掲載日:2022年06月29日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
aprilia TUAREG 660
ピアッジオグループのメンバーとしてベスパ、モトグッツィなどと肩を並べるアプリリア。その中でもプレミアムスポーツバイクブランドとしての一翼を担っており、長年チャレンジしてきたロードレースでは、今年最高峰クラスにあたるMotoGPにおいて初優勝を果たしている。
原田哲也さん、坂田和人さん、そして現在MotoGPクラスに参戦中の中上貴晶さんなど、多くの日本人ライダーがアプリリアのマシンを駆ってロードレースで戦ってきたこともあり、レースフリークには知られたブランドである。そのアプリリアが新たに開発したモデル、トゥアレグ660は同社初となるミドルクラスのアドベンチャーバイクだ。今回はそのトゥアレグ660をフィーチャーする。
新開発ツインエンジンを採用したフルカウルスポーツモデル、RS660が登場したのは一昨年のこと。その後、フレームやエンジンなどを共通としたストリートファイタースタイルのトゥオーノ660が追加された。これらは軽量でありながら最高出力100馬力というバランスの良いパッケージングで、スポーツバイクファンを魅了したものだが、それから約1年経った2021年夏に、そのRS660やトゥオーノ660と同系のエンジンを搭載したアドベンチャーモデル、トゥアレグ660が発表された。
アプリリアのトゥアレグという名称を聞き、懐かしく思うのは古くからバイクに親しんだライダーだろう。実はアプリリアは1980年代ごろにも同名のオフロードモデルを生産していたことがあったからだ。そもそもアプリリアの歴史を振り返ると、自転車メーカーとして誕生した後、バイクの生産を開始した同社は、まずモトクロス用モデルを開発しレース活動を行っていったという経歴を持っている。現在も小排気量エンジンのオフロードモデルは手掛けているが、本格的なアドベンチャーモデルはトゥアレグ660が初めてとなる。RS660/トゥオーノ660というヒットモデルに搭載されるエンジンを採用したアドベンチャーモデルを実際に走らせてみることにしよう。
スタンディングポジションでハンドルの上に覆いかぶさりながら車体をコントロールできるよう、バーチカルにセットされたフロントカウルからも伝わってくるように、トゥアレグ660のスタイリングはラリーレイド的だ。グラフィックパターンに関しても、新しくもありながら、どこかしら懐かしさを感じさせる。この纏まりの良いデザインを手掛けたのはカリフォルニアにあるピアッジオ・アドバンスド・デザインセンターで、その主幹を務めるミゲール・ガルーツィは、ドゥカティ・モンスター、モトグッツィ・V7レーサー、アプリリア・RSV4など名車のデザインを多数手掛けてきた経歴を持っており、トゥアレグ660の凛々しい佇まいからもそのDNAは感じられる。
シート高は860mmと高く、オフロードモデルにあまり触れないライダーは、その高さに躊躇してしまうこともあるだろうが、ステップを利用してひとたび跨ってしまえば、サスペンションを沈み込ませる要領で何とかなってしまう。これは慣れだ。
エンジンを始動し走り出す。乾燥重量187kg、装備重量でも僅か204kgという車体はとにかく軽い印象だ。見晴らしがよく、リラックスしたライディングポジションなので、市街地での扱いもイージーである。並列ツインエンジンはトゥアレグ660のキャラクターに合わせてデチューンされており、最高出力80馬力、最大トルクは70Nmとなっている。低回転から粘りがありスロットル操作をラフにすると、簡単にフロントタイヤが浮き上がる。
高速道路を使い郊外へと足を延ばす。前後ともトラベル量240mmを誇る長いサスペンションストロークを活かしたクルージングは優雅なものだ。しかし6速トップ、4000回転で時速85キロとローギアード気味なところは、スポーツバイクブランドらしいとも言えるポイント。エンジン自体は高回転まで引っ張ると俄然元気な一面を味わえるので、やはり”攻めたい”ライダー向きなのだと思える。
フロント21インチ、リア18インチのタイヤ径は、未舗装路での走破性を求めたセットではあるが、ワインディングでも意外と軽やかなハンドリングを楽しむことができ気持ちが良い。もちろんダートでのコントロール性能も高く、オールマイティーなキャラクターが光る。
シフトアップ/ダウンともにクラッチレバー操作不要のアプリリアクイックシフトはオプション設定となっているが、お薦めできる装備であるし、前後サスペンション共にフルアジャスタブルタイプなので、ステージやシチュエーションに応じて調整すると、さらにライディングに集中して楽しむことができるだろう。日常的な使い方をしたところ、ボードコンピュータ上での燃費はおおよそ20km/Lを指し燃費も良い。同クラスのライバルは何モデルか挙げることができるが、スタイリングや装備を踏まえると、トゥアレグ660は良い選択と言えるだろう。
ボアストロークを81×63.93mmとする659ccDOHC4バルブ並列2気筒エンジン。RS660に採用される同系エンジンと比べ最高出力、最大トルクともに発生回転数を低めにリセッティングされているほか、オイルパンを変更し、240mmを超える最低地上高を確保した。
チューブレスタイヤの装着が可能なクロススポークホイールを採用。タイヤサイズは90/90-21と本格的なオフロード仕様。ブレンボ製ブレーキキャリパーは2ピストンのオーソドックスなタイプだが、タッチ、効きともに良い。
アプリリアのアイデンティティとも言える3分割スタイルのヘッドライトと、その上に垂直に立ててセットされた大きなクリアスクリーンにより、印象的なフロントマスクを表現。スクリーンの防風効果は高く、高速道路でも快適なクルージングを楽しめた。
オフロード走行時にもしっかりとした車体コントロールをもたらすワイドなステップ。オフロードブーツ時にはゴムカバーを外しさらにグリップを高めることもできる。アプリリアクイックシフターはギアの入りも良く、装備したいオプションだ。
シート高は860mmとやや高めだが、走り出してしまえば気になることはない。クッション性が良く長時間乗車も苦にならなかったし、フラットなシート形状はシッティングポジションの自由度が高い上にキャンプ道具などの荷物の積載もしやすそうだ。
アプリリアのキャッチコピーである『#be a racer(レーサーであれ)』が右上に表示される5インチTFTスクリーン。ライディングモードはプリセットとカスタマーセットを合わせて4パターンが用意されている。
左側のスイッチボックスにある十字ボタンでディスプレイ内の項目をコントロールすることができる。上部にはクルーズコントロールスイッチも備わっている。アップライトなバーハンドルは、スタンディングポジションでも最適だった。
車体エンド部に収まるようにデザインされたLEDテールランプ。デザイン性の高さはアプリリアの魅力の一つだ。異形サイレンサーはオフロードモデルの定石通り高い位置にセットされている。
湾曲タイプのアルミ製両持ちスイングアームにセットされるリアタイヤのサイズは150/70R18。ストック装着タイヤはオンロード、オフロードともにバランスの良い、ピレリ・スコーピオンラリーSTR。
燃料タンク容量は18リットル(内リザーブ3リットル)。テスト時の燃費は一般的な走行で20km/1Lだったので、航続距離は十分だと言える。サイドパネルの形状からか、エンジンからの放熱で走行中に膝周辺が熱くなることが少々気になった。
リアサスペンションはKYB製フルアジャスタブルモノショックが採用されている。プログレッシブリンクを介してセットされており、動きや接地感のインフォメーションは良かった。
シート下にはバッテリーが収められており、ユーティリティスペースはほぼ無い。書類や説明書などが入る程度の僅かなスペースを使い、テスト車両ではETC車載器が装備されていた。
オプション設定のパニアケースは車幅こそ広がるものの、ツーリングをする際には便利な装備だ。上蓋タイプではなく、横開きの蓋は、ロックし忘れや、積載しすぎを防ぐことを考えてもメリットがある。
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