【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャー

掲載日:2025年11月11日 試乗インプレ・レビュー    

取材協力/モトクロスヴィレッジ 写真・文/稲垣 正倫

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャー メイン画像

KTM 390 ADVENTURE R

390シリーズの新たな到達点

KTMが2025年に投入した390 ADVENTURE Rは、軽さと剛性、そして電子制御を融合した新世代のアドベンチャーモデルだ。従来型390 ADVENTUREはRの称号を持たず、どちらかといえばロード寄りの“デュアルパーパス的”な性格を持っていたのに対し、このRモデルは一歩深くオフロードの世界へ踏み込んでいる。ラリーマシンに通じる走破性を備えながら、舗装路では洗練された安定感を示す。

開発のベースとなったのは第3世代のDUKEプラットフォーム。ただし、エンジン、フレーム、電装系まで刷新され、既存モデルと共通する部分はほとんどない。単なるマイナーチェンジではなく、ゼロから作り直されたといってよい。

LC4cエンジンがもたらす軽快さと厚み

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの01画像

搭載されるエンジンは、新開発の399cc水冷単気筒LC4c(light compact 4-stroke single-cylinder)。ショートストローク化された内部構成と新しいシリンダーヘッド設計により、低中速域の粘りと高回転の伸びを両立している。

発進時は軽くスロットルをまわすだけでスッと動き出し、2500rpm前後の領域からトルクが厚く立ち上がる。急な上り坂でも半クラッチをほとんど使わずに登れる粘り強さを備える一方、5000rpmを超えると吸気音が変わり、単気筒らしい軽やかな加速が続く。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの02画像

クランクまわりの慣性マスを最適化したことで、スロットルオフ時の回転落ちも自然だ。トレール区間では細かいスロットル操作でリヤを滑らせながら進むことも容易で、燃焼制御の滑らかさが走りの自由度を広げている。

さらにパワーアシスト・スリッパークラッチ(PASC)とクイックシフター+を標準装備。シフトフィールは軽く、クラッチレバーの操作力も非常に小さい。スリッパ−クラッチらしく握り混んでいった先にスイッチ感が残るが、街乗りでも扱いやすく、低中速で走る分には単気筒の“荒っぽさ”がほとんどない。

剛性を与えた新トレリスフレーム

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの03画像

車体の要は、新設計のスチールトレリスフレームだ。エンジンをストレスメンバーとして利用する構造で、ヘッドパイプの剛性を上げつつ、スイングアームピボット周辺をしなやかにしている。結果として、低速域では回頭性が高く、速度が上がるとピタリと安定する。
サブフレームはボルトオン式で、転倒や荷重変化に強い。リヤフェンダーと一体構造のため、キャンプツーリング時の積載にも十分な強度がある。スイングアームは鋳造アルミ製。形状を細かく解析し、ねじり剛性を確保しながら約1kgの軽量化を実現している。

ホイール構成は“R”ならではの本格オフロード向けで、フロント21インチ、リヤ18インチ。スポークホイールにメッツラーKaroo 4を組み合わせ、舗装・未舗装双方に対応する。フロントアクスル径は15mm、リヤ20mm。剛性を保ちながら整備性も高く、実際にホイールを外しても軽量で扱いやすい。

WP APEXが描くしなやかなストローク

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの04画像

サスペンションは前後ともWP APEXシリーズだ。フロントは43mm倒立フォークで、コンプレッションとリバウンドをそれぞれ30段階で調整可能。初期の動きが柔らかく、フラットダートでは細かい入力をよく吸収する。大きなギャップを踏んだ際には中盤でしっかりと支え、底づき感はほぼない。

リヤはリンクレス構造のAPEXショック。リバウンドとプリロードを調整でき、積載量や走行環境に応じたセットアップが容易だ。林道での連続ギャップでも安定してトラクションを維持し、前後の動きに一体感がある。

サスペンションのストローク量はフロント・リア共に230mmでオフロード性能の高さを数値上にも見ることが出来る。サグを適正に取ると、舗装路では落ち着いた姿勢を保ちながら、未舗装では十分な余裕を見せる。フレーム剛性とのバランスが絶妙で、荷重移動のタイミングが掴みやすい。

電子制御の完成度と操作性

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの05画像

電子装備も進化している。コーナリングABSとモーターサイクルトラクションコントロール(MTC)を標準搭載し、傾斜角や加速度に応じて制御を変化させる。ライドモードは「STREET」「OFFROAD」「RAIN」の3種類。OFFROADモードではトラクションコントロールが緩やかになり、ABSはリヤ側を解除。キーオフ後も設定を保持する。

5インチTFTディスプレイは新設計で、偏光コーティングを施したガラス面が高い視認性を確保。Bluetooth経由でスマートフォンを接続すると、ナビや音楽、通話を表示できる。USB-C電源も標準で備わる。

スイッチボックスはバックライト付きのジョイスティック式で、操作フィールは軽く確実。ライダーの視線移動を減らす合理的な配置になっている。このあたりは、豪華な構成の兄弟車390エンデューロRとはだいぶ印象が異なる。

実際の走行フィーリング

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの06画像

舗装路では「軽いのに落ち着いている」という矛盾した印象を持つ。ハンドルを軽く切るだけでスムーズに旋回し、切り返しも俊敏だが、直進安定性が損なわれない。中速域ではフロントタイヤがしっかり接地しており、ブレーキング時のノーズダイブも穏やか。単気筒特有の“上下の揺れ”がなく、まるでツインのような落ち着きを見せる。

高速巡航では振動は少なく、スクリーンは胸から上への風を的確に逃がし、疲労感が少ない。ブレーキはBYBRE製キャリパーで制動力は穏やかだが、初期タッチのコントロール性が高く、ABSの介入も自然。フロント320mm、リヤ240mmディスクの組み合わせが、軽量車体とのバランスを取っている。

林道で見せる懐の深さ

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの07画像

フラットダートではサスペンションの動きが滑らかで、車体が常に地面を捉える。小石を踏んでもフロントが逃げず、トラクションが抜けにくい。ブロックタイヤの接地が伝わる感覚が明確で、アクセルを開けても挙動が穏やかだ。

路面が荒れてくると、ストローク後半の粘りが効く。深いギャップを通過しても姿勢変化が少なく、フロントが暴れない。林道ツーリング程度の速度域であれば、上級者でなくても安定して走れるだろう。

また、低速のテクニカル区間では、エンジンの回転落ちがゆっくりで扱いやすい。細かいスロットル操作でトラクションを維持しながら、粘り強く登っていける。いわゆる600ccクラスのミドルアドベンチャーと比べて圧倒的にフレンドリーで、扱いやすく、林道に入りたいアドベンチャービギナーには最もおすすめしたいバイクだ。

実用装備と長距離性能

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの08画像

14Lの燃料タンクは航続距離は400kmを超え、軽量車としては異例のロングレンジを誇る。シートは前後一体型で、硬すぎず沈み込みすぎず、体重移動が容易。表皮は滑りにくいテクスチャ仕上げで、雨天時も安定して座れる。

ステップはラバー着脱式の2WAYタイプ。街乗りでは振動を抑え、オフロードではギザ歯がブーツソールを確実に噛む。リヤキャリアの装着を前提としたフラットな後端形状も旅バイクとして好ましい。メンテナンス性にも優れ、リヤサブフレームの脱着やオイル交換時のアクセス性も向上している。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの09画像

390 ADVENTURE Rは、軽さの中に「確かな剛性」を備えた1台だ。扱いやすいエンジン、しなやかなWPサスペンション、精緻な電子制御。それらが互いに支え合うことで、舗装路でも林道でも破綻しない。大型モデルのような過剰さがなく、初心者でも無理なく扱える一方、経験者が走り込んでも応えてくれる奥行きがある。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの10画像

“R”の名にふさわしい芯の通った走りと、390シリーズらしい親しみやすさ。その両方を兼ね備えた新しい基準として、このモデルは小排気量アドベンチャーの代表格になるだろう。

KTM 390 アドベンチャー R 詳細写真

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの11画像

LEDプロジェクターヘッドライトを中心に据えた新デザイン。スクリーンは角度を寝かせることで高速走行時の風圧を分散する。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの12画像

大型ラジエターを効率的に冷却するダクト形状。WP APEX 43倒立フォークはコンプレッション・リバウンド調整機能を備える。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの13画像

21インチスポークホイールにメッツラーKaroo 4を装着。オン・オフ両用で高いグリップを発揮する。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの14画像

アルミ製スキッドプレートがエンジンを下部から保護。エキパイの取り回しもスマートで、オフロード走行時の安心感を高めている。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの15画像

新設計の399cc水冷単気筒エンジン。低回転域のトルクを厚くし、長距離ツーリングでも疲れにくい特性を実現している。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの16画像

トレリスフレームは剛性としなやかさを両立。溶接部の仕上げも美しく、KTMのレーシングDNAを感じさせる。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの17画像

外装を外さずに点検可能なクーラントリザーバーを採用。オレンジフレームとの一体感ある配置が特徴だ。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの18画像

オレンジとホワイトを基調とした新グラフィック。390シリーズ共通のスラッシュラインが軽快な印象を与える。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの19画像

透明度の高いスクリーンと大型ハンドガードが標準装備。防風性能と軽快さを両立している。

【カワサキ ヴェルシス1000 SE 試乗記事】3代目に進化したオールラウンドツアラーの20画像

リンクレス構造のWP APEXモノショックを採用。プリロードとリバウンド調整が可能で、積載時の姿勢も安定。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの21画像

鋳造アルミスイングアームは高剛性・軽量。BYBRE製リヤキャリパーはABSオフモードにも対応する。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの22画像

18インチスポークホイールにKaroo 4を装着。悪路でのトラクションとオンロードでの安定性を両立している。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの23画像

シートは前後一体型。適度な硬さと緩やかなテーパー形状により、立ち座りの動作が自然に行える。

【カワサキ ヴェルシス1000 SE 試乗記事】3代目に進化したオールラウンドツアラーの24画像

14Lの燃料タンクはニーグリップしやすい形状。上部をスリム化し、オフロードでの操作性を高めている。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの25画像

リヤキャリアの装着を考慮したフラットな後端デザイン。キャンプツーリングにも対応する。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの27画像

新設計の5インチTFTディスプレイ。ナビ表示やスマートフォン連携が可能で、視認性も高い。

【KTM 390 アドベンチャー R 試乗記】軽さとハイパワーが同居するライトウェイトアドベンチャーの28画像

方向指示器やモード切替など主要操作を集約した左スイッチボックス。バックライト付きで夜間走行時の操作性も良好。

【カワサキ ヴェルシス1000 SE 試乗記事】3代目に進化したオールラウンドツアラーの29画像

スターター、キルスイッチを統合した右スイッチボックス。グローブ装着時でも確実に操作できる。

【カワサキ ヴェルシス1000 SE 試乗記事】3代目に進化したオールラウンドツアラーの30画像

コンプレッションとリバウンドの独立調整ダイヤルを備えたWPフォークトップキャップ。走行条件に合わせたセットアップが可能。

【カワサキ ヴェルシス1000 SE 試乗記事】3代目に進化したオールラウンドツアラーの31画像

シンプルなキーシリンダーと燃料キャップの配置。軽量化と信頼性を優先した構成。

【カワサキ ヴェルシス1000 SE 試乗記事】3代目に進化したオールラウンドツアラーの32画像

スプリングレートを見直したWP APEXショック。初期作動がしなやかになり、ダートでの接地感と街乗りの快適性を両立する。

【カワサキ ヴェルシス1000 SE 試乗記事】3代目に進化したオールラウンドツアラーの33画像

ステップは2WAY仕様で、ラバーを外すと鋭いギザ歯が現れる。オンロードでは快適に、オフロードではブーツソールをしっかりと噛むグリップ力を発揮する。

こちらの記事もおすすめです

この記事に関連するキーワード

新着記事

愛車を売却して乗換しませんか?

2つの売却方法から選択可能!

方法1.オークション

出品前買取相場が分かる!
3000社の中から最高入札店のみとやり取りで完結。

方法2.買取一括査定

業界最大級の加盟店数!
最大12社一括査定
愛車が高く売れるチャンス

メーカー

郵便番号

タグで検索