注目の最新250ccスポーツの魅力が加速するOVER Racingのスペシャルパーツ
取材協力/アドバンテージ   写真/PHOTO SPACE RS  取材・文/和歌山利宏  構成/バイクブロス・マガジンズ
掲載日/2018年1月10日

『ADVANTAGE』(アドバンテージ)が手掛けるマシンは、トラクションコントロールクラッチと名付けられたF.C.C.クラッチがスムーズなトラクション伝達を実現し、滑りやすい路面でのスリップやシフトダウン時のホッピングを解消してくれるのが魅力のひとつ。そのクラッチの秘密について、アドバンテージ代表の中西昇氏にモータージャーナリストの和歌山利宏が話を伺った。

構成部品を高水準化することで実現された
滑りやすくても決して“滑り切らない”クラッチ

和歌山「これまで試乗したアドバンテージのマシンは、どれもラフなスロットルの開閉にもトラクションが優しく伝えられ、スムーズさが保たれていたことに感心してきました。しかも、最初はその秘密がクラッチにあることに気付かなかったほど自然な乗り味でした。

最適のトラクションを後輪に伝え続けるスペシャルクラッチ

アドバンテージがカスタマイズしたマシンにも複数試乗経験があるジャーナリストの和歌山利宏(写真はホンダ・VTR1000SP-1)。某メーカーの開発&レーシングライダーを経験した後ジャーナリストに転身。マシンの挙動を科学的に解説できるライダーとして、2輪専門媒体など複数のメディアで活動する。

そこで今回は、そのアドバンテージF.C.C.(トラクションコントロールクラッチ)についてお話をお聞きしたと思います。まず、この開発に取り掛かった発端には何があったのでしょうか?」

中西「サスペンション、ディスクブレーキとアドバンテージの商品を充実させていくなかで、じゃあ次はクラッチかなっ、と(笑)。

最適のトラクションを後輪に伝え続けるスペシャルクラッチ

カスタムパーツとカスタムマシンのプロショップ『ADVANTAGE』代表・中西昇氏。レーシングからストリートまで、ライダーにとって理想のマシンを仕上げていくことを目指す。安全性能と機能性(使い易さ)、それに耐久性を重視し、パーツは信頼性の高いメイドインジャパンに拘る。「安全は全てに優先する」というコンセプトのもと、質の高いパーツとマシンを作り続けている。

じつはモトクロッサーのブレーキローターをフローティングにしたら、ライダーからタイヤが喰い付きやすくなって疲れない、とのコメントが得られたのです。トラクション(和歌山註※向きは駆動力の反対側)が良くなるわけで、その発想をクラッチにも使える、と考えたのです」

和歌山「それはステアリングが振られても、ディスクがフローティングされているのでパッドとの摩擦に影響を及ぼさない、ということですね?」

中西「そうなんです。それに、ベルトドライブにしたカワサキ・Z400GPが、鈴鹿サーキットのウェット路面でグリップが良かったという話も伝わってきまして、これはいけるぞ、と。

モトクロスのレーススタートでは、クラッチで優劣の差が出ることもあるのです。フリクションプレートの摩擦材がコルク系だと“切れ”も“繋がり”も良くて、硬質路面ではスタートが良い反面、スペシャル材では、ぬかるんだ路面で適度に滑って、1コーナーの手前では前に出ている、ということがあるのです」

最適のトラクションを後輪に伝え続けるスペシャルクラッチ

和歌山「ベルトドライブの話、よく分かります。私はシャフトドライブ車の開発に携わった経験があって、シャフトドライブではチェーンにある衝撃吸収能力がないため、リアがホッピングしたりと大変でしたから……。

それはさておき、駆動系にあるクラッチによって、トラクションを向上させることができると踏んで、摩擦材をペーパー系ケブラーとしたフリクションプレートの開発に繋がるわけですね?」

最適のトラクションを後輪に伝え続けるスペシャルクラッチ

中西「はい。私は開発ではモトクロスライダーの意見を重視しています。彼らにはトラクションを使い切ることが求められます。そのことが扱い切ること、扱いやすさに繋がるからです」

和歌山「それはモトクロスライダーだった中西さんらしい発想かもしれません。ロードレースでの考え方がベースにある私の場合は、トラクションにダイレクトなインフォメーションがあることを重視しがちですが……。いずれにしても、トラクションのコントロール性を追求することは同じですね」

中西「そこで具体的に追求したのが“滑りやすくても滑らないクラッチの特性”でした。もっとスロットルを開ける気にさせる摩擦材の開発に取り掛かったのです」

和歌山「お話を伺っていると“転倒までの時間を長く持てることが大切”とする中西さんのポリシーとも合致してきます。でも、摩擦材をペーパー系ケブラーとして最適化させるだけで、満足なものができるほど事は甘くないですよね?」

最適のトラクションを後輪に伝え続けるスペシャルクラッチ

中西「滑りやすくて滑らない特性を実現するには、クラッチのプレートを押し付ける力を、狙った範囲内にしっかり管理する必要があります。量産車のクラッチのスプリングは、意外なほどバラツキや劣化が大きいのです。バラツキや劣化があってもクラッチが滑らないようにするには、バネ定数を大きくしなければならず、クラッチも重くなります」

和歌山「バラツキが大きければプレートへの面圧も不均一になって、クラッチ性能は安定しませんね」

中西「そこでクラッチスプリングをサスペンションのスプリング工場で作ってもらい、スプリングの材質もエンジンのバルブスプリング材のものとしています。

最適のトラクションを後輪に伝え続けるスペシャルクラッチ

それによって温度変化の影響も少なくなり、クラッチ性能も安定します。また、自由長や傾きも含め公差を詰めています。狙ったスプリング力が得られることで、バネ定数はカタナ用では23%も小さくなっています」

和歌山「その分だけクラッチ操作力も軽くできるわけですか」

中西「それだけではありません。クラッチプレートは歪が生じると繋がり具合が安定しないので、ガス軟窒化処理を施しています。これは処理に伴なう歪が小さいうえに、耐磨耗性や耐久性も向上しています。フリクションプレートも、芯材を鋼製からアルミ製として放熱性を高め、大幅な軽量化にもなっています。

最適のトラクションを後輪に伝え続けるスペシャルクラッチ

そしてハウジングやプレッシャープレートのアルミ部品には、硬度と潤滑性を高めるカシマコートや、銀の成分を特殊コーティングし、熱伝導率のアップや耐久性を高め、クラッチ性能を安定させています。

それらによって3~5倍のロングライフを実現しました。カタナ用の場合、プレート枚数も1枚減らすことができて、重量も620g軽くなっています」

和歌山「トラクションコントロールクラッチと聞くと、なにか特殊な製品のような気もしますが、中西さんからお話を伺って決してそうではないと、思いを新たにしました。

“滑りやすくて滑らない特性”を実現するためとはいえ、この高水準ぶりと品質の高さは、量産車のそれをはるかに超越していますね」

最適のトラクションを後輪に伝え続けるスペシャルクラッチ

中西「高性能であることを、一般ライダーが日常的な使用の中で享受できることは、アドバンテージのポリシーでもあります。自信を持って装着してもらいたいと思います」

BRAND INFORMATION

住所/兵庫県尼崎市昭和通9丁目-324
電話/06-6412-6145(代表)
営業/10:00-18:00
定休/水曜、イベント・レース日

つねに最高を目指すフットワークパーツとカスタムバイクのプロショップ。SHOWA/KYB/NISSIN/F.C.C./NHK/D.I.D./XAMなど一流メーカーと協同し、OEMではなくアドバンテージのエッセンスを注ぎ込んだオリジナルカスタムパーツとして開発・販売を行なう。レース向けに開発したパーツを世界標準とする事を目的とし、AMA/FIMが主催する世界最高峰のモータースポーツに、一石を投じ続けている。