掲載日:2018年11月22日 試乗インプレ・レビュー
取材協力/ドレミコレクション東京営業所
試乗ライダー・文/和歌山利宏 写真/渕本智信 記事提供/ロードライダー編集部
1972年に登場したカワサキのZ1(900 SUPER4)は、名車として語り継がれるだけでなく、今も愛車とするエンスージャストは多く、もちろんカスタムベースの1番手としても注目され続けている。そしてZ1ほど、開発に心血が注ぎ込こまれたバイクはほかにないだろう。その凄さは、登場から40年以上経った今でも垣間見ることができる。まさに“現役”名車だ。
カワサキのZ1(900 SUPER4)が世に出て40余年が過ぎた。絶版車と言うよりも、紛れもなく旧車である。でも、今回の試乗では古さよりも、現在にも通じるスポーツ性を発見することになってしまった。
実は、カワサキは1967年当時から4気筒DOHC750ccの開発に着手していたのだが、1968年秋の東京モーターショーで、ひと足先にホンダCB750Fourが登場。そのため、開発はイチからの再スタートとなったのである。
CBを超えることが宿命となり、排気量は900ccに引き上げられ、高性能化はもとより、後に過剰品質と言わしめるほどの耐久性も追求された。操縦安定性も、CBを優等生に位置付けた上で、スポーツ性が重視された。整備性にも妥協を許さず、Z1は満を持して誕生したのだった。
今回、目の前にした久々のZ1のスタイリングは、現在に通じる美しさだ。当時の印象として群を抜いてセクシーで美しいと感じた造形だが、それが普遍的な美しさであったと、改めて感心してしまう。
跨れば、ライディングポジションのまとまりから、作り込みのほどが伝わってくる。足着き性は悪くなく、今日でも標準的な水準にあって、サイドスタンドで傾いていた車体を起こすのも、さほど重くない。フィット感も良く、当時のバイクにありがちなステップ幅の広さもない。
一見、大型に見えるアップハンドルに手を伸ばすと、意外や自然。上体は起きるが、リアに荷重しやすく、腰も入る。今も昔も国産車にありがちなように、グリップがいたずらに手前に絞り込まれておらず、積極的にマシンと向き合える。やっぱり、こいつはリアルスポーツだ。
エンジンを始動。現在のものほど、静かでスムーズではないが、昔のエンジンにあるモサッとした感じもあまりない。コンロッド大端部やクランク軸の支持が、現在主流のプレーンベアリングではなく、あえてローラーベアリングを使っていることで、フリクションも低いのだろうか。
走り出しても、普通に扱いやすい。一般走行なら、2,500~4,000rpmといった低中回転域で事が足りるほど、十分なトルクがある。それでいて、5,500rpmぐらいからの吹き上がり感は、現在の4バルブユニットを思わせるぐらいに爽快である。その手前の5,000rpm辺りにちょっとトルク谷がある上に、上体がアップライトで、前輪分布荷重が軽いこともあるが、フロントが浮きそうになるほどだ。
ただ、今日のバイクにない重さを感じるのは、スロットルレスポンスのダルさを右手で補おうとするためだろうか。1970年代中盤には、キャブは負圧サーボ式が一般化するだけに、これには少々隔世の感がある。
Z1のハンドリングは、その後の1980年代初頭までの多くの国産車より優れていたと思う。
確かに、車体剛性は決して高くない。リアから車体全体がよじられるようなウォブルも発生しがちだ。ところが、剛性バランスが絶妙で、安心感すらある。車体がストレスを抱え込んでいる様子がなく、ハンドリングも素直だ。
この素性の良さで注目したいのは、Z1のフレームがダブルクレードルの原型と言われるフェザーベッドタイプを再現していることだ。
1970年代の国産車のフレームは、それぞれのメーカーの独自形であった。まだセオリーが確立していない時代なのだから、その完成度は言うに及ばずである。ところが、カワサキは教科書的な形に沿ったものとしていた。結果的にそれが良かったことは明らかというものである。
フェザーベッドフレームは、1950年の英ノートンのワークスマシンに投入されたのが最初で、路面追従性が抜群で安定性が高かったという。心地良い羽根ぶとんのベッドが、フェザーベッドの語源とも聞く。
本来のフェザーベッドは、ヘッドパイプの上側からダウンチューブが出発し、それがスイングアームピボットに回った後、タンクレールとしてヘッドパイプ下側に接続される。
必要なねじり剛性と横曲げ剛性を得ながら、縦剛性を弱めて路面からの衝撃を吸収する狙いである。現在の高性能バイクに当てはまるセオリーではないが、サスペンションに性能が期待できなかった当時は、最高の形態だったのかもしれない。
このZ1では、左右のタンクレールをつなぐクロスパイプからヘッドパイプ上側に太いパイプが突き合わされ、クロスするダウンチューブとタンクレールが溶接接合されている。フェザーベッドオリジナルの良さをそのままに、やや高剛性化を図った形態と見ていい。
とにかく、適度にしなりながら外乱を逃がしながらも、勘所はしっかり腰があって、安定している。しかも、車体が暴れても、リアに荷重すれば、車体後部はしっかり荷重に持ち堪え、さらに前部には負担が掛からず、ステアリングはニュートラルに安定。シートにお尻がかぶり付くように荷重すれば、Z1は途端に従順になる。
Z1乗りは、この乗り方を身に付けることで、Z1にのめり込み、ますます病み付きになっていったのではないだろうか。腰で乗る(つまりは体幹で乗る)ことも覚えられたはずである。それは、フェザーベッドの基本素性に、テストライダーがそういう乗り方を作り込んでいったということでもある。
だから、曲げることの面白さも、今のバイクに負けてはいない。いや、勝っているかもしれない。
Z1の初期型のフロントブレーキはシングルディスクで、ダブル化したこの車両ほどは効かなかったはずだが、この仕様なら、4本指で思い切り握れば、それなりの減速も可能である。そんなわけで、旧車であることを忘れ、現行車であるかのような錯覚に陥ってしまいそうになる。
Z1を現在のカスタムマシンとして蘇らせるのは、高次元のバランスで成り立っているだけに、簡単なことではない。バランスを崩さないことは言うまでもないが、タイヤを今日的なサイズのものに換装する場合は、フレームにはフェザーベッドの良さを壊さない補強が必要になる。実際、そうした方向でカスタムマシンが進化していることにも、納得させられる。
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