

掲載日:2016年09月07日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川健太郎 写真・動画/山家健一 衣装協力/HYOD
イメージしていたよりずっとコンパクトな車体だ。V9ボバーは今年の東京モーターサイクルショーで展示されていたのを見ていたが、クルーザーの印象があったので記憶の中では大きな車格になっていた。
でも、目の前のV9は華奢なほどスリムにまとまっている。ダークトーンのカラーリングも引き締め効果があるのだろう。タンクにペイントされたアンシンメトリーの橙色が映える。ただ、真後ろから見ると、車体から左右に突き出したツインシリンダーがモトグッツィであることを主張している。このアンバランス感がまたいい。
跨ってみると、さらにスリムさを実感。シリンダーなどのボリューミーな部分はヒザの前にあるので、並列エンジンのように大きな塊を挟み込んでいる感じがない。低いシートのおかげで足着きもすこぶる良い。ライポジは上体が起きたネイキッドのような感じでクルーザーっぽくなく、やや前寄りのステップ位置も実用的だ。シートの座面がフラットなので、体格や好みで着座位置をいろいろ変えられるのも便利だ。一点、モトグッツィの伝統でもあるシリンダーブロックとヒザの干渉が最初は気になったが、それも走り込むうちに乗り方の工夫でクリアできることが判明。つまり、ニーグリップを解いて“ユルく乗る”ことがポイントなのだ。そう、新型V9は都会的な感性で普段着でも気軽にふらっと乗れるボバーなスタイルが魅力なのだ。
エンジンは従来からのV7シリーズより排気量が100ccほど増えて、よりパワフルになった。特に発進からの加速が明らかに速くなっている。中速域でのトルクも弾けていて、高速道路などでの追い越しも楽になった。ほとんど新設計ともいえるエンジンは現代的に洗練されて、回転フィールもよりスムーズになり、空冷縦置きVツイン独特の粗粒な鼓動感は残しつつも振動は少なく抑えられている。シフトフィールも滑らかになり、軽いタッチで節度感のあるギアチェンジができるようになった点も見逃せない。モトグッツィならではの、アクセルオンで車体が右に傾きテールがリフトしてくるトルクリアクションが健在なことも、マニアには嬉しい部分だ。
ハンドリングはとても素直で安定感があり、見た目以上に軽快。エンジンフィールはこの上なく個性的であるのに、これだけ普通に乗りこなせるところが素晴らしい。縦置きVツインのメリットでもあるロール方向への動きの軽さを生かした軽快なコーナリングもまた魅力。それでいて、前後16インチのファットタイヤによるゴロっとした倒し込みの手応えも味わい深く、それが特にフロントの接地感にもつながるなど、ハンドリングもじっくり作り込んできたな、という印象だ。
ブレーキは前後ディスクタイプで、クルーザーとしてはフロントもしっかり効いてくれるし、前後サスペンションの味付けも比較的カッチリしているのでスポーティな走りも無理なく楽しめる。そして、電子制御の恩恵。トラクションコントロールの介入レスポンスは穏やかだが、路面のうねりやマンホールの通過でグリップを失ったときなどは、確実に作動してくれることを確認できた。2チャンネルABSともども走りに余裕と安心感をもたらしてくれる、頼もしいデバイスだ。
モトグッツィらしい個性と新鮮味のある美しいスタイリングに加え、ライディングフィールも洗練されるなど、完成度の高いパッケージングに仕上がっていると思う。つい見た目のデザインや雰囲気に目を奪われがちなV9ボバーだが、実はけっこうイイ走りをするスポーツモデルの一面も持っていることが強く印象に残った。
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