掲載日:2025年12月03日 試乗インプレ・レビュー
取材協力/モトクロスヴィレッジ 写真・文/稲垣 正倫

KTM 390 ENDURO R
シートに跨ると、まず感じるのは車体の軽さだ。乾燥重量は約150kg台前半と、400クラスとしてはかなり軽量。オフロードモデルの中では重い方だが、低重心なので数値以上に軽く感じるところがポイント。燃料タンクが車体中央寄りに配置されており、取り回し時のふらつきも少ない。シート高は875mmと数値上はやや高めでライダーを選ぶかもしれないが、シッティングからスタンディングへの移行がイージーというメリットもある。

まずインプレッションとして強調しておきたいのは、車体のバランスの良さだ。KTMが得意とするスチール製トレリスフレームは、剛性を適度に抑えつつ、フロントからリヤまでの荷重移動をライダーに分かりやすく伝えてくれる。旋回時には軽く体を倒すだけでスッと向きが変わり、舗装路のワインディングでも軽快。オフロードに入っても、ステアリングの切り返しが自然で、車体がライダーの動きに素直に追従してくれる。

搭載される単気筒エンジンは、新設計の水冷DOHC・399cc「LC4c」ユニット。最大出力は44psとこのクラスでは高水準で、街乗りからダートまで扱いやすい特性に仕上がっている。低速では滑らかで、クラッチ操作も軽い。発進やUターン時の扱いやすさが際立っており、トレールバイク的な親しみやすさがある。

回転を上げると音質が変わり、4000rpmを超えたあたりから一気に吹け上がる。舗装路でスロットルを開けると、これは400ccクラスのマシンだったなと気づかされるパワフルさを見せる。KTMらしく明らかに高回転型のエンジンに仕上がっており、刺激的なマシンを求める人にも訴求力は高そうだ。新しいスロットルボディと吸排気系の設計が効いているのか、回して気持ちのいい単気筒らしからぬフィーリングを味わえる。
排気系はスイングアーム下に通されており、重量バランスに貢献。見た目以上に静かで、ツーリングでも耳障りなこもり音が少ない。エンジンマウント位置も低く、これが低重心化と安定感に直結している。オフロード車としては、マフラーが地面や障害物に接触する可能性は否めないが、丸太やステアがあるような場所で遊ぶことは想定していないと考えれば、納得できる。

WP製のAPEXサスペンションはフロント、リア共に230mmのストロークを持つ。レーサーなら300mm、一般的なトレールでも260mmほどなのでオフロードバイクとしては短め。これはデューク由来の車体であるためだろう。ただし、さすがWP製と思える減衰力の高さで、モトクロスコースのギャップに入っても底付きを感じられないほど上質だった。初期作動も非常に柔らかく、林道の石段やフラットダートでは路面の凹凸をしなやかに吸収してくれた。フルサイズエンデューロモデルよりも動きが穏やかで、ダート初心者でも安心感が高い。一方でスピードが上がっても腰砕けにならず、コシがある設定だ。舗装路に戻っても違和感はなく、交差点の段差や減速帯を越えても車体が落ち着いている。前後とも減衰調整機構を備え、ダイヤル操作で走る場所に合わせたセッティングが可能だ。

タイヤにメッツラーのKaroo 4を履かせているところからもKTMのこのモデルの本気度がうかがえる。某競技ではこのKaroo 4ワンメイクでレースが行われているほどダート特性の高いタイヤで、舗装でも安定性が高い。グリップと減りのバランスも良好で、ツーリング用途にも向いている。ブレーキはBYBRE製キャリパーで制動力は穏やか。ABSはオフロードモードを選ぶとリヤを解除でき、スライド操作も楽しめる。

コクピットまわりの設計は、デザイン以上に実用的だ。ハンドル位置は通常のトレールバイクに比べると少し遠く、どちらかというとシッティングポジションがしっくりくる。シュラウドの形状も膝で自然に挟めるよう設計されており、ライダーの動きを制限しない。メーターはモノクロ液晶で視認性が高く、シンプルながら必要な情報を瞬時に確認できる。
スイッチ類もわかりやすく、一般的なロードモデルから乗り換えても迷わない。標準装備のナックルガードや可倒式ミラーは、転倒時の破損リスクを減らすだけでなく、日常での防風効果もある。全体として“構えやすく、安心して扱える”という印象が強い。

さらに、ステップはラバー付きの2ウェイ仕様で、ツーリング時の快適性とオフロードでのグリップを両立している。シートはフラット形状で体重移動がしやすく、1日走っても腰への負担が少ない。これらの装備により、ライダーが長時間走っても疲れにくいパッケージとなっている。

390 ENDURO Rは、これまでオフロードとの距離を遠く感じていたライダーにとって、最初の一歩となるバイクだ。軽さと安定性を両立した車体、扱いやすくトルクフルなエンジン、そしてKTMらしい造形美。どの要素も過度に競技的ではなく、街乗りから林道までを自然につなげる懐の深さがある。

「林道に行ってみたい」「アドベンチャーは大きすぎる」と感じていたライダーにこそ、この390 ENDURO Rはぴったりだと思う。通勤も週末の林道も同じリズムで走れる――そんな現実的なデュアルパーパスの理想形が、ここにある。

新開発のLC4cエンジンを中心に構成されたパッケージ。トレリスフレームとエンジンの接合部を低く設定することで、取り回しの軽さを際立たせている。ダウンチューブを持たない構造はDUKEゆずり。丸太やステアケースなどを想定はしていないが、林道を走るには問題なし。

スイングアームは鋳造による新設計。見た目はシンプルながら剛性分布が緻密にチューニングされ、リヤからの入力をスムーズに吸収する。リヤショックはリンクレス構造ながら、段差のいなしも自然だ。

フロントサスペンションはWP製APEX 43mmフォーク。市街地でも衝撃を柔らかく受け止め、ダートでは中盤以降の減衰がしっかり立ち上がる。タイヤはメッツラー・Karoo 4を標準装備し、舗装とダートの両立を狙っている。

燃料タンク容量は9L。車体の中心に寄せて搭載されており、軽快なハンドリングを損なわない。シャープな造形のシュラウドが、オフロード走行中のニーグリップを自然に支える。

コクピットまわりはシンプルで、メーターも視認性の高いモノクロ液晶を採用。ハンドルはバーハンドルで、可倒式ミラーとナックルガードを標準装備。街乗りと林道ツーリングの両立を想定した構成だ。

リヤショックはWP製APEXを採用。リンクレスながら作動性が高く、荷重の変化をしなやかに吸収する。プリロードとリバウンド調整にも対応し、走る環境に合わせたセッティングが可能だ。

マフラーは車体下を通る独特のレイアウト。エキゾーストを一体化して軽量化を図り、熱の影響を受けにくい構造にしている。ガード一体のデザインで見た目もスマートだ。

ハンドルまわりはテーパーハンドル。林道での転倒時に破損しにくく、グリップ位置の自由度も高い。電装スイッチもシンプルで、操作に迷いがない。

シート後端からリヤフェンダーまでのラインは、スリムで直線的。軽量な樹脂製テールにLEDランプを組み込み、デュアルパーパスらしい機能美を感じさせる。

リヤショックはロードマシンのような形状。シート下からも存在感を放つ。リンクレス構造ながら動きはしなやかで、街乗りの段差から林道のギャップまで幅広く吸収してくれる。

フロントはWP APEX 43mmフォークを採用。ストローク量はたっぷりあり、未舗装路でも衝撃を柔らかくいなす。標準装着タイヤのメッツラー Karoo 4が、見た目にも頼もしい。

シートに腰を下ろすと、燃料タンクからハンドルまでの距離感が自然。タンク上面が絞られており、スタンディングでもニーグリップがしやすい。

フォークトップには減衰調整ノブを装備。走る場所に合わせて手軽にセットアップを変えられるのは、このクラスでは珍しい。

スイッチ類はシンプルで直感的。ウインカーやホーンの操作性も良く、一般的なロードバイクから乗り換えても戸惑わない。ナックルガードが標準装備されている。

右グリップ側にはセルスイッチとキルスイッチを配置。手袋をしたままでも押しやすいサイズで、信頼性が高い。

メーターはモノクロ液晶タイプ。速度や回転数、ギアポジションなどをすっきりと表示。オフロードモード時にはABSの作動状況も確認しやすい。

ステップはラバーを外すと金属の歯が現れる2ウェイ仕様。ツーリングでは快適性を、林道では確かなグリップを両立できる。

ラジエターは1枚で、シュラウド形状と一体化。転倒時のダメージを抑えつつ、冷却効率を高めている。

ヘッドライトは縦型LEDユニット。コンパクトながら明るさは十分で、夜の林道や街中でも安心できる。








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