掲載日:2008年12月15日 ノスタルジックバイクス
埠頭の周辺を走りまわっているうちに、いつの間にか廃線になった鉄道跡に迷い込んでしまった。幹線道路に出るためには、滑りやすいレールを何本も乗り越えたり、砂の浮いた道を走ったりしなくてはならない。こうしたハプニングも悪いものではないが、一度タイヤを滑らせてからは少し慎重になった。軽くリアブレーキを舐めながらハンドルでバランスをとり、歩くよりも遅い速度で進む。ようやく幹線道路に出る交差点を見つけたので、ギアをカチャカチャとニュートラルに入れ、ちょうど停止線の位置に止まった。
こうした当たり前のことが、当たり前にこなせるバイクがとても少なくなった中で、今日一日一緒に走り回ったこのバイクは、例外的な一台と言えるのかもしれない。デザインは古臭いがツインカムエンジンで、一見キャブレターに見えるものが電子式燃料噴射装置だということ以外、メカとしてこのバイクを語る意味はあまりない。しかし、エンジンはアイドリングでも発進できるほどトルクフルで、ハンドリングも軽く素直。シフトペダルは適度なストロークで肌触りもよく、ニュートラルを探し回る必要もない。ちゃんと仕事をしてくれるリアブレーキのペダルに足を載せておけば、荒れた路面をやり過ごし、涼しい顔をして停止線にピタリと止まることができる。
信号が青に変わるまでの間に、あることに気づいた。ひたすらスムーズで現代的な乗り物だと思っていたのだが、自分の胸に手を当てた時とそっくりな「トットッ」という小さな振動が、乗り心地の良いシートを通して伝わってきたのだ。テンポは幾分速いが、心臓の鼓動と同じ感触、同じ強さ。バイクの乗り味を説明するのに「鼓動感」とかいう言葉を使うのは好きじゃない。でも、これほど心臓の鼓動と似ていると、他の言葉もしっくりこない。久々に人間的な味わいがある機械に触れた気がした。
Text and Photo/Hideo Watanabe
このバイクなら、どこに置いても邪魔にならない。
タイヤを滑らせてしまったことで、かえって冷静になった。
機械に「ぬくもり」を感じたのは久しぶりのことだった。
トライアンフ ボンネビルT100(2008)
Triumph Bonneville T100
■エンジン = 空冷DOHC並列2気筒エンジン
■排気量 = 865cc
■全長 = 2,230mm
■全幅 = 740mm
■全高 = 1,100mm
■シート高 = 775mm
■乾燥重量 = 205kg
■価格 = 129万1,500円
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