掲載日:2026年01月26日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男

HONDA CL250 E-Clutch
まだ「オフロードモデル」「オンロードモデル」という区別すら曖昧だった1960年代初頭。オンロードモデルをベースに、サスペンションストロークを拡大し、アップマフラーを採用するなどして未舗装路での走破性を高めた“スクランブラー(オン×オフが交差するという意)”というカテゴリーが生まれた。その代表例として1962年に登場したドリームCL72スクランブラーこそが、現在のCL250へと連なるルーツモデルである。

ホンダはこのCLシリーズで国内外から高い支持を集め、その系譜をしばらく継いでいくことになるが、やがて「CL」の名はいったん姿を消す。そして1990年代後半、オマージュ的な存在としてCL400が登場するものの、その歴史も長くは続かなかった。
それから時を経た2023年、まさに“三度目の正直”と呼ぶにふさわしい形で、CL250/500が復活を果たす。登場時に大きな注目を集めたのは、そのプラットフォームにクルーザーモデルであるレブル250/500を採用していた点だ。クルーザーがスクランブラーへと化す──そんな発想を容易に想像できなかった業界人たちは、その走行性能に大きな興味を抱いたが、実際に跨ってみると「さすがはホンダ」と唸らされる、実にバランスの取れた仕上がりであることがすぐに理解できたのも記憶に新しい。
案の定、CL250は瞬く間にスターダムを駆け上がり、現在も高い評価を受け続けている。そんなCL250の2026年モデルに、新たにEクラッチ仕様が追加されたのだ。この素性の良さを、Eクラッチがどこまで引き出しているのか。その実力をじっくりと探っていきたいと思う。

2023年の登場以来、何度かCL250に触れる機会があったが、毎回強く感じるのは、その際立った乗りやすさである。免許を取得したばかりのビギナーはもちろん、ハイパフォーマンスな大型バイクを自在に操るエキスパートライダーにとっても、いわば“下駄代わり”として気軽に付き合えるキャラクターを備えた一台だと言える。この印象は兄弟モデルにあたるレブル250にも共通するものだが、決して速すぎるわけでもなく、遅いわけでもない。刺激的とは言えないにもかかわらず、なぜか乗っていると気分が明るくなってくる。そんな不思議な多幸感を持ったモデルなのである。
この楽しさをより多くの人に届けたいと思う一方で、現実的には普通自動二輪免許を取得すること自体が、いまだ高いハードルであることも否めない。視点を自動車市場に移してみると、市販されている車両の9割以上がオートマチック車であり、免許の保有比率を見てもAT限定が圧倒的多数を占めているのが実情である。であれば、AT限定でも乗れるバイクを用意することで、より広い層にモーターサイクルの楽しさを訴求できるのではないか。ホンダの開発陣がそう考えたとしても、不思議ではない。

実際、ここ2年ほどを振り返ると、自動変速機構を備えたモデルや、今回のホンダEクラッチのようにクラッチレバー操作を必要とせずにシフトチェンジが可能なモデルの試乗機会は急激に増えている。そこからは、バイク業界全体がAT限定ライセンスに対応するモデル開発へ、本格的に舵を切っている様子がはっきりと見て取れる。歴史を紐解けば、自動車やバイクの進化は、エンジンやタイヤといった要素だけでなく、変速機や動力伝達機構の発展と切り離して語ることはできない。自動車業界では、とりわけマニュアルミッション車が好まれてきた欧州を中心に、数多くの変速機が生み出されてきた。一方で、バイクの世界では「自動変速=スクーター的」というイメージが、長らく根強く存在してきたのも事実である。
そうした状況の中で、ホンダは独自の発想と技術によって、さまざまな新しい変速機構を市場へ投入してきた。そして、その流れの中で誕生したのが、シンプルでありながらマニュアル操作の楽しさも残したEクラッチシステムである。この技術が、いま新たな時代をけん引しようとしている。それでは、CL250 Eクラッチに実際に触れ、その完成度とフィーリングを確かめていくとしよう。

今回、久しぶりに現行型CL250に触れることとなった。外観上の変化を探してみると、スタイリング的にはエンジン右側にEクラッチシステム用のハウジングが追加されている点が目に入る程度で、それ以外に大きな変更は見当たらない。パッと見ただけでは、従来モデルとの違いに気づく人はそう多くないだろう。しかし、実際に跨った瞬間、「何かが変わったかもしれない」という感覚が身体に伝わってきた。後から確認して分かったことだが、ステップ形状が見直されており、それにより足つき性がより向上しているという。
もともと身長177cm、体重70kgという私の体格では、CL250の足つき性に不安を覚えたことはない。それでもなお変化を感覚的に察知できたという事実は、普通自動二輪に触れ始めたばかりのビギナーや、体格に自信のないライダーにとって、確実に大きな恩恵となるはずである。こうした“気づきにくいが効いてくる改良”こそ、ホンダらしい作り込みだと感じさせられる部分だ。

セルスターターを押してエンジンを始動する。メーターディスプレイ内にEクラッチのインジケーターランプが点灯していることを確認し、クラッチレバーには一切触れないまま、シフトペダルを踏み込んで1速へ入れる。その際に、これといったショックや違和感はなく、ギアは“スッ”と自然に入る。このあたりのフィーリングからも、Eクラッチの制御が非常に丁寧に煮詰められていることが伝わってくる。
最初の発進では、通常のマニュアルミッション車で半クラッチポイントを探るような感覚を思い出しつつ、じんわりとスロットルを開けていく。すると、まるで自分自身がクラッチレバーを操作しているかのように、車体は極めて自然に前へと押し出されていった。その挙動は、スクーターに採用される遠心クラッチ的な感触とは明確に異なる。あくまで“人の手でクラッチをミートさせた”感覚に近く、マニュアル車に慣れたライダーであっても違和感を覚えることは少ないだろう。

シフトアップ、シフトダウンについても、当然ながらクラッチレバー操作は不要である。もっとも、長年の癖で、思わずクラッチレバーを握ってしまう場面も何度かあったが、それもまたごく自然な反応だ。しばらく走るうちに感覚は完全に馴染み、エンジン始動からCL250を降りるまで、一度もクラッチレバーに触れずに走り切るようになっていた。
ふむ。レブル250のEクラッチを試した際にも感じたことだが、このシステムはやはり非常によくできている。単なる“操作の省略”にとどまらず、ライディングそのものを邪魔しない完成度の高さが、CL250という車両のキャラクターと見事に噛み合っているのである。

ここからは、乗り味の質感やオフロードでの走破性といった部分に、より踏み込んでいこう。まず市街地走行においては、言うまでもなく非常に高い運動性能を発揮する。低回転域からしっかりと粘りを見せるシングルエンジンと、ややローギアード気味に設定されたギア比の組み合わせにより、発進から流れに乗るまでの一連の動きが実に快活だ。ストップ&ゴーの多い街中でも、スポーティさを感じさせる軽快な走りを楽しむことができる。
また、レブル250に比べてアップライトなライディングポジションであることに加え、フロントタイヤの幅が比較的細めであることから、車両感覚がつかみやすく、より扱いやすく感じられる点も特筆すべきポイントである。もし足つき性に大きな不安がなく、レブル250とCL250のどちらにするかで迷っているのであれば、ぜひとも両車を乗り比べてみてほしい。数字やスペックでは語れない違いが、はっきりと体感できるはずだ。
高速道路においても、その実力は過不足ない。パフォーマンス自体はあくまで250ccクラス相応であり、フルカウルのスポーツモデルのように伏せた姿勢でひたすら走り続けるタイプのバイクではない。しかし6速ミッションを備えていることもあり、一定速度でのクルージングは快適で、エンジンの回転数にも余裕がある。淡々と距離を重ねていくような走り方、たとえば郊外の林道へ向かう移動や、キャンプツーリングのアプローチ区間などでこそ、CL250の存在意義やキャラクターを存分に味わえると言える。

ワインディングロードでは、想像以上にスポーティな走りを楽しむことができた。個人的に好みであるフロント19インチ、リア17インチというタイヤサイズの組み合わせも、その要因のひとつだろう。現在のロードモデルの主流である前後17インチ仕様と比べると、ステアリングの切れはじめはやや穏やかだが、その分挙動が唐突にならず、ライダーにとってはむしろナチュラルに感じられる。
サスペンションに特別高価な装備が与えられているわけではないものの、「走る・曲がる・止まる」という基本性能のバランスが非常に良く、無理をしなければタイヤの端まできっちりと使い切れるような、安心感のあるライディングが可能である。

では未舗装路ではどうかというと、これがまた想像以上によく走る。正直に言えば、リアタイヤはやや太めで、サスペンションストローク量も特別多いわけではなく、装備やセッティング自体はどちらかといえばロードバイク寄りである。しかし、先にワインディングで感じた通り、車体全体のトータルバランスが非常に優れているため、コントロール性が高く、砂利道程度であれば不安を覚えることなく走り抜けることができるのだ。

もちろん、深いマディ路やガレ場となれば、本格的なオフロードモデルに軍配が上がる。しかし、一般的な林道ツーリングを楽しむ用途であれば、CL250の走破性は十分以上であり、「ちょっと未舗装も走ってみたい」という欲求に、しっかりと応えてくれる。一週間に及ぶ試乗テストを終えて感じたのは、すでにこのCL250は、従来のマニュアルミッションモデルよりもEクラッチ仕様のほうが、トータルとして魅力的に仕上がっているという事実である。操作は確実に楽になっているのに、ライディングの楽しさが損なわれていない。それどころか、独特の心地よさが加わったことで、つい遠回りをして帰りたくなる。CL250 Eクラッチは、そんな気持ちにさせてくれる、完成度の高い一台に仕上がっていた。

クラッチレバー操作を不要としながら、マニュアルミッションの操作感を残したホンダ独自のEクラッチシステムを搭載。発進時や変速時には車両側が最適にクラッチを制御し、ライダーはスロットルとシフト操作に集中できる。任意でクラッチレバー操作も可能なため、従来のMTに慣れたライダーでも違和感なく扱える点が特徴だ。

フロントには19インチホイールを採用し、オンロードでの安定感と未舗装路での走破性を両立。ブレーキはシングルディスクながら制動力は十分で、扱いやすさを重視したセッティングとなっている。サスペンションとのバランスも良く、街乗りからワインディングまで安心感のあるフロントまわりに仕上がっている。

スクランブラーらしいアップタイプのマフラーを採用。シングルエンジンでありながら、エンド部は二口デザインとされ、視覚的な存在感も高い。サウンドは歯切れがよく、単気筒らしい鼓動感を程よく演出しながら、長時間走行でも疲れにくい音量と質感に抑えられている。

前後にキャストホイールを使用し、チューブレスタイヤに対応。スイングアームは剛性としなやかさのバランスが取れた設計で、舗装路では安定感のある走りを支え、未舗装路でも過度な突き上げを抑える。ワイドなリアタイヤと相まって、CL250らしい扱いやすさと安心感を生み出している。

丸型ヘッドライトケースを中心に構成されたフロントマスクは、往年のCLを想起させるデザインでありながら、内部に4灯ライトを収めており、ネオレトロ感をしっかりと演出。ワイドでアップライトなハンドルバーとの組み合わせにより、視界が広く、取り回しのしやすさにも貢献している。

2026モデルではシート内部素材が見直され、走行中の快適性がさらに向上している。表皮はタックロール調のデザインで、クラシカルなスクランブラーの雰囲気を強めつつ、適度なクッション性により長時間ライディングでも疲労を軽減する仕立て。シート高は790mmと足つき性にも配慮された設計である。

2026モデルではメーター構造を見直し、太陽光の反射を抑えることで日中の視認性が向上している。また、Eクラッチランプを内蔵し、Eクラッチ作動状態をひと目で確認可能とした。視認性と情報整理のバランスに優れ、街乗りでも林道でもライダーの判断を支える表示系となっている。

水冷4ストロークDOHC4バルブ、249ccシングルエンジンを搭載。最高出力24PS/8,500rpm、最大トルク23Nm/6,250rpmのスペックを持ち、低回転域から粘り強いトルクを発揮して扱いやすさを追求している。スロットルに応じてレスポンスが素直に立ち上がり、ステージを問わず気持ちよく走れる特性だ。

メインステップが足つき性に配慮した新形状となり、跨った際の安心感と足先の接地感が向上している。これにより、停止時やUターンなどの低速域での扱いやすさが増した。シフトチェンジレバーはEクラッチとの相性も良好で、クラッチレバー操作を不要としながらも、自らシフト操作を行う楽しさを損なわない仕様となっている。

リアフェンダー上にはブレーキランプ、ターンシグナル、ライセンスプレートステーが配置され、視認性と機能性を両立している。テールランプのレンズ形状やシグナルインジケーターのバランスは、スクランブラーらしい質感を高めるデザイン処理が施されており、後方から見ても存在感のあるリアビューを演出している。

シート下はごちゃごちゃした配線が見えず、シンプルかつしっかりとデザインされている印象を受ける。ETC車載器程度はインサートできるが、ユーティリティスペース的には頼りなくも感じられる。







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