

掲載日:2014年02月20日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真/山家健一 動画/倉田昌幸 衣装協力/HYOD
高性能な直列4気筒ユニットならではの、混じり気のないクリアなサウンド、大柄な車体に上体の起きたゆったりとしたポジション、走行風をシャットアウトする電動スクリーンの快適さ…。FJR1300ASで走っていると、まるでプライベートジェットに乗って空を飛んでいるような気分になる。手元のスイッチひとつで出力特性やサスセッティングを瞬時に切り替えることができて、クルーズコントロールやグリップヒーターも装備し、まさに至れり尽くせりである。そして極めつけは電子制御シフトのYCC-S。クラッチ操作をせずとも、左足でのペダル操作、あるいは左手のボタンだけでギアチェンジをこなしてくれる。ただ、それでも、完全なオートマチックにしないところにヤマハの“走りの感性”へのこだわりを感じる。
操作の簡便性やスムーズな加速だけを求めるのであれば、スクーターなどに使われている無段変速のCVTか、あるいは有段式ATでもよいはず。そこをあえて変速機は通常の5速ミッションとしつつ、クラッチ操作だけを自動化しているところがFJR1300ASのユニークな点だ。メリットとしては、発進やUターン時に求められる微妙なクラッチワークを、機械が肩代わりしてくれることだ。重量マシンともなれば、1回しくじると、立ちゴケうん万円となる可能性も高くなるが、そこで「エンストしない」という安心感は絶大なものがある。また、半クラの扱いに長けたベテランであっても、左手首の負担から解放されるのはありがたいはずだ。もちろん、オーソドックスを求める人には通常クラッチタイプのFJR1300Aがあるので、好みで選べばいい。ちなみに、国内での出荷状況はそれぞれのタイプがほぼ半々ということで、ユーザーの好みははっきりと分かれているようだ。
YCC-Sの操作感だが、極めて自然である。乗った瞬間こそいつもの習慣でつい“エアクラッチ”をしてしまうが、30分も走れば自然にYCC-Sのコツは飲み込める。やはり普段どおり、足でのペダル操作のほうがしっくりくるが、ボタン操作も慣れれば楽で、キビキビと変速する歯切れよさが気持ちいい。ともかく、ペダルにしろ、ボタンにしろ、一般的な機械仕掛けのシフト機構とは異なり、電気的なスイッチングなので力も要らずとてもスムーズである。試しにあえてスロットルを戻さずにシフトアップしてみたが、ほんの一瞬、スロットルを戻したような挙動を見せて加速していく。逆にシフトダウンでは、一気に数段落としても半クラでうまくエンジンブレーキを逃がしてくれるためギクシャクしない。クラッチレバーがないことを抜かせば、いたって通常のシフト操作と変わらない感じだ。さらに言うなら、まるでベテランライダー並みのスムーズなクラッチ&シフトワークをマシンが勝手にやってくれる。一点だけネガな部分を探すとすれば、止まるような極低速域でのバランスが、やや難しいこと。半クラの加減による微妙なパワー制御ができないため、渋滞路などはやや苦手かも。まあ、元々そういう用途のマシンではないのだが。
中速トルクに厚く伸びやかに回るエンジンは力強くもシルキーで、電動スクリーンをめいっぱい立てた巨体をグングン加速させていく。その図太い動力性能は、スズキのハヤブサやカワサキZX-14Rなどのメガスポーツに迫るもので、国内の環境ではとても測り切れないレベルだ。D-MODEについても然りで、普段はツーリング向きのTモードで十分だろう。
ハンドリングに関しては、威風堂々とした姿と重なる豪快さがウリだ。ちょっと高重心なところからブワーッと倒し込んでいくダイナミックさに、ヤマハらしさを感じる。超高速ツアラーとしての揺るぎない安定性をベースに、スポーツバイクの切れ味をエッセンスとして加えた感じだろうか。
今回、新たに投入された電子調整式サスペンションは、プリロードと減衰力がボタンひとつで細かく設定できるので、これほど楽な道具はない。プリロードに関しては油圧で車高が上下するのが感じられ、“最強”にするとシャキっとするし、“最弱”ではフワっとする。ダンパー調整も3タイプ×7段階=21通りの細やかな設定がで可能で、こちらも変わり映えがする。ゆったりクルーズしたい時やスポーティに駆け抜けたい時など、その時の気分に合わせてセットすれば楽しさも倍増するはずだ。
前後連動のユニファイドブレーキは、リアだけでも十分速度コントロールが可能で、フロントも強力かつ扱いやすく、ABS作動時も自然で挙動変化も少なく安心できる。このパワーと重量だけに、トラクションコントロールも含めて万が一の保険として頼もしい。
外見的にもセンスアップされ、定評のあった走りと快適性も含め、電子制御を纏うことで一段と輝きを増したニューFJR。まさに世界標準の本格派スポーツツアラーと言っていいだろう。
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