掲載日:2022年06月09日 試乗インプレ・レビュー
取材協力・写真/GASGAS MOTORCYCLES JAPAN 取材・文/佐川 健太郎
GASGAS SM700
GASGAS(ガスガス)はオフロード界では知られたスペイン発の名門ブランド。トライアルやエンデューロなど主にオフロードレースで活躍、世界タイトルを獲得するなど名を馳せてきた。2019年からはKTMグループの傘下となり新たな体制でニューモデル開発に注力している。そのGASGASから初のストリートモデル、SM700/ES700がデビュー。スペインでメディア向け試乗会が開催された。
SM700は水冷4スト単気筒エンジンを軽量クロモリ製トレリスフレームに搭載したビッグモタードである。エンジンと基本骨格はオフロードモデルのES700と共通だが、足まわりはオンロード寄りに作られているのが特徴。WP製前後サスペンションに17インチキャストホイールを装備し、コンチネンタル製ハイグリップタイヤを履く。電制も2種類のライドモードとリーンアングルセンサー付きABS&トラコンに加え、スリッパークラッチを標準装備するなど、必要な機能をコンパクトに詰め込んでいる。
鮮やかなレッドに大きくGASGASのロゴ。ラテンの血がたぎるようなアグレッシブなデザインだ。GASGASとは「アクセル全開!もっと開けていけ!」というような意味だとか。ブランド名からしてかなり過激だ。エンジンは低中速からパンチがあってトルクフル。スロットルを大きく開ければ1速はもちろん、2速からでも楽々フロントが浮いてくる。ビッグシングルらしい小気味よい鼓動感もありつつ、1万rpm近くまで軽々と伸びていくスムーズさが現代的。スペックを見るとかなりの高圧縮でショートストロークに振っている。味わいというよりは戦闘力を重視したエンジンだ。単気筒としては驚異的な最高出力75ps(55kW)のパワーに、車重は148kgと250ccトレール並みの軽さ。スペックだけ見てもその走りの過激さは想像できるはず。
6速ミッションはシフトタッチも節度感があってスムーズで、アップ&ダウン対応のクイックシフターのおかげで走行中はほぼクラッチいらず。コーナー手前でのやや強引なシフトダウンでもスリッパークラッチが急激なエンブレをいなしてくれることも含め、ギアチェンジが劇的に楽になっている。
ハンドリングは意外にも「ねちっ」としていて安定感がある。鋼管トレリスフレームの骨格は剛性感があって、ハイスピードな欧州の高速道路でも安心してアクセルを開けられる。カウルやスクリーンを持たないので風圧はもろに受けるが、場所が許せば150km/hオーバーでの高速クルーズもこなせるだろう。
ワインディングはSM700にとって大得意のステージだ。軽い車体とハブセンターにマスを集中させた17インチキャストホイールのおかげで軽快。ちょっと足が長めのスリムなネイキッドといった感じで、WP製の前後サスペンションの豊富なストローク量を生かしてリズミカルに切り返していける。ショートサーキットも試走してみたが、軽さと瞬発力を生かしてスーパースポーツと張り合えるほどの走りを見せつけてくれた。
一歩突っ込んでみたい上級者にはスイッチひとつで切り替わるライドモードの「モード2」がおすすめ。いわゆる“スーパーモト”モードで出力特性がよりアグレッシブになり、リア側のABSが解除されてトラコンも最小限になる。さらにエキスパート向けにはトラコンの全解除も可能。ちなみにコース内ではGASGASのテストライダーが進入スライドさせたりパワースライドでコーナーを立ち上ったり、と憧れのモタード走りでSM700のポテンシャルの高さを誇示していた。
過激さの一方で、街乗りも十分楽しめる素直なストリートバイクでもある。極低速でもエンジンはスムーズで、弾けるトルクを生かしてキビキビと走れるし、ハンドル切れ角も十分あるのでUターンも普通にできる。とはいえ、多くのライダーが気になるのはやはり足着きだろう。たしかにシートは高めだが、車体がスリムで軽いのが救い。足を着くときに前もって腰をずらすなどコツをつかめば安心感が高まるはずだ。
派手なカラーと刺激的なスタイルは目立ち度バツグンだし、モタードとして研ぎ澄まされた走りのポテンシャルは間違いなく一線級。でも、SM700はれっきとしたストリートモデルなのだ。個人的には、そんな戦闘マシンであえてのんびりツーリングしたり、お洒落に街を流すというのもまた楽しいと思う。