で、現代のスポーツバイクのスタンダードと言えるサイズ。
トランスミッションは6速で、アップ、ダウンどちらもクラッチレバー操作の要らないクイックシフトが標準装備となる(スタンダードモデルではオプション設定)。スタンダードモデルからドライブスプロケが変更され、加速重視の設定となっている。
シート下にはユーティリティスペースが確保されている。ETC車載器と+α程度の物ならば収納できそうだ。ケースパーツを外すとバッテリーにアクセスすることができる。
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