

掲載日:2015年06月25日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真/山家 健一 動画/倉田 昌幸 衣装協力/HYOD
今回は試乗したのはDCTバージョンである。DCTとは有段式自動変速機構のことだが、最初にちょっとおさらいしておきたい。DCTには2つの走行モードがあり、状況に合わせて的確なギア選択を自動的に行う「ATモード」と、従来のマニュアルシフトに近い感覚で任意にシフトチェンジが可能な「MTモード」がある。さらに「ATモード」では、通常走行用の「Dモード」と、よりスポーティな走りが楽しめる「Sモード」を設定。そして、DCT仕様にはABSが標準装備されるなど、上級モデルとして位置づけられている。
まずパワーフィールが良くなった。従来のNC700Sでも十分だと思ったが、さらにトルクフルになり加速力もアップ。ツインらしい鼓動感をより感じられるようになった。元々低中速域で力強さを発揮するエンジンは、その美点を生かしつつも、ミッションがハイレシオ化したことで高回転域での伸び切り感も出てきている。従来型はフル加速していくと一気にレッドゾーンまで吹け切ってしまう印象があったが、750になって最後の“もうひと伸び”が出てきた。
通常はハイレシオ化、つまり高速型にするとトップスピードは伸びる代わりに、逆に加速力は鈍る傾向にあるが、750では排気量アップした分、トルクに余裕があるため、加速力もさらに増しつつ高速域でも気持ちよく走り、加えて回転数を抑えることで燃費性能も高めているのだ。排気量を上げることのメリットを最大限に生かした設計と言える。
とりわけ「ATモード」が良くなった。以前はややメリハリ不足を感じた「Dモード」だったが、新型ではストップ&ゴーの多い市街地でもストレスなく走れるし、「Sモード」にすれば走行状況に合わせてより俊敏にギアチェンジしてくれるので、ほとんど通常のマニュアルミッションのような感覚で走れてしまう。もちろん、自分で積極的に操作したい人には「MTモード」があるが、個人的には「Sモード」で十分だし、最もDCTのメリット(楽で速い)が感じられると思う。
ハンドリングは分かりやすく素直。スーパースポーツのような鋭い切れ味は無いが、クルーザーのような重さやアドベンチャーモデルのような腰高感も無い。曲がり過ぎず、曲がらな過ぎず、目線を向ければ自然とそこにマシンが導いてくれる。コーナー毎に変なプレッシャーをかけられずに済むので疲れにくいし、そのうえABS付きなのでいざというときにも安心だ。精神衛生的に良いバイク。これはNC750Sの隠れた才能と思う。
特に新型では排気量アップによりトルクが厚くなり、スロットルを開けたときの瞬発力が出てきたのに加え、DCTの設定変更によりエンジンブレーキがより自然なフィールで効くようになったので、スロットル操作によって車体の姿勢変化を作りやすくなっている。アクセルを閉じてフロントフォークを沈めて倒し込み、開けてリアサスペンションに荷重を移して立ち上がる、といった一連のコーナーリングを組み立てやすい。つまり、より楽にスポーティな走りができるようになったのだ。
街乗りでバイクを降りたときにヘルメットを収納したり、1泊2日のツーリング程度なら積載バッグ不要で済んでしまう大容量ラゲッジスペースの便利さは、一度味わったら元に戻れないものがある。サイフに負担の少ない低燃費とそもそもの車体価格の安さ等々、NC750Sは一見地味で大人しいバイクだが、実は素晴らしいコストパフォーマンスである。しかも走りもなかなかスポーティで、ビッグバイクらしい手応えもある。隅に置けない存在だ。
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