掲載日:2021年06月03日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
HONDA GB350
348ccの空冷単気筒エンジンを搭載し、クラシカルなデザインで2021年4月に発売されたのがホンダの新型ロードスポーツ、GB350だ。昔ながらのバイクらしいベーシックな外観を持つモデルだが、果たしてその実力はどんなものだろうか。実際に試乗し、その魅力を探ってみた。
2021年4月に新登場したGB350は、前年にインドで発表された「ハイネスCB350」の日本向け仕様だ。その開発コンセプトは、「日常から遠出まで~The Honda Basic Roadster」というもの。日常的な扱いやすさはもちろん、未知の道や景色と出会うツーリングでの感動など、経験やスキルを問わず多くのライダーに楽しさや豊かな体験を提供するマシンを目指したという。これはつまり、バイクの原点に立ち返る、という意味にも思える。
搭載されるエンジンは空冷単気筒OHCの348ccで、最高出力は20PS。スペック上では同じホンダのレブル250の26PSよりも非力な値となっている。しかし、内径70mm×行程90.5mmという超ロングストロークを持つエンジンは、力強いトルク感と鼓動、そして粘り強さを実現したという。ともすればスポーツ性能やパワー、先鋭的なデザインなどが注目されがちな日本市場において、あえてこのような“乗り味”を重視したモデルを投入したのは、「バイクの楽しさはスピードやパワーだけじゃない」という、ホンダからのメッセージなのだろう。
しかしこのGB350は単なるノスタルジックなマシンではない。新設計のセミダブルクレードルフレームはスチールのしなやかさを活かしつつ、コンピューターによる最新の解析とホンダ独自のシミュレーションによって、剛性と快適なライディングバランスを追求。すべての灯火類をLEDとしたほか、アシストスリッパークラッチや前後独立制御のABS、さらにはHonda セレクタブル トルク コントロール(HSTC:いわゆるトラコン)も採用するなど、現代のバイクに求められる装備もしっかりと搭載している。タンクやサイドカバーも、一見すると単純な丸みを帯びたデザインに思えるが、よく見ると要所でシェイプされるなど、意外と複雑な形状で、考え抜かれた美しい造形となっている。
GB350を目の前にすると、端正という言葉が思い浮かぶ。基本に忠実できちんとしていながら、センタースタンドで自立する姿は可愛らしくもあり、さながら「ちょっと愛嬌のある優等生」といった雰囲気だ。シートにまたがると、そのポジションはどこか懐かしい。1970年代後半から80年代初頭ぐらいのマシンに乗っているかのようなイメージがある。
エンジンをかけると、マフラーからは「ストトトト……」という軽やかな音が聞こえる。意外とおとなしいサウンドだな、と思いながらスタートすると、「タタタタン!」という歯切れのいい音に変化した。音とともに、体には心地いい鼓動感が伝わってくる。特に1速、2速でちょっと上のほうまで回転を引っ張りながら加速した時の感じは「スパパパンッ!」と勢いが良く、これが本当に気持ちがいいのだ。実際の加速感はけっこうマイルドで、決して速いわけではないのだが、ついついシフトダウンからの再加速をして、小気味いい鼓動感を楽しんでしまう。
サスペンションは前後ともに少々硬めの印象だが、大径インナーパイプを有するフロントフォークのかっちりとした剛性感や、フロント19、リア18インチのタイヤとも相まって、コーナーでもしっかりと踏ん張りが効き、とても安定した走りが可能だ。乗車姿勢は自然でとても楽なので、長時間乗り続けても疲労はとても少ないと感じた。
高速道路においても安定性は変わらず高く、横風や路面の継ぎ目などでも不安は全くない。100km/h程度の巡航では不快な振動などもほとんど感じられないが、上体が立ち気味のポジションなので走行風の影響をダイレクトに受けることになる。走行車線を走っていて大型トラックなどを追い越す際には、4速にシフトダウンしてパワーを引き出さないと、スマートな追越しは困難だ。
GB350は大型バイクのような俊敏さこそないものの、一般道を走る分には必要十分な運動性能を確保している。何よりも気軽に乗れて疲れが少なく、音も鼓動も乗っていて楽しい、と思わせてくれる魅力にあふれている。もし手に入れたなら、日常の足としてはもちろん、ツーリングに連れ出しても「バイクって楽しい」と常に感じさせてくれる、素敵な相棒になることだろう。
外観はレトロだが、灯火類はすべてLEDを採用。ホンダ伝統のウインカーポジションも装備している。
スピードメーターはアナログの指針式で、パネル内のディスプレイにはギアポジションや燃料計、時計などを表示。インジケーター類は右側に配置されている。
ハンドル左側スイッチはパッシング兼用のヘッドライト上下切り替えとホーン、ウインカー。ツヤのあるボックスと小さめのホーンスイッチは最近のホンダ車と少し仕様が違う。
ハンドル右側にはスターター/キルスイッチとハザードを配置。バーエンドのパーツは簡易的なものだ。
ハンドルバーは広めで手前気味にセットされており、ゆったりしたポジションとなる。給油口のキャップはタンクから外れるタイプだ。
空冷単気筒OHC348ccのエンジン。最高出力は20PSとスペック上は非力だが、ロングストロークの鼓動感が楽しく乗ってみると全く気にならない。フィンの造形やメッキパーツも美しい。
シートは一体型だがステッチと段差で前後が分けられている。落ち着いた茶色はどの車体色ともマッチする。
リアサスはツインショックタイプ。ダンパー内部に窒素ガスを加圧封入することで、応答性を高めている。プリロード調整も可能だ。
パイプ状のグラブバーはシンプルだが握りやすい。荷掛フックにもなるボルトやヘルメットロックなど、ツーリングに便利な機能も備えている。
チェンジペダルは珍しいシーソー式を採用。つま先をかき上げなくてもかかとで踏めばシフトアップが可能なので、靴にやさしい構造だ。
タンデムステップはスポーティなもの。ホルダーはスイングアームのピボット部から出ており、かなりがっちりとしている。
センタースタンドを標準で装備。チェーンのメンテナンスなどで重宝する。
レトロな雰囲気がありながら、モダンなイメージも取り込んだテールランプ。写真はブレーキとハザードを点灯させている状態だ。
燃料タンクは一見丸いだけと思わせて、実は複雑にシェイプされている。エンブレムも立体的で凝ったものを採用。
フロントのタイヤサイズは100/90-19M/C 57H。銘柄はダンロップのGT601だ。ブレーキはシングルだがディスク径は310mmと大きく、制動力は十分。
リアタイヤのサイズは130/70-18M/C 63H。ブレーキのディスク径は240mmとなっている。
ライダーの身長は170cmで足は短め。GB350のシート高は800mmでそれほど高いわけではないが、サイドカバーが膨らんでいるので足つきはそれほど良くはない。しかし片足ならかかとまで、両足でも母指球までしっかり接地するので不安はない。
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