掲載日:2022年09月29日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
HONDA CB250R
2018年にCB250Rが登場した際の開発コンセプトは「日常の移動を遊びに変えるスポーツロードスター」というもの。外観デザインは同時期に登場したCB1000R、CB650R、CB125Rと共通の、ギュッと詰まった凝縮感のあるダイナミックな台形型プロポーションで統一してあり、“ネオスポーツカフェ”と呼ばれる新世代CBシリーズのコンセプトを象徴するものとなっている。CB250Rは250ccクラスとは思えない高級感と、軽い車体を活かした抜群の運動性能もあって、瞬く間に250ccクラスネイキッドの人気モデルとなった。初代モデルは少々腰高なイメージがあったが、2019年にフロントサスペンションの見直しやシート高を下げるなど改良が行われ、弱点を解消。そして今回の2022年モデルでは、さらにブラッシュアップが図られている。
まず注目したいのは、フロントフォークに新たにショーワ(日立 Astemo 株式会社)製のSFF-BP倒立フロントフォークを採用したことだ。これは「セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグピストン」の意味で、左右のフォークにプリロードと減衰という別々の機能を持たせたもの。これによって従来の倒立フォークに比べて軽量化と、路面追従性のアップを実現している。
もう一つの注目点は、アシスト&スリッパークラッチの採用だ。前モデルにおいて、クラッチ操作はそれほど重いと感じることはなかったが、今回の改良で操作は一段と軽くなり、左手の負担はかなり減った。同時に、シフトダウン時のエンジンブレーキによる後輪のホッピングを抑制する機能も付加されたため、不用意なシフトダウンで車体の姿勢が乱れる心配がほぼなくなり、より扱いやすくなってライダーの疲労も軽減することに成功している。
装備面ではLCDメーター内の表示に、新たにギアポジションインジケーターが追加された。一見地味な進化だが、従来モデルのユーザーからはぜひ欲しい装備の一つとして挙がっていたものなので、効果的なブラッシュアップと言えるだろう。しかしハザードランプが装備されていないのは相変わらずで、残念なポイントだ。ちなみにSFF-BP倒立フォークやメーター内ギアポジションインジケーターなどは、弟分であるCB125Rには以前から採用されており、排気量が大きいモデルの方が装備が貧弱だったというねじれ現象が、今回のマイナーチェンジで解消されたことになる。
水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒249ccのエンジンは平成32年(令和2年)排出ガス規制に対応したものとなり、最高出力は20kw(27PS)、最大トルクは23N・m(2.3kgf・m)で前モデルと同じだが、発生回転数が少し変わっている。このほか、マフラーエンドのデザインやエキパイ&ラジエターの色処理など細かい変更点はあるものの、高張力鋼のスチールフレームやIMU(車体姿勢推定システム)付きのABSなど全体の車体構成やデザインは変わることなく、上質で高級感のあるイメージはそのままだ。
CB250Rのシート高は795mmで、このクラスのネイキッドモデルとしては標準的と言っていいだろう。2019年のマイナーチェンジでシート高は5mm下げられ、サスペンションの沈み込みやステップ形状の見直しも合わせて行われたため、足つき性は改善されている。ハンドル幅はやや広め、シートに座ると体との距離が近く、ライディングポジションはかなりコンパクトな印象だ。
走り出すと、低速トルクが十分にあることがはっきりとわかる。街中ではエンジンを3000~4000回転まで回すだけで普通に走れてしまうし、ちょっと力強さが欲しいなと思った際には5000~6000回転まで引っ張れば、かなり気持ちのいいダッシュを見せてくれる。このあたりのエンジンフィールは加速感も含めて、マイナーチェンジ前とほとんど変わらない。車体そのものがコンパクトであり、重量の軽さと車体バランスの良さから来る走りやすさも相変わらず健在だ。混雑するシティランでもヒラリヒラリと身軽に切り返し、泳ぐようにスムーズな走りができるので、通勤や通学の足として使ってもストレスは少ないはず。というより、このマシンならむしろその時間を楽しめるかもしれない。
変化を感じたのは、やはり足周りだ。特に新たにSFF-BPを採用したフロントフォークの動きが素晴らしい。アスファルトの継ぎ目やちょっとした段差、マンホールの盛り上がりなど、走っていると道路上には意外と凸凹があるものだが、それらを超えた時に伝わるショックが以前よりも明らかに小さく感じるのだ。前モデルのサスペンションも悪くはなかったが、段差を超えた後の跳ねるような感じがグッと抑えられ、よりしなやかに地面を捉えているイメージだ。走りの質感自体が向上した、と言ってもいいだろう。
郊外のちょっとしたワインディングを走ってみた際にも、足周りの進化を実感した。コーナーリング中に路面の段差やうねりに突っ込んだ際に車体の無駄な挙動が減り、より安心して走りを楽しめるようになったと感じる。エンジンの吹け上りはスムーズそのもので、登りのきつい峠などでは7000回転以上をキープすれば、荒々しく、とがった走りも見せてくれる。ただその際は振動もかなり増えるため、「よし、気合を入れて走るぞ!」という気持ちの切り替えをしたほうがいいだろう。それは極端な例だとして、街中から高速道路、そして峠道など、ツーリングとして乗り続けた時のことを考えれば、ライダーの疲労度が減り、その分走りを楽しめる要素が増えたことは間違いない。
意外と便利だったのが、新たに装備されたギアポジションインジケーターだ。トルクやパワーの大きい大型バイクなら、なくてもそれほど困らない装備だと思うが、シフトチェンジの多い250ccクラスだと、「今何速で走っているのか?」を確認したくなるシチュエーションは意外と多いもの。いつも同じ道でコーナーリングの練習をする、なんて場合にも、ギアが何速なのか数字でしっかりと認識できるのはありがたい。
高級感や乗りやすさはそのままに、足周りを中心に進化を遂げたCBR250Rの価格は56万4,300円。これはかなりのバーゲンプライスだと思う。手に入れたなら、普段使いからツーリングまで、楽しいバイクライフをもたらしてくれる“良き相棒”となることだろう。
LEDヘッドライトには上下に弓状の導光部が設けられ、アクセントになっている。ホンダ伝統のウインカーポジションも採用。
多機能だが見やすくまとめられている反転表示のLEDメーター。右端には、新たにギアポジションインジケーターを備えた。
ハンドル左側のスイッチボックスは、大きめのホーンボタンが中央にあるホンダ独自のタイプ。前側にはパッシングスイッチも装備。
ハンドル右側のスイッチボックスはシンプル。高速に乗れる排気量のマシンとしては、ハザードを装備してもらいたいところだ。
ハンドルバーはクランプ部が28.6mm径のテーパータイプを採用している。幅は広めでマシンを押さえ込みやすい印象だ。
新たに採用されたショーワ(日立 Astemo 株式会社)製のSFF-BP倒立フロントフォーク。従来型に比べて路面追従性がアップしている。
2022モデルでエンジンは平成32年(令和2年)排出ガス規制に対応したが、最高出力や最大トルクは変わらない。エキパイが艶消し黒からブロンズ色に変わり、アンダーガードの形状も変更されている。
ラジエターの大きさに変化はないが、無塗装のシルバーだったものが、ブラック塗装に変更された。
シートはしっかりと段のついたセパレートタイプ。スポンジは硬めだが立体的な形状で足つき性に配慮してある。
リアシートを外すと小さなスペースがある。ETC車載器がギリギリ入るぐらいの大きさだ。
リアシート裏側に収納されている車載工具はシンプルで、スパナとプリロード調整用のレンチのみ。試乗した車両にはスペアヒューズも入っていた。
リアシート下にはフック状のヘルメットホルダーがあるが、スペース的に厳しいのでワイヤー等で延長したほうがいいだろう。
ダンパー室内のオイルとガスが混ざることを防止する分離加圧式のリアサス。プリロード調整が可能だ。
アルミ製のステップはローレット加工されたスポーティなタイプだ。ペダルはブレーキ、シフトともにスチール製となっている。
タンデムステップもローレット加工が施されたアルミ製を採用。ホルダーの剛性感も高い。
サイドスタンドは短めで安定感はイマイチ。ぜひとも改良を望みたいポイントだ。
フロントブレーキのディスク径は296mmで、フローティングタイプを採用。キャリパーはニッシン製の対向4ポッドラジアルマウントとなっている。
リアブレーキのディスク径は220mm。ABSは急制動時に後輪が浮き上がるのを効果的に抑制するIMU(車体姿勢推定システム)を装備している。タイヤの銘柄は前後ともにダンロップのSPORTMAX GPR-300だ。ちなみに今回、マフラーエンドやヒートガードの形状が変更されている。
テールランプやウインカーなど、灯火類はすべてLEDを採用。ナンバープレートホルダーを兼ねたリアフェンダーはかなり後ろに張り出している。
テスターは身長170cmで足は短め。CB250Rのシート高は795mmで、片足だとかかとが地面に着くが、両足だとなんとか母指球が接地する程度だ。しかし車体が軽いため、不安はあまりない。
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